魔女と使い魔は言いあいする
「ぎゃああああああっ!!」
森の中に、大声が響き渡る。
びくっ、となり、スピカ=ルーンは目覚めた。
ベッドから落ちそうになり、慌ててベッドの
へりを掴む。
寝間着のまま外に出ると、泣きそうな顔をした
アルト=ハルメリアがいた。
「オリオンが、オリオンが……」
「オリオンがどうかしたの!?」
スピカは青ざめた。眠気が一気に吹き飛ぶ。
一体、何があったのかと頭が真っ白になった。
「オリオンが、ひよこを食べちゃったんだよ!!
花壇も種が土ごとなくなっちゃってるし!!」
キッと涙目でアルトはスピカを睨みつけた。
鶏小屋を覗き込むと、そこには小さな骨がいくつか
転がっているだけだった。
彼がやっておいた餌も、一粒もなくなっている。
大事に大事に育てていたひよこを食べられて
しまったのだ、アルトの悲しみはかなり深かった
であろう。
花壇は、否花壇であった物は、煉瓦だけがあった。
その原因である竜の子供、オリオンは満足顔で空を
飛んでいる。
「オリオン!! 駄目じゃないっ!!」
スピカは降りてきた竜の子供を怒鳴りつけた。
オリオンはなんで怒られているのか分かっていないらしく、
可愛らしく首をかしげている。
だが、アルトの怒りはスピカに向いていた。
綺麗な青い瞳が、今は冷たい色を宿して彼女の赤い瞳を
睨みつけている。
「こんな赤ちゃんが、悪い事とか分かる訳ないじゃない!!
スピカ、君がちゃんと見てないから悪いんだよっ!!」
スピカはうつむいた。昨日、スピカは確かにオリオンと
一緒に寝ていたのだが、窓を閉めるのを忘れていたのだ。
完全にスピカのせいだった。
スピカはムッとなりつつも、あえて口を開かなかった。
彼の言っている事が正しかったからだ――。
二人はお互いに口を利かないまま、小屋に戻った。
オリオンも追いかけて入ってくる。
食事を作るために厨房に入ったアルトは、再び
悲鳴のような声をあげて戻ってきた。
「どうしたの!?」
「オリオンが材料全部食べちゃったんだよ!!」
スピカは慌てて厨房に入った。貯蔵庫を見てみると、
何一つ残っていない。
卵の殻や、鍋の鉄の部分が転がっているだけである。
鍋の木の部分はどうやら食べられてしまったらしかった。
チョコレートも、ミルクも、野菜も、小麦粉も何一つ
残ってはなかった。
「スピカ、やっぱりオリオンを返して来てよ。こんなん
じゃ、僕達が暮らしていけないよ。お金も無限にある
訳じゃないんだよ」
困ったように言われ、スピカはついにキレた。
朝からのストレスが一気に爆発したのだ。
確かに自分が悪かった事もあったかもしれないけれど、
オリオンの事を全て自分の責任だと言われても困る。
自分だって認めた癖に。
「アルトはいいっていったじゃない!! それなのに
返してこいだなんて!! 無責任よ!!」
「無責任は君のほうだろ!!」
アルトとスピカはとうとう言い合いを開始してしまった。
お互いを睨みあい、罵り合っている。その間に、オリオンは
がじがじと壁をかじっていた。
「オリオンッ!!」
アルトの怒りの矛先が竜の子供に向く。
物をぶつけてこちらを向かせようとしたので、スピカはさらに
眉を吊り上げた。オリオンをしっかりと抱きしめる。
「さっき分かる訳ないって言ったじゃない!! オリオンに
ひどいことしないでよっ!!」
「教えてやらなきゃいつまでもこうだろ!! 躾は動物に必要
なんだよ」
「あんなの躾じゃないわ!! いじめよ!!」
オリオンはスピカの腕の中でじたばた暴れていた。
あんなに食べたと言うのに、まだ腹が減っているらしい。
スピカはさらに腕に力を込め、不満そうにオリオンは唸った。
と――。
「きゃあっ!!」
いきなり噛みつかれ、スピカは驚いて手を放した。
オリオンはすぐに壁にたどりつき、再びかじり始める。
血がローブに伝わって滴り落ちた。
「オリオン……」
スピカはかわいがっていた動物にかみつかれ、ショックで泣き
出してしまった。
オリオンに悪気はない。ただ、邪魔をしたから噛みついた
だけだ。
それが、悪い事だときっと知らなかっただけなのだろう。
オリオンは、何も知らない。善悪の区別さえも知らない。
アルトがオリオンに近づこうとした、その時。
グラグラと小屋が揺れ、やがて倒壊した。
後には何も残らなかった――。
出たばかりのオリオン大暴走です。
最初はもっと大人しい感じのキャラ
だったはずなのに、いつのまにか
我がままキャラにチェンジして
ましたあの子。
ギリシャ神話から取ったから
でしょうか……。