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魔女と使い魔のバタバタな日々  作者: 時雨瑠奈
恋を知る魔女
16/35

使い魔は魔女を見守る

 アルト=ハルメリアは、エトワール・

クロウ・リルアラと共に、隠れていた。

 ここからは、彼女の顔は良く見える。

この前可愛いと言ったローブを着ている

のが分かって、アルトは嬉しくなった。

「ひとまずは、成功だな」

 小声でエトワールが言ってくる。

はい、と笑顔で返し、アルトは彼女を

見入っていた。

 メリッサが座ってと言い、スピカが音も

立てずに座る。

 彼女が褒めるような目を向けたので、

スピカは困ったような顔をしていた。

 それもそうだろう。スピカにとって、

メリッサはアルトを奪おうとする敵なの

だから。

「何の話をしに来たか、わかってますよね」

 久しぶりのスピカの声!!

アルトが身を乗り出しそうになり、慌てて

エトワールは止めていた。

「落ちつけよ」

「あ、ごめん……」

 アルトは心を落ち着かせるために、メリッサが

用意してくれたお茶を口に運んだ。

 ほどよく冷めている。お茶はローズティー

だった。

 メリッサの言葉に従って、ケーキを頬ぼる

スピカは、とても可愛らしい。

 いつものように、瞬く間に平らげてしまった。

アルトは魅入られたかのようにそれを見ている。

 エトワールはそこまで興味はないので、お茶と

共に用意してもらったアップルパイを食べていた。

 甘さ控えめなそのパイは、彼の好物である。

と、そうこうしている間に、二人の会話は

進んでいた。

「アルトを出してください、連れて帰ります」

「どうしようかしら、私も、アルトが好きなの

よね」

「私の方がアルトを好き!! 愛してる……」

 アルトが椅子を転げ落ちた。かなり大きな音が

響く。エトワールは舌打ちして彼を助け起こした。

 アルトの顔は、これ以上ないほど真っ赤だった。

舌打ちしたいのを必死でこらえながら、彼は厳しい

声でアルトを叱りつける。

「このバカ! バレたらどうする!!」

「ごめ……びっくりして……」

 小声でやりとりし、二人は気配を殺した。

スピカが不審そうな顔をしていて、メリッサが

ごまかしているのが見える。

 メリッサ、ごめん、とアルトは心中で謝った。

顔の赤味はなかなか抜けない。

 メリッサの言った通りだった。

スピカは、自分の事を愛している。

 自分だけじゃないと知り、アルトは嬉しかった。

涙が出そうなくらい、嬉しかった。

「これ、いるか?」

 涙目になったアルトを見て、エトワールが白い

上等そうなハンカチを差し出してきた。

 アルトは気持ちだけ受け取って断り、スピカの

方に目線を戻す。

 彼の気持ちは嬉しいけれど、汚してしまいそうで

受け取れなかった。

「アルトは、あなたが使い魔としか見てくれない、

って言っていたけれど?」

 その言葉を聞き、スピカが青ざめた。

彼女が以前倒れたことを思い出し、アルトも青ざめる。

 思わず扉を開けそうになったアルトを、慌てて

エトワールがはがいじめにした。彼の肘がテーブルに

あたり、ガシャン、とカップが揺れる。

 メリッサが扉を叩くのが見え、エトワールは

そのまま後ろに下がった。

「黙って見ていられないなら、お前、家に帰すぞ」

「ごめん……なさい……なるべく静かにする」

 怖い顔で睨まれ、アルトはしゅん、となった。

エトワールはアルトを解放し、アルトが椅子に座る。

 エトワールは予想外な大変さに、ため息を

ついていた。

 アルトは基本大人しいが、スピカが絡んでくると

違うようである。

「確かに、最初はそう思ってました。最初は、彼は

私の中で、所有物モノでしかなかった。ですが、

私は気づいたのです。アルトは、ただの使い魔では

なく、一人の男、だと」

 エトワールは、その言葉を、一抹の寂しさと共に

聞いた。忘れたいと思っても、なかなか忘れ

られない。

 彼女への想いを、まだ完全には捨てきる事など

出来ない。

「エトワール……」

「大丈夫だって。そんな顔するなよ。俺は、スピカを

好きになった事、後悔してないからな」

 気遣わしげに見られると、腹が立つものがある。

だが、エトワールは懸命に怒りをおさめた。

 誓ったのだ。彼女を諦めると。

