Episode 14
元巡洋戦艦「ベイリア」乗組みの情報士官カレン・カレイルは、惑星ハーレイに帰還途中の「カドニアス」艦上で、情報本部に提出するレポートの第2弾を作成中だった。
「あんまり根詰めないほうがいいっスよ」
いつもコンビを組んでいる偵察機パイロットのポールが、コーヒーを入れてくれる。
「有り難う」
にっこり笑顔でマグカップを受け取ると、ポールがポッと顔を赤くした。
あの悲劇的な戦闘の後、無事「カドニアス」に帰還して格納甲板に降り立ったとき、助かったことが嬉しくてつい、「守ってくれて有り難う!」と涙を浮かべてポールに抱きついてしまった。
それ以来、この若い男性パイロットは、何かと自分にまとわりつくようになり、暇なときは仕事を手伝ってくれるようにもなった。
彼もパイロットなのだから、こんなことをしているより、ちょっと自主訓練と称して、カタパルトから飛び出して、2、30分でも艦の周囲を飛んでくればいいのだ。
連邦宇宙軍の艦載機パイロットは、飛行時間に応じて給与に手当てが加算されるので、みんな自主訓練が大好きなのである。
「しかし、未知の異星人による侵略スか……子供の頃にそういうの、読んだことあるっスけど……」
ポールが自分もマグカップを片手に、カレンがレポート作成中のモニター画面を覗き込んだ。
「あ、私のこと、バカにしてる?」
「いや、してないスけど!」
慌てて否定する彼の様子がおかしくて、くすっと笑った後、カレンは目の前のモニターに視線を戻した。
あの正体不明の艦隊について、カレンの出した結論がこれだった。
未知の異星人、というのは決して有り得ない話ではない。
現に、この銀河系中心部でも、過去に異星文明同士の遭遇は起きている。
それぞれ別々の惑星上に発生した人類が、やがて文明を持ち、宇宙に進出して、別の文明圏と出会う。
技術力の拮抗した星間文明同士が出会う場合もあれば、未開人種の惑星に、先進惑星からの宇宙船がやって来て、科学文明を伝えたような例もある。
現代の銀河系社会は、そうした、それぞれ別々の惑星上に紀元を持つ、いくつかの人種が入り混じって構成されている。
ちなみにカレンは、アヴァロン惑星連邦の旧宗主国でもあるジューン王国連合の本星、惑星ジューンに紀元を持つジューン人である。
現在のアヴァロン惑星連邦の人間は大半がそうであった。
惑星ジューンの地上に誕生した人類は、やがて宇宙に進出し、他の文明と出会い、それらと交じり合って社会を形成してきた。
このアヴァロン惑星連邦のように、他の星系に進出したジューン人がそこで独立国家を築くような例もあるし、またそこに別の移民が入ってきて……。
そうやって人種や文化が入り混じって、社会が形成されていく。
ただし、そんな文明同士の出会いというのは、普通100年に1度も起こらない。
だから「SF」なのである。
惑星ジューンの衛星軌道上を、初めての有人宇宙船が周回飛行を行って約500年、これが歴史上4度目の、未知文明との遭遇になるのかどうか……。