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魔女と使い魔のバタバタな日々  作者: 時雨瑠奈
命を狙われる魔女
4/35

男は魔女に求婚する

 使い魔少年アルト=ハルメリアは、女主人と

その親友と共に、お茶会の誘いを受けて

城下町に来ていた。

 いきなり命を狙われたため、慌てて三人で

逃げて来たのでもうへとへとだった。

 アルトの金の髪も、スピカ=ルーンの星の

髪飾りで結わえた雪のように白いツイン

テールも、リイラ=コルラッジの大人びた

ブルネットの髪もぐしゃぐしゃだった。

「スピカさん、平気ですか?」

「……ん、だい、じょう、ぶ……」

 明らかに大丈夫ではなかった。

スピカ顔はひどく真っ青で、まるで病気に

でもなったかのようだった。

 魔女は体力が常人より低いというのも

あるだろうが、それだけではないだろうと

アルトは思っていた。

 実は、彼女は人を殺したらしいのだ。

その敵を討ちに来たのが、スピカが殺した

男の妹らしい。

 アルトには彼女の事情は分からなかった。

ただ分かるのは、スピカが人を殺した事で

自身をも傷ついている、という事だけ

だった。

「スピカ、もう今日は帰る? どうする?」

 彼女の親友であるリイラが心配そうに

スピカに聞いた。

 スピカは黙って首を振り、かなり無理をして

笑う。アルトは何か言いかけたが、紅い目で

ギラリと睨まれては黙るしかなかった――。


「行こう」

 三人が歩き出した、その時だった。

どん!と一人の男が彼女にぶつかって来たのだ。

 少しふらつき気味だったスピカはバランスを

崩しそうになり、リイラに慌てて抱き留められた。

 アルトが心配そうに青い瞳を曇らせる。

「ぼけっとしてんじゃねえよ! 邪魔だ。

邪魔!!」

「そっちからぶつかってきたんでしょう!?」

 リイラがカッとなって男を怒鳴りつけた。

スピカは何も言わず、男を無言で睨むように

見やる。氷のように冷たい視線だった。

 殺気を感じさせるようなその視線に、リイラと

アルトは少しだけぞっとなったが、どうやら

この男は違うようだ。

 男の顔がみるみるうちに赤く染まった。

げっ、と呟いたのは、アルトだろうか、それとも

リイラだろうか。

「お譲ちゃん、可愛いな。その可愛さに免じて

許してやらないこともないぜ」

「そりゃあどうも」

 無愛想にスピカが言い返す。リイラはまだ腹を

立てていて、何よ、偉そうに!と小声で毒づいた。

「名前はなんて言うんだ? 俺はエトワール・

クロウ・リルアラ。リルアラ子爵だよ。

ちなみに親父は伯爵だ」

「スピカ=ルーン……」

「スピカか……。お前、俺と結婚しないか?」

 スピカが口をOオーの形にしたまま固まった。

リイラがいきなり何言うのよ!!と怒鳴る。

 そしてアルトは、むうっと頬を膨らませ、男と

スピカの間に割って入った。

「ちょっと! 僕のマスターをくどくの、

やめていただけませんか!?」

 明らかに大人しいと思っていたアルトが怒った

様子に、スピカはただ首をかしげ、リイラは面白

そうにへぇ、と呟いた。

 エトワールと名乗った男は、刃向われてムッと

したらしくアルトの胸倉を掴んだ。

 抗議する間もなくアルトの頬に拳を叩きつけ、

アルトが吹き飛んでその場に叩きつけられる。

「う……っ!」

「俺に慣れ慣れしく口を利いてんんじゃねえよ、

使用人風情が!!」

 カッとスピカの紅い目が怒りで燃え上がった。

冷たく、しかし熱い炎が、彼女の中で渦巻いていた。

 彼女の怒りに呼応するように、鋭い雷がスピカの

周囲で鳴り続けていた。髪飾りとゴムが彼女の髪から

はじけ飛び、ばさり、と白い髪が逆立った。

 あーあ、怒らせちゃった、とリイラが呆れたように

肩をすくめている。

「私の所有物モノを殴っていいのは、私だけよ」

 バキッという鈍い音と共に、今度殴られたのは

エトワールと名乗ったあの男だった。

