Episode 16
『……それでですねー、その正体不明と言われる艦隊なんですが、正体がわからないということが、そもそも問題でしてね……』
市内の臨海地区にあるセリカのマンションから、少し離れた港湾エリアの宇宙軍基地に向かうため、乗り込んだ自家用エアカーの中でテレビをつけて見ると、ちょうど午前中の情報番組で第67空間打撃部隊壊滅のニュースをやっているところだった。
画面の中では軍事評論家の肩書きを持った人物が、しきりに軍の対応を批判する発言を行っている。
『……とにかく、正体がよくわからないから海賊か何かだろうと、ろくな情報収集も行わず、とりあえず近隣にいた艦隊を差し向けてるんですね、宇宙軍は。そしたら、相手は海賊なんてもんじゃなくて、非常に強力な艦隊だった……こんな杜撰な対応はないですよ、将兵の命と、国民の血税で造った艦艇をなんだと思ってるんでしょうかね……』
『……では、相手は海賊などではないということですか?』
『違うでしょうねー、虎の子の巡洋戦艦3隻を轟沈できる海賊なんていませんよ』
軍事評論家とキャスターのやり取りに、文化人類学者という肩書きの女性が割って入った。
『……私は、120年前の、ジューンとメビウスの文明遭遇に似た状況だと思いますね。まだ断定はできませんが……』
『パレスさんは、この艦隊が未知の異星人だというお考えですか?』
若い女性キャスターの問い掛けに、「ネオムーン州立大学教授・文化人類学者パレス・ノーム」というテロップを付けられた女性学者が答えた。
『はっきりとは言えませんけどね、可能性はあると思うんですよ……』
女性人類学者はフリップボードを前に置いて説明を始めた……。
人類の、過去3回に渡る異星文明同士の遭遇によって、わかったことがいくつかある。
そのうち1つは、高度に発達した文明同士は似てくる、ということであった。
それぞれ別々の惑星上で発生し、それまで接点のなかったはずの文明同士が、出会ってみると、なぜか非常によく似ている。
その理由としては、どこの惑星上であろうとも、この宇宙の中である限り、自然科学の法則は同じだから、という説明が成されている。
つまり、機械的な動力を得ようと思えば、有機生命体が住む惑星ならばどこにでもある化石燃料を使用した内燃機関に行き着くのは自然の成り行きであり、地上を移動するのには車輪、空を飛ぶには翼、高速を出すため空気抵抗を減らそうと思えば流線形……というふうに、どうしても同じ発展経緯をたどってしまう。
それどころか、水などの液体を入れておくにはコップやバケツのような形状、体表面を保護するために衣服、快適に過ごすためにエアコン、遠方と通信するのに電波、さらに、知的生物としての精神活動の結果としての文化、芸術……。
果ては民主主義の概念や、社会福祉の考え方まで、より高度に発達した文明ほど、互いに相似性を増して行くことが、過去の歴史から知られている。
しかも、遭遇時点での文明の発達レベルが、なぜか比較的似通っているという事実がある。
唯一の例外として、ガリア星系の未開種族との遭遇があったが、他の2回は、いずれも科学力も、思想文化の点でも、数十年程度の差はあるものの、ほぼ拮抗していた。
これについて、はっきりとした結論は出ていないが、いかなる星の文明であっても、その端緒には「宇宙の発生」という同一起源があるからではないか、と考えられている。
無論、それだけでは説明のつかないことも多いのだが……。
もう1つ、過去の文明遭遇からわかったことは、各人類の生物学的相似であった。
およそ文明を持つ知的生命体の外見はすべて、直立2足歩行、さらには顔の造形や、手足の指の数まで同じであり、皮膚や髪の色が若干異なることがある程度である。
さらに遺伝子配列までもほぼ同一で、互いに交配まで可能ときては、これはもう宇宙最大の謎とさえ言われている。
人類以外の動植物でも、異なった複数の惑星上に、近似種や同一種の存在が確認されている。
これらに対する学術的な説明としては、
「生物の生息可能な惑星はどれも似たような環境にあり、惑星自体の組成もほぼ同じであるため、生命の誕生から現在まで、全く同じような進化の過程をたどったから」
という、やや無理があると思われるものや、
「はるか昔、有史以前に全銀河を股に掛けた超古代星間文明があり、それがある日、何らかの災厄により崩壊した。現在各惑星上に存在する人類は、この時、それぞれの星に取り残された人々の子孫であり、もともとが1つの種なのである」
とか、
「まだ科学的には未発見の『異次元トンネル』のようなものがあり、かつて、1つの惑星上に発生した人類をはじめとする生物は、それを通って、何千光年も離れた惑星上に移動して行ったのである。もし、この『異次元トンネル』が発見できれば、現在の宇宙航行技術は、大改革を迎えるはずだ」
というようなトンデモ説に近いものまで、様々なことが言われている。
いずれにせよ、相似する文明を持った宇宙人との遭遇というのは、その頻度こそ多くないにせよ、実際に起こり得ることなのであった。