使い魔は男と遭遇する
アルト=ハルメリアは、走っていた。
隣にはメリッサ=ウォーカーもいて、
はあはあと息を切らせながらも同じ
ように走っている。
少し休みたいと思いつつも、そんな
余裕などないのが現状だった。
メリッサもアルトも文句など言わずに
走るばかりだった。
と――。
「よお、何やってんだお前ら?」
「「え、えええええエトワール!?」」
二人は急停止してそのまま転びそうになり、
慌てて足に力を込めてそれを阻止していた。
どうして彼がここにいるのだろうか。
その理由を、アルトもメリッサも分から
なかった。
だって、レティは彼が『カッサンドラ』に
向かったと言っていたのだ。
「な、なななななんでいるのここに!?」
「それがさー、俺も覚えてないんだよな~。
何か大事なことを忘れている気がするけど」
アルトは訳が分からなかった。
それは、ここで頭を抱えているメリッサも
同じであろう。
だが、良く見ると彼の目はどこか変だった。
アルト達を見ているのに、どこか標準が合って
いない。口調もどこか変で、明らかに
おかしかった。
アルトは気づかなかったけれど、メリッサは
彼の様子がおかしい事に気付いたようだ。
キッと睨むように彼を見つめていた。
「暗示でもかけられているのかしら。それとも
魔術? どうやって解けばいいのかしら」
困るメリッサ。そんな彼女を助けるかのように、
再びアルトの頭にスピカの師匠の言葉が響いた。
〝光の術を使い、闇の術を打ち消せ。妹弟子に
そう伝えるのじゃ〝
「わ、分かりました!!」
アルトはそのままをメリッサに伝えた。
優しげなほのかな光が彼女の手に灯り、
エトワールにそれを近づける。
エトワールはぼうっ、としたような目でそれを
見ていたが、やがてはっとなったように焦点が
メリッサを捕えた。
「メリッサ……?」
「エトワール!! 正気に返ったのね!!
何があったの!?」
エトワールは頭をおさえて呻いた。
記憶が混乱しているのだろう。
しばらく彼は黙っていた。
しかし、かなりたってから口を開いた。
くしゃり、と黒髪をかきあげてから
ぽつりぽつりと話し始める。
「変な奴にいきなり殴られたんだ。それから、
訳が分からなくなって……」
「姫に会ったのはあなたなんですか!?」
アルトが重ねて問いかける。少し考えて
エトワールは頷いた。だんだん思い出して
きたようだ。
「そうだ!! 俺は魔女狩りのことを聞いて
リイラに会いに行こうとしていたんだ!!」
「思い出したのね!! じゃあ、早くリイラの
所に行かなくちゃ」
〝その必要はない。私が送ってやろう。馬鹿な
弟子の責任を取るのは師匠である私の役目だが、
今は動けない。止めてくれ、あいつを……〝
それ以上声は聞こえなかった。
光が彼らを包み込み、次の瞬間には、彼らは
『占い喫茶・カッサンドラ』にいた――。
彼らが出会う少し前――。
キインッと何かが弾き飛ばされる音がした。
きらめく刃が床に転がり、へたり込んだ
リイラは目を見開いて固まっている。
「エトワール……?」
カシャンッとカップが落下し、割れる音が
響いた。うううっ、と威嚇するように再び
オリオンが唸る。
この竜の子供が、リイラに投げられた
ナイフから彼女を守ったのだ。
硬いうろこにはじかれ、それは彼女に傷
一つつけることなく落下した。
「あんた!! 教会の使者ね!! 私は人間よ!!
傷をつけてはならない掟を守りなさいよ!!」
「残念だが、俺は教会の使者じゃない。その掟には
値しないね」
「じゃあ、あんた誰なのよ!!」
「冥途への土産に教えてやるよ。俺はスピカの弟弟子、
シュイアだ。聞いて驚くなよ? この騒ぎもすべて
俺の仕業さ」
リイラはぎょっとなり、男を睨みつけながら
立ち上がった。スカートのほこりを払い、彼を
問いただす。
「どういうことなの? あんたの目的は何!?」
「スピカさ。俺に初めて黒星をつけたあの女を、
完膚無きままに叩きつぶす。それが俺の目的だよ。
教会の奴らを全部操って行動させてやったのさ。
あんたは知らないかもしれないけど、教会と魔女
達は組織として結託していたんだ。それを壊すのは
簡単だったぜ?」
狂ったような笑い声が響き渡る。
シュイアと名乗った男の顔は、あきらかに異常者の
顔だった。スピカのためにこんな大事に発展させたと
彼は言う。全ての魔女や使い魔、魔法生物達を
巻き込んで。
「俺の事を全て知ったあんたに、生きる価値なんて
ないね。さあ、死になっ!!」
「くっ……」
男の手がリイラの細い首を締めあげる。
リイラは抵抗ができなくて青ざめるばかりだった。
「やめ……なさいよ……こんなことして……なんに
……なるって……」
「うるさいな、少し黙れよ」
「っ!?」
シュイアはリイラの言葉を封じた。
リイラはじたばた暴れるが、さらに苦しくなるだけ
だった。力が抜け、顔が白み始めたその時に、扉を
蹴破る音が聞こえた――。
エトワールが何故リイラを
狙おうとしたのか、がようやく
明かされます。
そして、事件の黒幕が姿を
現しました。もう少しで事件
解決します。