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A.D.2222  作者: 日渡正太
第2話 第1次アーレン会戦
13/32

Episode 13

「君は、ものの弾みや、雰囲気や、流れで、うちのサーナと事に至ったと、そう言うんだね?」

「はい、そうです」


「場の雰囲気、ものの弾み、流れ、非常によくわかる話ではあるが……よくわかるが……わかるんだよなあ……」

サーナ父がしみじみと頷いた。


「あなたは何を言ってるの!?」

 サーナ母が眉を吊り上げて夫を睨んだ。


「いや、サーナだってもう子供じゃないんだし、一方的にセリカさんが悪いとは……」

「あなたっ!! いったいどっちの味方なんですか!?」

「いや、わしはただ……」


「お父さん、わかっていただけますか!?」

 セリカが身を乗り出した。

「うむ、まあ…こういう場合、いつも男が悪いという風潮は、やっぱり、その……」


「有り難うございます、お父さん! 仰る通りです!」

「うむ、君もそう思うか?」


「はい! 男女平等の世の中と言いながら、こういう時に責任を被るのはいつも男! 前々から、これはおかしいと思っておりました!」

「いや、全くその通りだ!」


「あなた――――っ!! いい加減に……!」

 再度、金切り声を張り上げるサーナ母の目の前に、突然、何か長い棒のようなものが突き出された。


 見ると、セリカの婚約者であるクオレとかいう女性が、長い柄のついたモップを自分に差し出していた。


「え、なんですの?」

 意味がわからないまま、ぐいと押し付けるようにされて、つい受け取ってしまう。


 続いてクオレは、呆然と事態を見守っているサーナに、同じく柄の長い箒を手渡した。

 そして自分は、掃除機の吸い込み口がついた長いパイプを手にして、唖然としている母娘に向かい、親指でクイッと、意気統合している男2人を指差し、うなずいた。


 さすがにサーナ母娘にも意味がわかった。

 3人は互いにうなずき合うと、それぞれの得物を手に、男2人の背中ににじり寄った。


「いやあ、ボク、お父さんとは気が合いそうです!」

「うむ、良ければ今度飲みに行かんかね……うおっ!? 痛い! 母さん、何をする!?」


「あなた――――――っ!!  あなたは、昔からそういう……!」

「母さん、すまん、わしが悪かった!」


「うわ、クオレ、こら、いてえ! やめろ! 死ぬ!」

「死ね!! この浮気者! 甲斐性なし!」


「セリカさん、死んでください! お父さん、大嫌い!!」

「すまん、クオレ、サーナ、俺が悪かった!」


「若い女と遊んでないで、さっさとプロポーズしろ! こっちはどんだけ、どんだけ……!」

「ごめんなさい! もうしません!」


 長物が振り下ろされ、皿や花瓶が飛ぶ。

 やがて隣の部屋の住民が気づいて警察を呼ぶまで、この騒ぎは続いた。




 アヴァロン惑星連邦首都ネオムーン市にある宇宙軍情報本部では、アーレン宙域で撃沈された巡洋戦艦「ベイリア」飛行分隊所属の情報士官カレン・カレイルから送られたレポートを前に、幹部達が顔を突き合わせていた


 偵察機ベイリア2号機が撮影した膨大な量の敵艦の画像、針路、速力などのデータ、実体弾を発射する主砲や、その他素性のわからない大量の搭載兵器の拡大画像。

 そのどれもこれもが、この艦隊の正体を突き止めるに当たって、何の参考にもならなかった。


「普通、偽装が施されていても、元の形はわかるもんなんだがなあ……」

 近接防御用らしいレーザーか何かの小型の砲塔と、何かのレーダーか通信用設備と思われるアンテナの細部拡大画像を見ながら、幹部の1人が溜め息をついた。


 搭載兵器の製造元がわかれば、そこから艦隊の素性がたどれるかもしれないのだが、そこに写っている兵器群は、どれもこれも彼らの誰1人として見たこともなく、あらゆるデータベースにも載っていないものばかりだった。


 専門家の彼らが調べてもわからないということは、即ち、彼らの知る銀河系世界で普通に製造されたものではないということになるのだが……。


「敵の主砲は百発百中ということだったが……」

「初弾から当ててきたそうですからね、よほど優秀な射撃指揮装置を持っていて、兵員の練度も高いんでしょう」


「そんな海賊がいるか?」

「海賊という線はもう捨てたほうが……」


「虎の子の巡洋戦艦3隻が、ほとんど瞬時に沈められた件は……」

「大型艦であっても、例えば艦尾のロケットノズルとか、弱いところに被弾すれば瞬間的に轟沈は有り得ます。艦橋や射撃指揮所に命中弾があれば、一瞬にして戦闘不能に陥ることもあるし……前々から言われていたことです。これまでにも例があります。大型艦を過信してはいけません」


「敵艦の艦尾のところに、文字みたいなものが見えるな、艦名か?」

「文字……に見えますが、何語なのかわからないんですよね」


「この艦橋の後ろに見える旗みたいなのはなんだ?」

「旗……ですよね、宇宙なのに」


「旗の上に横棒をつけて、はためいているように見せているな」

「まあ、宇宙じゃ風がないから……」


「この旗に描かれたマークはなんだろう? 白地に、赤い……恒星か?」

「恒星から、フレアが放射状に出ている図柄に見えますね」

「見たことないマークだな……」


「で、結論はどうなるんだ? どこから来たのかもわからない正体不明の宇宙艦隊が、ある日忽然と現れて、我々の知らない兵器で攻撃してきた。船体には見たこともない文字と旗。これはつまりなんだ?」

「…………」


 その場の全員が一様に押し黙った。


「SFじゃないんだし……」

 誰かがぽつりとそう言った。

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