魔女は弟弟子の企みを阻止する
アルト達が部屋に駆け込んだ時、チッと舌
打ちをしたシュイアが彼女から身を離した。
リイラがせき込み、慌ててエトワールが駆け
寄る。
リイラは背中に手を当てられて一瞬抵抗した
けれど、彼はさっきの男とは違うと思い直して
大人しくなった。
アルトはキッとシュイアを睨みつけている。
メリッサは驚きを隠せない様子だった。
スピカと同じように、彼女にとってもシュイアは
弟弟子だ。その彼が、こんな事をするなんて、と。
「あんた、何でこんな事をしているの!? 人を
殺そうとするなんて、師匠がどんなに悲しむと
思うの!?」
「うるせえよ」
「きゃあっ!!」
「「メリッサ!!」」
男がキッとメリッサを睨みつけると、衝撃波が
発生して彼女は吹き飛ばされた。
壁に叩きつけられ、そのまま手を伸ばした状態で
気を失う。
「なんてことを!! あんたたち、兄弟弟子なん
でしょっ!?」
リイラはメリッサを抱き上げながらシュイアを
睨みつけた。しかし、彼はおかしそうに笑う
ばかりだ。狂っている……。
彼女はその言葉をあえて言わなかった。
そう考えたのは、彼女だけではないだろう。
アルトも、エトワールもそう思っているのが
明らかだった。
「兄弟弟子だよ。それがどうかしたか?」
「あんたねえっ!!」
「リイラ!! 馬鹿に何を言って無駄だよ」
なおも言い返そうとしたリイラに、アルトが彼に
してはきつい口調と言葉でいさめた。
シュイアの表情が変わり、今度はアルトを睨む
ように見た。
「なん……だと……?」
「だって馬鹿でしょう? スピカを倒すためだけに、
こんな大掛かりなことをやったって言ったよね?
そんなの馬鹿がやることだよ」
「てめええええええっ!!」
彼がアルトに飛びかかった。
アルトはそれを読んでいたので飛び退ってよける。
だが、アルトは彼の能力をすっかり忘れていた。
ぎろりと睨んだシュイアに反応するように、扉から
何者かが侵入してきた。
憎むような目をした者達がぞろぞろとやって来る。
「あんまり俺を怒らせるんじゃねえよ」
「アルト!! 傷つけちゃ駄目よ!! この人達、皆
こいつに操られてるの!!」
「そ、そんなこと言われても……!!」
奇声をあげて手にした武器で飛びかかってくる男を、
とっさに近くにあった麺棒で止めるアルト。
その際に、少し回復したリイラが鋭い声を上げた
ので、歯を食いしばりながら手のしびれに耐えていた。
このどさくさで、いつの間にかシュイアは
消えていた。
「こうなったら、戦うしかないわよ!! あまり
怪我はさせないように、だけどね!!」
メリッサもエトワールも武器を取り始めた。
とはいっても、ケーキ屋であるので、ホイッパーや
フライパン、などしかないのだが。包丁は危険なので
使えない。
「私も、戦う!!」
リイラも箒を手にして戦い始めた。
操られているとはいえ、そんなに強くないらしく、
教会の使者達は四人に押されていた。
しかし、あまり傷は付けないようにという制限の
ある戦いだ。やりにくい事はこの上ないだろう。
「このまま、気絶させちまった方がいいんじゃ
ないか!?」
「それがいい、わね!!」
「ごめんなさい!!」
リイラが持てるすべての力を箒に込め、男の一人の
頭に叩きつけた。予想以上の力が入ったのか、男が
気を失う。
アルト達もそれぞれの武器を使って教会の使者達を
倒していく。
「早く、あいつを追わなくちゃ!!」
そのまま四人は外に出ようとしたが、さらにかなりの
人数が店に入り込んで来たために出来なかった。
シュイアを野放しには出来ないが、かといってこの
人数を相手に走り抜ける事は困難で、リイラが悔しげに
唇を噛みしめる。
「あいつ、なんてことをしてくれたのよ!!」
「こんなに、倒しきれないよ……」
「そんな……」
「皆、弱気になるな!!」
リイラ達がへたり込み始めてしまった。
手は痛いし、彼らをむやみに傷つけてはいけないから、
戦う気力はだんだんそがれていった。
エトワールが叫ぶが、彼もまた気力がそがれている
のは確かな事実である。
「ちくしょう……どうしたら……!!」
「皆、目を覚まして!!」
少女の声が響き渡ったのはそのすぐ後だった。
奇妙な生き物を抱いた少女が店に飛び込んで来た
のである。
その少女は、紅い目に白い髪をしていた。
彼らが探していた人、スピカ=ルーンその人である。
奇妙な生き物――、リリアがぴょんぴょんと男達の
周囲を飛び回る。
しだいに、憎しみの顔が消え、彼らは穏やかな
顔に戻って行った。
「目を、覚まして!!」
さらにスピカはリリアを抱きながら祈り始める。
まばゆい虹色の光が両者の体からあふれ出し、世界を包
むかのような強い強い物となった。
アルト達は訳が分からないと言ったような顔でそれを
見守る。
世界で、異変が起きていた。魔女を狙っていた者達が、
しだいに穏やかな顔を取り戻す。
戦っていた者達が、動きを止める。
ディオナが、イリオスが、レティーが、今にも泣きそうな
顔になって動きを止めていた。
温かき光が世界中にあふれていく。
いつの間にか、アルト達の目にも涙が浮かんでいた。
こうして、スピカの弟弟子、シュイアのたくらみは、
とりあえずは阻止されたのだった――。
ようやくシリアス編に一区切りが
つきました。しばらくはほのぼの
シーンと恋愛シーン多めで行きたい
と思っています。
ようやくスピカも帰って来ました
しね~。