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A.D.2222  作者: 日渡正太
第2話 第1次アーレン会戦
12/32

Episode 12

 4月5日午後8時30分、ネオムーン市セリカのマンション――。


 この日、宇宙空母「ブルーウィル」の若き艦長セリカ・セレスターは、自宅のリビングで、婚約者のクオレ・グリーン、浮気相手のサーナ・ワレンドル、そしてサーナの父母という、かなりきつい組み合わせで、向かい合っていた。


 テーブルを挟んで手前側のソファにセリカとクオレ、奥側にサーナ一家という、座席配置である。


 さっきから、すごく気まずいというか、緊迫した空気の中、5人は押し黙っていた。


まずサーナ父が口火を切った。


「セリカさん」

「はいっ!」


「私は何もあなたを怒りに来たのではない。あんなに小さかったサーナが、いまや恋をする年齢になった。喜ばしいことと思っています」

「は!」


「それでサーナとは、真剣なお付き合いをしていただいているのでしょうな?」

「…………」


 続いてサーナ母も、努めて優しい声で語りかけてきた。


「セリカさん、サーナのことは、責任を取っていただけるんですよね?」

「…………」

「こちらの婚約者さんとは、別れていただけるんですよね?」

「…………」


 黙ったままのセリカを、歯がゆい思いでクオレは見ていた。

 もう本当に、この男とは別れたほうがいいんだろうか……。

 なんだか、ひどく疲れた……。


 当事者であるサーナ本人は、不安そうに俯いたきりだ。

 きっと大人しい、お淑やかな子なのだろう、黙ったまま目に一杯涙を浮かべている。


 清楚なワンピースを纏った姿は、なかなかに可愛らしい。

 しかも自分より若い。


 セリカには、こういう子のほうがいいんじゃないだろうか。

 三十路前、行き遅れの自分などより、よっぽど……。


「ね、セリカさん、そうなんですよね? サーナを選んでいただけますよね?」

 母親が畳みかけてきた。


 セリカが助けを求めるような目でクオレを見てきたので、思わず「自分でなんとかしろ!」という意味を込めて、睨み返す。


 自分に助けを求めてどうするのか、この阿呆は。

 でも、セリカはどういう結論を出すんだろう……。


 サーナ父が穏やかな口調で、再び口を開いた。


「そちらの婚約者さんと、きっちり別れてさえいただければ、うちは何も文句はありません。あなたは職業もしっかりした方だし、サーナをよろしくお願いしたい」


 自分の父とよく似た禿頭のサーナ父がそういう言葉を発するのを聞くと、なんだかそのほうがいいのかな、とクオレは本気でそう思えてきてしまう。


 自分も両親を同席させたほうが良かっただろうか。

 でも若いサーナとは違い、自分はこの場に親を呼ぶほど子供ではないのだ。


「ね、セリカさん、サーナを選んでくださるんですよね?」

 サーナ母が身を乗り出して、懇願するようにセリカに語りかけた。


「えっと、あの……」

 やや気圧されながら、セリカが口を開いた。


 来た! とクオレは思った。

 どんな結論を突きつけられても、覚悟はできている、と思う。


 でも……。


「えーと、クオレとは別れません」

「はい……?」


 きっぱり言い放ったセリカの言葉に、サーナ母は、ぽかんと口を開けた。

 サーナが口元を手で覆うようにして、肩を震わせている。嗚咽をこらえているようだ。


「自分は、ここにいるクオレを愛しています、だから別れません」


 セリカははっきりとそう言い切った。

 こんな状況なのに涙があふれてくる自分を、いったいどこまで安い女なんだと、クオレは心の中で罵った。


「じゃあ、うちのサーナは、どうなさるんですか!?」

 サーナ母が金切り声を張り上げた。


「サーナさんとは遊びです」

「あ、遊び!?」


「はい、遊びというか、ものの弾みというか……サーナさんとは、軍の独身者と、サーナさんの大学の女の子達との合コンで出会って、あ、自分婚約者いるんですけど隠して出てて、そこでなんかいい雰囲気になって、後は流れというか……」


「あなたは雰囲気や流れで、うちのサーナを自由にしたんですか!?」

「その通りです、すみません」


サーナ母がサーナ父の腕を引っぱった。

「あなたも、なんとか言ってくださいよ!!」


「セリカ君」

 それまで険しい表情で、腕組みしたまま黙って聞いていたサーナ父が、カッと目を見開いてセリカを見据えた。

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