Episode 11
旗艦「ベイリア」が爆散していた。
ベイリア2号機の機上からも、爆炎とともに四散する巡洋戦艦「ベイリア」の巨体が、はっきりと見て取れた。
「うわ、うわわわ!」
若いパイロットのポールが、意味のない叫び声を上げ、
「何、これ……?」
情報士官のカレンは、そのまま息を飲んだ。
2番艦「オーサニック」の艦橋からは、前方わずか1.2宇宙マイル(約2千キロメートル)を航行する「ベイリア」が、一瞬で爆沈する様が手に取るように見えた。
「オーサニック」艦長は、すぐさま面舵を切って爆炎に包まれる僚艦を避けようとしたが、艦には超光速の行き足が付いている。
2千キロなどという距離はあってないようなものだ。
ガン! ガン! ガン!
「オーサニック」はもろに「ベイリア」の残骸に突っ込み、バラバラになった構造材が船体にぶつかった。
「敵、再び発砲!!」
緊迫したオペレーターの声が、艦橋にいる全員の耳に飛び込んできた。
「回避! ハードスターボード(面舵一杯)!」
艦長がそう命じたが遅きに失した。
艦尾の可変ロケットノズルが向きを変え、舷側の姿勢制御バーニアが火を噴き、舵が利き始める前に、敵弾が艦尾寄りの舷側に命中した。
艦の周囲の重力フィールドと装甲を一気に突き破った敵の徹甲弾が、機関部付近で炸裂し、艦全体が巨大な火球に包まれた。
3番艦「ハルバード」の艦長セオドア・ノリスは、目の前で何が起きているのか、把握できなかった。
1番艦、2番艦がともに一撃で轟沈し、何か大きな残骸が「ハルバード」の舷側にぶち当たって、被害が発生していた。
沈んだ味方の救助がしたいが、それどころの状況ではない。
ともあれ現在、提督、旗艦艦長、2番艦艦長がともに生死不明であり、この場合、3番艦艦長の自分が先任艦長として、艦隊の指揮をとらねばならない。
セオドア・ノリス艦長は、艦隊に変針を命じた。
主戦力の半数を失った今、戦場から遠ざかって、撤退する道を選んだのである。
最大戦速で全力射撃を続けながら先頭を行く「ハルバード」に敵弾が集中した。
艦首に1発、艦尾に2発の命中弾を受け、機関出力低下、射撃管制システム停止の損害を受けた「ハルバード」は、機関内圧が制御できず、危険な状態となった。
セオドア艦長は総員退去を命じ、艦を放棄して乗員を救おうとしたが、ほとんどの乗員が退艦する前に、「ハルバード」は機関部を中心に大爆発を起こし、火の玉となって爆沈した。
「ハルバード」が後半戦の被害担当艦のような形になったため、4番艦「カドニアス」と残りの巡洋艦、駆逐艦の群れは、どうにか戦場を遠ざかりつつあった。
逃げずに戦場に留まり、味方を救助するという案も出たが、現実にはとても無理な話だった。
最高指揮官となった「カドニアス」艦長セイレイ・ストーンは、「いったん戦場を離脱し、敵が去った後、再び舞い戻って沈められた味方艦の乗員を救助する」と残存の艦隊将兵に告げて、全速力で惑星ハーレイ方面に向かった。
味方の撤退を援護するため、3隻の駆逐艦から牽制の対艦ミサイルを10発以上発射したが、それが効果があったのかどうか、敵はあまり深追いをしてこなかった。
戦闘開始からわずか30分、この短時間の戦いで、第67空間打撃部隊は、主力である巡洋戦艦3隻の喪失という、壊滅的な損害を被っていた。
「ベイリア2が収容を求めています」
母艦を失った旗艦「ベイリア」の偵察機が、同型艦である「カドニアス」に追いすがってきていることを、通信士が告げた。
「着艦を許可してやれ」
セオドア艦長はそう命じて、ベイリア2号機に搭乗している情報士官カレン・カレイルのことを思い出した。
情報解析の専門家である彼女は、とにもかくにも2時間以上、この正体不明の敵艦隊の間近で触接を続けていた。
彼女のもたらすであろう報告は、連邦軍にとって、貴重なものになるはずだった。