友人は店を守る
リイラ=コルラッジは男達を睨みつけていた。
だが、彼らは意に介さずにまだ居座って捜索を
続けている。
すぐに帰れ、と思ったが、もう魔女も使い魔も
ここにはいない。安堵しながら椅子に座っていた。
「いたぞ!! 魔法生物だ!!」
と、リイラの顔から血の気が引いた。
今現在、魔女と使い魔は確かにいない。
だが、リイラはここにドラゴンがいる事を
失念していた。
「オリオン逃げて!!」
悲鳴のような声を上げるリイラを嘲笑うかのように、
男達は首をかしげながら空中に浮くオリオンに銃口を
向けていた。
「駄目ええええ――っ!!」
響くのは銃声。リイラは体から力が抜け、へたへたと
座り込んでしまった。オリオンはぴくりとも動かない。
「あああああ!!」
悲鳴を上げるリイラには一切構わず、男達は文句を
言いながら店を出て行った。
「殺しちまったようだな。まあいいんじゃねえか?
魔女や使い魔よりは料金も安いしな」
「ちっ。それでも少しは金になったぜ?」
「分かったよ。次は殺さねえって……」
リイラは叫ぶ力も立ち上がる気力も起きないまま、
うつろな目でオリオンを見つめていた。
かなりの時間が経った頃に、ようやく店に誰かが
やって来る。
「メリッサ、ちゃんと食べてるか~。差し入れ持って
来てやったうわああっ!!」
最後の叫び声は、倒れた龍の子供とリイラの姿が
目に入ったからだった。
一体、何があったんだ、とエトワールは強張った
表情で周囲を見回す。
リイラはようやく口を開いたけれど、その声は
いつもの明るさも気丈さも感じられなかった。
「エト……ワール……」
エトワールは明らかに狼狽していた。
何を言っていいか、また、何をやってもいいか
分からないのだろう。
「死んじゃった……この子、死んじゃったよ……」
エトワールは悲痛な声を聞き、かがみこんで
オリオンに触れた。と、カッと目を見開いた
ドラゴンの子供が彼の手に噛みつく。
「いいってえええっ!!」
「オリオン、生きてたのね!!」
「こっちの心配もしてくれよ……」
慌ててエトワールはオリオンをひっつかみ、
牙を手から放させた。じっとりと血がにじんで
いるが、リイラはまったく気に掛けずに
オリオンを抱きしめていた。
仕方なく、自分で包帯を巻いて止血する。
「……で、あんた何でここにいるんだ?
スピカやリイラはどこにいるんだ?」
「あなた、魔女狩りの事知らないの!?」
「魔女狩り!? 俺は何も聞いていないぜ」
リイラは首をかしげながらも、何も言わずに
オリオンの様子を見た。ただの拳銃だったのが
良かったのだろう、軽傷ですんだようだった。
聖水だったら、こんなに小さいのだから
ひょっとしたら本当に死んでいたの
かもしれない。
「よかった、本当によかった……」
オリオンは警戒するようにエトワールに唸り
声を発していた。
リイラはそれをとがめるように軽く頭を叩き、
お茶の準備をするために彼に背を向けた。
オリオンはさらに大きく唸り、リイラは困惑
しながらも放っておく。
エトワールはにっこりと笑うと、きらりと光る
物を取り出し、それをリイラの背後に向けて
近づける。
彼女は一切気配には気づかず、オリオンが唸る
声と、リイラがかちゃかちゃとカップを探す音
だけがその場に響くのだった――。
今回はリイラ編です。店に残った
彼女が、一体どうなったかと、再登場の
オリオンです。
オリオンは何故唸っているのか!?
何故、エトワールはリイラを狙って
いるのか!?
その答えは次回明かされます。