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魔女と使い魔のバタバタな日々  作者: 時雨瑠奈
魔女は仲間を見つける
23/35

魔女は教会の使者に襲われる

 スピカ=ルーンは、上空を箒で滑走

していた。

 ぐんぐんとスピードを上げて走っている。

何も考えなくてすむように、彼女はただ箒を

走らせていた。

 そうしていないと、泣いてしまいそう

だった。

あまりにも彼と、使い魔であり恋人の

アルトと別れるのは辛かった。

「アルト……」

 と、その時だった。

「いたぞ、魔女だ!!」

「魔女スピカ=ルーン!! 降りてこい!!」

 下の方で男達が集まり始めていた。

スピカは呆れたようにため息をつく。

 どこの世界に、殺されると分かって、自ら

命令に従って降りる者がいるのだ。

 いる訳がない。

「本当にしつこい……!!」

 スピカは体内で魔力を練り始めた。

詠唱の輝きがスピカを包む。

 スピカは男達を殺すつもりだった。

殺らなければこっちが殺られる。

 ここで死にたくはなかった。

詠唱が終わった。雷の塊がスピカの手

にはある。男達はギョッとなったように

後退し始めた。

「逃げたって無駄!!」

 スピカは雷の塊をかがけて男達を睨み

つけた。

 今、ここでこれを落とせばこいつらは

死ぬ。スピカは助かるのだ。

 だが――。

スピカはそれを落とす事が出来なかった。

 アルトの悲しげな顔が浮かんだのだ。

もし、スピカが身を守るためとはいえ、

人を殺したと分かったら、アルトは悲しむ

かもしれない。

 そう思ったらとても出来なかった。

「できない……」

 手の中の雷はしだいに色を失い、その

まま消滅した。

 スピカは悲しい思いを抱えてそのまま

移動する。

「くらえ、魔女っ!!」

「きゃあっ!!」

 しかし、敵は身の危険を感じたのか、

攻撃に転じて来た。聖水入りの水鉄砲

である。

 大量の聖水が彼女を襲った。肌が焼ける

匂いがスピカの鼻をつく。

 そのまま彼女は箒から転落し、その場に

叩きつけられた。

 なんとか受け身を取り、威力を殺す。

完全には殺しきれずに、彼女は怪我を負って

しまった。

「姑息な手を……!!」

 スピカは唇を噛みしめながら、男達が水

鉄砲を構えるのを見ていた――。


 一方、その頃。

ディオナ=コーラルは悩んでいた。

 目の前に広がるのは、憎いかたきである

スピカ=ルーンが、男達に囲まれている光景

である。

 彼女は怪我をしているらしく、悔しげに睨み

つけながら動かない。

 今、動けばディオナは彼女を助けられる

位置にいた。

 反対に、動かなければ敵は死ぬ。

聖水が魔女や使い魔や魔法生物に、劇薬に近い

のは、もちろん彼女だって調べ済みだった。

 もしここで死ななくても、彼女は連れていかれて

火あぶりになるだろう。

 そうしたら、間接的にディオナは兄レヴァンの

敵を討った事になる。

 だが、どうしても釈然としない想いがあった。

ここでスピカを見殺しにしたくない何かが。

「どうして? どうしてあたしがこんなひどい奴を、

魔女を助けなきゃいけないのよ」

 言い聞かせてみても、心はざわつくばかり。

ここで見殺しにしたら一生後悔するような気もした。

 ディオナはその気持ちを、「敵を奪われたくない

からだ」と勝手に結論づけ、彼女に向かってずん

ずんと大股で歩いて行った――。


 スピカは男達を憎々しげに睨みつけていた。

動こうと努力はして見るものの、体が上手く動いて

くれない。

 やっぱり体には相当のダメージが加わっていた

らしい。聖水は魔女にはかなりの劇薬。

 それを大量に浴びたのだ。

と、ここでスピカはある事に気付いた。

 男達の手が震えている。彼らも必死なのだろう。

一歩間違えば、死の危険さえある魔女狩り。

 それに挑んだのは、きっと魔女を捕えて連れて

行けば、報奨金がもらえるからだろう。

 彼らはプロではないのだ。

(あれを落とせれば、逃げられる?)

 スピカは男達に見られないように魔力を練り

始めた。

 ごくごく少量の魔力だ。これならば、相手が怪我を

する事なく武器を撃ち落とす事ができる。

(お願い……!! 気がつかないで!!)

 だが、小粒の火球を放とうとしたスピカのもくろみは

外れた。こちらに攻撃して、殺そうとしていると勘違い

した男達が、一斉に聖水を噴射してきたのだ。

 スピカは悲鳴を上げ、その場に倒れ込んだ。

「う……くうう……」

 呻き声が響き渡る。スピカはよろよろと手を出して

立ち上がろうとしたけれど、もうその力さえ残って

いないようだった。

「おい、殺すなよ? 報奨金が減るぞ」

「分かってるって。でも、あと一回なら大丈夫だろ? 

 まだ意識を保っているようだしな」

「いいかげに……」

 いい加減にしなさい、そう言うつもりだった声は、

口が上手く動かずに相手には伝わらなかった。

 後一度それをくらえば、スピカは気を失って連れて

いかれてしまうだろう。こんな年で、こんな所で、死ぬの

だろうか。どうせ死ぬなら、アルトのそばがいい。

 彼にもう一度会ってから死にたい。スピカの目から

涙があふれだした。

 迫りくる聖水が、彼女には毒のように思えてきた。

何故か時間がゆっくりしている気がする。

 スピカの目には、それがやけにスローに感じていた。

 と、その時間がついに終わった。一つの影が、スピカの

前に飛び出して来たのだ。その人物が聖水をかぶったので、

スピカに一粒さえも当たらなかった。

「あ、あなたは……!?」

 驚きに見開かれる紅い目を、睨むように少女の瞳が

見つめていた――。


 スピカがかなりピンチな回です。

最近出番がなかった、コーラルが

しばらく活動予定です。

 ヒーローが全然最近活躍して

ないような気が……。

 ごめんね、アルト。ちゃんと

活躍させるからね。

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