魔女は竜の子供を見つける
スピカ=ルーンは、久しぶりに笑顔で目覚めた。
隣には、当たり前のように使い魔のアルト=
ハルメリアがいる。
その事が、何にも増して嬉しかった。
当初彼女は使い魔はやめていいと言ったのだが、
アルトが断ったのでそのままなのだ。
アルトの意見を聞くと、スピカの近くに自分
以外の〝使い魔〝がいるのが嫌、らしい。
アルトは久しぶりに家に帰るなり、家中をピッカ
ピカに磨き上げ、花壇に花の種を植え、使っていない
鶏小屋につがいのひよこを置いた。
もちろん、スピカのために最高の朝食も作って
くれた。
今日のメニューは、たっぷりチョコレートソースを
かけた鶏肉のソテーと、野菜サラダ、野菜スープだった。
やっぱり最高のお味である。スピカは上機嫌で食べた。
その様子をアルトは嬉しそうに見ている。
「行ってくるね、スピカ!!」
「いってらっしゃい!!」
今日からアルトはメリッサのもとで働くらしい。
余ったケーキがあったら持ち帰ってあげるね、と言って
くれたのが、とても嬉しかった――。
スピカはたまっていた仕事を片づけ、手持ち無沙汰に
なって裁縫を始めた。
チクチクと針を動かす音だけが響く。
青い絹地に、紅い花が咲いた。
しばらくそれをやっていたが、飽きてしまいスピカは
外に出た。馬車に乗り、久しぶりに村の方へ行く。
村の様子は相変わらずだった。スピカは両親を殺した
ため、疎まれている。全然来ないリイラに会いに行った
のだが、彼女は留守だった。
反応は相変わらずで、スピカは石をぶつけられて森の
中に逃げた。と、その時である。
世にも可愛らしい声が聞こえてきた。
スピカが振り向くと、そこには紅い綺麗な色をした竜が
いた。とても可愛らしくて、スピカはそれに手を伸ばす。
まだ、子供のようだった。
「かわいい……」
火を吐くかもしれない、と思ったが、人懐こいらしく、
竜はすり寄っただけだった。
親はいないのか、と森中を探したけれど、結局暗く
なるまで探しても見つからなかった。
「おいで、オリオン……」
名前をつけた竜の子供を胸に抱くと、スピカは馬車に
載って家に戻った。アルトはすでに帰っていた。
「ただいま、スピカ!!」
「お帰りなさい、アルト!!」
「あれ、その子は?」
「オリオンよ」
当たり前のように言われ、あ、そうなの、と言いかけて、
アルトは慌てて言い返した。
「じゃなくて、どうしたのってこと。その子!!」
「森で見つけたの。親がいないみたいだから、飼っても
いいでしょう、アルト?」
涙目で言われると、アルトも動物とかが嫌いではないので、
元の所に返してこい、とは言えなかった。
それにスピカを悲しませたくはない。
「いいよ。でも、ちゃんとスピカが面倒みてね。ちゃんと
いろいろ教えるんだよ」
アルトはにこりと笑うと、オリオンと名付けられた竜の子供の
頭を優しく撫でた。オリオンは可愛らしく鳴き、アルトの手にも
顔をすりよせてくる。
その様子はとても可愛い。
「じゃあ、ご飯にしようか」
「うん……」
幸せそうに微笑む二人。だが、その幸せは長くは持たなかった。
それが壊れたのは、アルトが今日の夕御飯の鳥の丸焼きを持って
きた、その時だった。
オリオンは小さな口をあんぐと開けるなり、すごい勢いで
それを平らげてしまったのだ。
小さいとはいえ、さすが竜。ものすごい食欲である。
そして、オリオンの種族もこれではっきりした。
満腹になった彼は、大きな火の息を放ち、それが家中に燃え
移ったのだ。火竜の息そのものである。
「うわああああっ!! 家が燃える燃える!!」
「お、オリオン!! 駄目でしょう!!」
「いいから早く火を消して!!」
慌ててスピカは術を唱えて水を出したので、家は燃えずに
済んだけれど、アルトはこの子大丈夫なのかなあ、と思うの
だった。
スピカはもうこんな事しちゃ駄目よ、と叱っているだけ
だけだけれど、アルトはこれからの事をいろいろと考える
と酷く不安な気分になっていた――。
場面はいつもの小屋というか
家に戻り始まります。
しばらく喫茶店舞台だったので
家に戻るのは久々ですね。
マスコットキャラ(?)登場です。