 端正な顔に小さな拳が綺麗にめりこみ、男はかなり

遠くまで飛ばされた。

 唐突なスピカの激しい怒りに、アルト達が目を丸く

している。スピカは何事もなかったかのように、ゴムと

髪飾りをつけ直し、二人に目を移した。

「二人共、行こう」

「あの、い、いいんですか、あの人……」

「えっ、放っておくの!?」

「どうでもいい」

 その目にはまだ冷めぬ怒りがあり、二人は息を呑んだ。

別に同情する理由もないし、スピカをこれ以上怒らせる

のも怖いので、二人はアイコンタクトを交わすとこのまま

エトワールと名乗った男は放置する事に決めた。

 スピカが一人でどんどん行ってしまったので、アルトと

リイラは慌てて歩き出した――。


 十分ほど歩き、スピカ達はモラン城へとやって来た。

雪のように真っ白な、美しい建築物である。

 衛兵は、三人を見るなり笑顔になり、姫様がお待ち

です、と満面の笑みで言った。

 スピカは城の人間には、恐れられてはいないという

事を知り、アルトは少しホッとした。

「よくいらっしゃいました!!」

 城内に入ると、すぐにメイドがやって来て、彼女達を

案内してくれた。レティづきの腹心のメイドらしい。

 高価な造りの戸を叩き、返事があってから中に入る。

と、幼い少女がいきなり抱きついて来た。

 ふわふわの亜麻色の髪にくりくりした黒い瞳を持つ、

可愛らしい王女レティーシャ・エルト・モランだった。

「スピカ~。会いたかったよ!!」

「私も。レティ」

 そこで、スピカはようやく本心からの笑みを向けた。

リイラとアルトが微笑ましそうにそれを見る。

「この子がスピカの使い魔!?」

「そう」

 レティは目をきらきらさせてアルトに質問を投げ

つけ、のべつもなしにペラペラとしゃべりまくり、

アルトを閉口させた。メイドの少女が止める。

「姫、迷惑ですわよ」

「アカネは口うるさいの!!」

「姫のために言っているのです!!」

 メイドの少女は、東洋人らしかった。

珍しいまっすぐな黒髪はとても美しく、腰の辺り

まで垂れ落ちていた。

 肌はどこか黄色みががっている。

綺麗な少女だった。アカネというらしき少女は、

そつのないメイドだった。

 てきぱきとお茶の用意をし、すぐに下がる。

白いティーテーブルには、お茶を楽しむための準備が

しっかりと並べられてた。

 バラの模様の陶器のティーセットに、銀製の三段の

ケーキスタンド。色とりどりのマカロンの盛られた皿。

ケーキの大皿。

 スタンドの上には、サンドウィッチ、スコーンや

ショートブレッド、ケーキがたくさん並べられていた。

 メイドが行ってしまったので、変わりにアルトが

リーフティーをカップに注いでいく。

 良い香りが部屋中に立ち込めた。

今日のお茶は、甘めのミルクティーだった。

「何を取りますか、レティーシャさま」

 アルトが銀製のトングを手にして言うと、レティは

頬をふくらませて言い返した。アルトは何故怒って

いるんだろう、と首をかしげる。

「レティって呼んでよ」

「え、駄目ですよ、姫様ですから」

「アルトはスピカの使い魔でしょう!? スピカは

レティって呼んでるんだから、アルトもレティって

言わなきゃダメなの!!」

 二人が言い合いしている中、スピカ達はすでに

勝手にお茶会を開始していた。

 スピカはチョコレートケーキ、リイラはキュウリの

サンドウィッチをチョイスして食べている。

「ああっ!! 何二人だけで食べてるんですか、

スピカさん!! リイラさん!!」

「ずる~い!! 二人とも!!」

「てゆーか、スピカさん食べるの早っ!! 小食なのに

食べるの早っ!!」

「早くしないとなくなるわよ」

 どんどんとケーキやスイーツが無くなっていく。

アルトは唖然とし、レティは涙目になった。

 リイラは幾分遠慮して食べているようだが、

スピカはどんどんケーキを平らげては皿を重ねて

いるのだった。

「スピカ、ちょっとは遠慮してよおっ!! アカネ!!

