Episode 10
偵察機ベイリア2号機のコクピット後席で、カレンは味方の第1弾が飛んで来るのを見た。
初弾観測急斉射とは、最初の1回だけ試射を行い、その弾着を見て照準を修正し、以後連続して急斉射を行う、というまあまあオーソドックスな射撃法だ。
味方の初弾36発は、その全部が敵艦隊の上方を通過した。
「惜しい!」
パイロットのポールが悔しがり、
「弾着高い! 仰角修正マイナス六度願います!」
カレンの声がヘルメットのレシーバーを通して各艦の射撃指揮所に伝わり、戦術データリンクに誤差の数値が表示される。
超光速で運動する艦艇同士の砲撃は、現代の射撃管制システムを持ってしても、命中率は10パーセントがいいところだ。
とにかく、敵より早く命中弾を得なくてはならない。
「仰角修正マイナス6!」
「ベイリア」の射撃指揮所では直ちに新たな発砲諸元が入力され、各砲塔に伝達される。
「て――――っ!!」
砲術長の号令とともに、第2射が発射された。
今度は低い!
第67空間打撃部隊の2度目の斉射は、敵艦隊の下方を通り過ぎていった。
「仰角高め、プラス3!」
再度照準の修正が行われる。
次の斉射では、それぞれの火球が、敵艦隊を上下に挟むようにして、その至近を通過した。
「弾着夾叉! 照準固定! そのまま急斉射願います!」
偵察機上のカレンの指示で、味方の照準がロックされ、そのままつるべ打ちの急斉射に移った。
2回、3回と夾叉弾が続く。
このまま撃ち続ければ、やがて命中弾が得られる道理だが……。
ベイリア2号機のコクピットから、ヤキモキしつつ味方の弾着を見守るカレン。
その目に、敵の大型戦艦2隻の甲板上にある計8基16門の主砲塔が、ゆっくりと一斉に旋回して左舷に指向されるのが見えた。
「敵主砲、旋回中、間もなく砲撃来ます!」
カレンは味方に危険を知らせた。
敵の発砲前に命中弾が得られればいいのだが……。
これだけ夾叉弾が続いているのに、敵はとくに回避運動を行う様子もなく、悠々と照準を合わせているように見えた。
そして――。
突如、またしても盛大な発砲煙が敵の全砲塔から上がり、例の奇妙な実体弾の砲弾が一斉に発射された。
「敵発砲っ!」
カレンがヘルメットのレシーバーに叫ぶ。
彼女の全身に冷や汗が流れた。
旗艦「ベイリア」の電測員、パニス・ウォリスは、ベテランの中年女性オペレーターである。
「敵発砲! 弾着来ます!」
やや太ましい中年女性らしいシルエットながら、それなりに美人のパニスが、緊張した面持ちで、オペレーター席から振り向いて告げた。
「うむ!」
グローディ提督は落ち着き払ってうなずいた。
初弾から命中など、そうそうあるものではない。
先に射撃を開始し、すでに夾叉弾まで得ているこちらのほうが、圧倒的優位のはずだ。
敵発砲から弾着まで、およそ30秒程度……だったが、
「うわ、これはダメ! 来ます! たぶん直撃!」
パニスが引きつった表情で叫んだ。
「直撃!?」
提督、先任参謀はじめ、戦闘艦橋のスタッフが一斉にパニスのほうを振り向いた。
同時に真下にある第2艦橋から、旗艦艦長の声がレシーバーを通して響いた。
『たぶん直撃になります! 気をつけて!』
「みんな、何かにつかまれ!」
グローディ提督が叫ぶのと同時に、ものすごい振動が「ベイリア」を襲った。
その場にいた全員が床に投げ出され、グローディ提督は何かに激しく頭をぶつけて、意識を失った。