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A.D.2222  作者: 日渡正太
第2話 第1次アーレン会戦
15/32

Episode 15

 4月7日午前9時20分、ネオムーン市セリカのマンション――。


「…………」

「…………」


 アヴァロン惑星連邦宇宙軍宇宙空母「ブルーウィル」艦長のセリカと航海長で婚約者のクオレは、リビングで向かい合ったまま座っていた。


 クオレがソファに腰掛け、セリカが床の絨毯の上に正座しているというポジションである。


「で、これからどうするの?」

 クオレがもう心底憔悴しきったという表情で口火を切った。


「すいません……」

「謝ってどうすんの!」

「え? いや……」


 周囲にはまだ割れた皿だの、倒れた家財道具だのが散乱していて、昨夜の惨状を物語っている。


 あの後、警官には叱られ、両隣と階下の住民からは文句を言われ、マンションの管理人からは「今度こういうことがあったら出て行ってもらう」と言い渡された。

 サーナ一家はボロボロの父親を引きずって帰って行った。


「あんた、これからあたしとどうしたいの!? 昨日は、その……愛してるとか、なんとか言ってたけどさ……! なんか、あたし、ずっと放っとかれてて、あんた、いつまでもちゃんとしてくれないし……! 今回のこともあるし……もう正直疲れたっていうか……あんたがどうでもいいなら、もう別に……」


「結婚しよう」

「は……?」


 一瞬、耳を疑った。


「ええと、待たせて悪かった。結婚してくれ……ください」

「この期に及んで、何言ってんの、あんた?」


 開いた口が塞がらないとは、まさにこのことだった。


「今までちゃんとしてなくて、申し訳なかったです。心の底から愛してます。あなたしかいません。だから結婚してください。お願いします」

「…………」


 10年待った結果がこれだろうか!?

 最悪のプロポーズにも程がある!


 しかし……これを逃したら、もう自分には後がないような気がする……。

 曲がりなりにも10年以上付き合ってきたということもあるし……こいつ、いちおう軍では出世コースだし……。


「いや、あの……突然、そんなこと言われてもさ……」

 頬を少し染めて目を逸らすクオレに、絨毯の上のセリカが擦り寄ってきた。


「俺、これからは心を入れ替えるよ。もう、おまえしか見ない。今回のことでよくわかった。おまえ以外いないんだ」

 そんなことを言いながら、手を握ってきた。


「でも……だって……」

 そのまま抱き締められた。


「や……! ちょっと……!」

「愛してるぜ」


「やだ、ダメだって……!」

 唇を重ねられた。


「んっ……」

 やがて唇を離したセリカが、すぐ近くから見つめながらこう言った。


「いいだろ?」

「…………うん」

 思わず頷いてしまった。


 ああ、自分はどうしてこんなに安い女なんだろう?

 こんなことだから、こんな男に引っかかって、こういうことになるのだ。

 でも……まあ……いいか……。


 そんなことを思いながら、クオレがセリカの胸に顔を埋めた、その時……。


 ピロリロリロリ~♪

 セリカの携帯電話端末の着信音が鳴った。


 少し不満そうな顔をしているクオレをよそに、セリカが携帯端末に手を伸ばす。


「はい、もしもし……あ、親父さん、どうしたの、何かあった?」

 電話の相手は、今も「ブルーウィル」で当直業務に就いてくれているレッド副長らしかった。


 彼が、こちらの非番中に電話してくるなんて、珍しいことだ。

 フネで何かあったのだろうか?


「……え、そうなの!? ほんとに? ニュースでやってる? ああ、ごめん、ちょっとプライベートで立て込んでて、テレビとか見てなかったわー。で、うちに回って来たの? ……そうか、そう言われたんじゃ、行くしかないよねえ……。わかった、すぐフネに戻るわ、うん、それじゃあ」


 セリカが携帯端末の通話ボタンをオフにして、テーブルに置いた。


「何かあったの?」

「非常呼集だって」

「え?」


「例の変な海賊艦隊、いたじゃん?」

「ああ、うん……」


「あれに味方が返り討ちにあったって」

「何それ!?」


「巡洋戦艦3隻轟沈だって。有り得ねえよな……」

「……で、うちが出るの?」


「うん、『第33機動部隊は直ちに出動しこれを殲滅せよ』ってことらしい。しゃあねえな、とにかくフネに戻ろう」

 セリカが立ち上がった。


「う、うん……」

 緊張した面持ちのクオレも後に続く。


「あ、そうだ」

 セリカが不意にクオレの肩を抱き寄せた。


「え、何?」

「幸せにしてやるぜ」

「こんな時に何言ってんの!」

 クオレは真っ赤になりながら怒鳴った。

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