 ケーキとスイーツ追加!!」

「了解です、姫」

 彼らの賑やかなお茶会は、結局お茶の時間を大幅に

超えるまで続いたそうな――。


「レティ、また誘ってね」

 リイラが笑顔で手を振った。が、スピカはじいっと

レティを見ている。レティは可愛らしく小首をかしげた。

「どうしたの、スピカ?」

「レティ? 言っておくが、これは私の使い魔だからね」

「どういうこと?」

 訳がわからない様子のレティ。リイラが呆れ顔になり、

肩をすくめながら口を出す。

「あんた、何八歳の子に嫉妬してるのよ」

「ヤキモチじゃないっていってるだろ!!」

「どう見てもヤキモチよ!!」

「全然ち・が・う!!」

 ぎゃあぎゃあと言い合いながら二人は箒に飛び乗った。

アルトもため息をつきつつ乗る。

 着いてからも、二人はまだケンカしていた。

「じゃあ、私、帰るから。アルトと仲良くね」

「しばらく来るな!! リイラっ!!」

「言われなくても来ないわよ。アルトがいるしね!!」

 そこからはもう言語にもなっていなかった。

喚き立てるスピカを置いて、リイラは帰っていく。

 アルトも洗濯物の様子を見るため、一時彼女から

離れる事にした――。


「あ~。まだかわいてないな」

 サクッと葉っぱを踏む音に気付き、アルトは振り

向いた。振り向いた瞬間目を見開いて動きを止める。

 そこにいたのは、スピカにいきなり求婚したエト

ワールと名乗った男だった。

「どうして、ここにいるんです!? まさか、僕達の

事つけていたんですか」

 アルトは鼻白み、男を睨みつけた。はっ、と男が鼻で

笑う。相手を小馬鹿にするような笑みに、さらにアルトは

憮然とした。

「そんな不遜なッ子とするかよ。金があれば、スピカ=

ルーンの居場所を吐く奴らなんて、数多くいるんでな」

「そっちの方が不遜ですよ!! スピカには近づかないで

ください!! 彼女は僕の主です!!」

「安心しな。今用があるのは、――お前だけだ!!」

「あぐっ!!」

 再び殴られ、アルトは即席の物干し台に頭を強打した。

あまりな勢いで殴られたので口が切れ、げほげほと

血を吐く。

 男は容赦なくアルトを蹴りつけた。彼が小さく悲鳴を

上げて地面を転がる。

「調子にのってんじゃねえぞ!! この下級貴族が!!

上級貴族の俺様によお!!」

 彼は自分の過去を知っている。

アルトはそう思ったが、その考えを口する余裕がなく、

また動けないので蹴られ続けるしかない。

 と、ざあっと雨が降り出した。冷たい雨が二人に

降り注ぐ。

 アルトは洗濯物が、とこの場に場違いな事をつい

考えてしまったが、今は動ける状態ではなかった。

「私の所有物モノを殴っていいのは、私だけって

言わなかった?」

 そこに、氷のように冷たい声が飛んだ。

エトワールは罰が悪かったらしく、慌ててアルトから

足をどける。

 だが、スピカの怒りはおさまらなかった。

「私、馬鹿と愚かな奴は嫌いなんだよね。両方該当する

お前は、――殺してやる!!」

 スピカが怒りを込めた叫びを上げると、彼女の魔法で

作られたかまいたちが鋭く彼の足を切り裂いた。

 否、生地が厚かったため、服のみを切り裂いた。

しかし、エトワールは青ざめて酷く震えている。

「ひ、ひいっ……ゆ、許してくれ!!」

「だーめ。絶対に、許してなんかあげない」

「スピカさん! 駄目ッ!!」

 アルトがスピカの足にしがみついた。

さすがに彼を蹴り飛ばす訳にはいかず、スピカが

止まる。

「なぜ、邪魔をする!」

「あんな奴のために、スピカさんが、きずつか、

ないで……」

 アルトはそのまま気を失った。キッとスピカが

男を睨む。ひっ、と竦みあがったその様子に多少

スピカは溜飲を下げた。

「アルトに感謝するんだな。見逃してやる」

 スピカは男を置いて、抱き上げたアルトと共に

館へと帰って行った――。


 一週間後。

「スピカ=ルーン!! この前はすまなかった!!

 謝る!! そいつには優しくする!! だから

俺と結婚してく――」

「黙れ、下種が!!」

「ぐふぉあ!!」

 スピカの館には、またエトワールの姿があった。

二度と現れないと思っていた男の存在に、スピカは

完全に怒り狂っている。

 彼女のパンチがヒットし、彼は綺麗に吹っ飛んで

敷石に頭をぶつけていた。

 今回も酷い目に遭わされているが、どうやら諦める

気はないようで、プライドも全部投げ出すようにして

土下座してスピカに謝っていた。

 アルトは思わず、殺すのを止めるんじゃなかった、

と黒い事を考えてしまうのだった――。

 アルトにライバルが出来ました。

傲慢な貴族のお坊ちゃまです。

 新キャラの王女様レティも登場

しました。

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