全く遺恨がない訳でもないけれど、スピカの事を抜きに

すれば彼の事は別段嫌いでもない。

「私は、アルトを愛してます。一人の男として。一人の

人間として」

 スピカは一歩も引いていない。

アルトは少し気持ちが落ち着いた。

 エトワールの方は、気にされても向こうが困るだけだと

気づき、もう見ないようにしている。

「なら、どうしてアルトを拒絶したの?」

「私は、怖かった。アルトと、使い魔と主としてではない

関係を作るのが、怖かった。でも……もう、怖くない」

 アルトの心が温かくなった。まるで、誰かに淹れて

もらった熱いお茶を飲んだ時のような温かさだ。

「それ以上に、アルトが好きだから、恐怖より、アルトを

好きの方が勝っているから、私はもう逃げない。アルトを

連れて帰ります」

 それを聞いた後に、メリッサが笑い出した。

ようやく出ていいというお許しが出て、アルト達は扉を

開けて出ていく。

 スピカは一瞬驚いたような顔をしていたが、騙された

事に気づくなり、怒りをあらわにした。

「アルトもエトワールも大嫌い!!」

 平手打ちを受け、宣告されたアルトは、今度こそ泣き

そうになっていた――。


 その後、アルトはスピカの機嫌取りに忙しかった。

スピカはつん、とそっぽ向いたまま、彼の方を見よう

ともしない。

 すべてのネタバラしをした、エトワールも。

「やっぱり思った通りだったな」

「かなりくっきりとあとがついてるわね」

 くすくすとメリッサが笑っている。

エトワールも笑ったので、キッとスピカは彼を

睨みつけた。振った腹いせではないとは思うが、

振ったすぐ後にこんな事をされるのは苛立た

しかった。

「スピカ、ごめん!! 試すようなこと

して!! でも、不安だったんだよ!!」

「うるさいうるさいうるさいっ!!」

 スピカはケーキを頬ぼったまま、叫ぶように

言った。エトワールも許せないが、それ以上に

許せないのが、アルトだった。

 裏切られた気持ちになったのだ。

「もういい! アルトなんか……」

「あら、もらっちゃうわよ?」

「ダーリンはどうしたの?」

 計画の事を話した後、メリッサは既婚者である事も

彼女に話していた。じろりと睨まれ、メリッサはくす

くす笑っている。

 完全に面白がってるな、と思いながらエトワールは

砂糖ぬきのハーブティーを飲んでいた。

「あら、彼氏としてじゃなく、息子として貰い受ける

のよ。そうしたら、アルトはあなたに会わせないわよ。

大嫌い、なんでしょう?」

 スピカが今にも泣きそうになった。

冗談だとは気づいていないらしい。

 エトワールは思わずお茶を吹き出しそうになったが、

笑ったらこれ以上彼女の機嫌を損ねる事になるので

我慢した。

「大嫌いだけど、大好きなの!!」

「矛盾してるわね」

「うるさいっ!!」

 大好き、と聞き、アルトが彼女を抱きしめた。

スピカは突き飛ばそうとしたけれど、結局やめて彼の

背に手を回す。唇と唇がぴたりと重なった。

 家に帰ってからやれよこの野郎、とエトワールが

思ったとしても彼を責める者など誰もいないで

あろう。

「私もダーリンに会いに行こうっと!! ひさしぶりに

工房に行くわよ」

 メリッサはその場にあったケーキを包むなり、すぐに

店を飛び出した。

 エトワールも中にいるわけにはいかず、外に出る。

というより、あてられそうなので外に出ざるを得な

かったと言うのが正しいだろうか。

 と、歩いてくる少女の姿が見えた。

――リイラ=コルラッジである。

 ブルネットの髪を可愛らしい形に結っていて、大人

びた表情がなんだか好みだな、とエトワールは思った。

 そろそろ新しい恋を始めて見てもいいかもしれない。

「おい、今中に入らない方がいいぜ?」

「何でですか? あなたに言われるいわれはありません」

「スピカとアルトが中にいるんだ」

 リイラは目を見開いた。どういう事かと問いただそうと

したけれど、別な店を紹介するから行こうと言われ、

悪くない気持ちになって彼の手を取った――。

 アルト側から見た計画の全貌です。

エトワールが大変ですね(笑)。

 最初は嫌なキャラだったはずなのに、

意外といいお兄ちゃんしてますね

彼。私の作品の中で一番成長した

のは彼かもですひょっとしたら。

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