完全超悪日誌
私は悪である。
悪であることに誇りを持っている。
やらない善よりやる偽善、という訳ではないが、やらない偽悪よりやる悪だ。
私は誇りを持って悪を行う。
人の為、ということは絶対にしない。
人の為に何かをするくらいなら、出来る限り他人に迷惑をかける死に様を私は選ぶ。
私が生きていることで、より多くの人間が迷惑をこうむるのであれば、私はそちらを選ぶがね。
さて、前置きが長くなったが、改めてここに私の具体的目標を記そう。
世界の混乱。
ひいては、『世界平和』である。
私が後の世でこれを読んでいるであろう諸君に勘違いして欲しくないのは、あくまでも私の行動は悪であり、偽悪ではない、ということだ。
悪を行う以上、世界征服などを目標にすべきではないか、という諸君の意見はよく分かる。
だがしかし、それは本当に悪なのだろうか。
世界を征服した後に、悪の帝王として君臨する?
控えめに言うとしても、そんなものはありえない。
何故ならば、征服をする以上、統治を行わなければならないと私は考えているからだ。
それが行動に伴う責任であり、義務である。
そして統治を行う以上、何らかの政治を布き、管理支配していかねばならない。
だが、悪としてそのような行いをするのはどうなのか?
統治せず、ただひたすらに世界を掻き乱すのが悪として正しいのではないのか?
これに関しては、どちらを選んでも私の誇りと相反するため、世界征服を行う、あるいは目指すというのはありえないのだ。
では何故、『世界平和』を目標としているのか、ということについても言及しなければいけないだろう。
これは非常に簡単である。
私が、私以外の悪を認める事は決してありえないからだ。
さて、そもそも私は諸君に対する指南書を書いている訳ではないのだ。
これはあくまでも日誌であり、かつての私がいかなる行動をしたか、という事を未来の私と諸君に分かりやすく伝えるためのものだ。
……改めて考えると、指南書であるとしてもなんら問題がないような気もする。
いやしかし、既に題はこのノートの表に記してしまっている訳で。
……まぁ、受け止め方は諸君に任せるとしよう。
私はただ黙々と、ここにその日の行動を書き綴るのみだ。
午前六時、起床。
悪人の朝は早いのだ。
午前七時、朝食。
悪人は総じて和食派だ。
和食派以外は悪人気取りな小悪党に過ぎないので注意。
午前七時半、監視。
私以外の悪は不要。
よって早急にその芽は排除すべきである。
集団登校する幼児から、通勤途中のサラリーマンまで私の目は逃さない。
午前九時、洗濯。
貴重な資源を私個人のためだけに浪費する。
これもまた悪である。
午前十一時、午睡。
……ここまで書いて気が付いたが、一から十までを事細かに書き記すというのは意味があるのだろうか。
特筆すべき行動のみを書けばいいのではなかろうか。
よし、そうしよう。
そうするべきだった。
あれは……そう、午後三時半頃だったか。
おやつを食べた後だったのでよく憶えている。
悪人は体が資本だ。
その身一つで万事をこなす、と言っても過言ではない。
それゆえの散歩であり、またその悪事に私の嗅覚が反応したのは至極当たり前の事であった。
何分、私以外の自称悪人が無駄に世の中を混乱させることは、私にとっての不利益に他ならない。
よって未然に犯罪を予防、あるいはその芽を摘む事は私には当たり前の事なのだ。
その後、私の悪の種を蒔くのもまた当然。
いわゆる、いつものこと、だった。
今日も今日とて悪の芽を詰み、種を蒔き、水をやった。
明日も明後日も、私は悪を行う。
世界は、私にとって平和であればいい。
いつか私の、悪の華が咲き誇るまでは。
-とある少年達へのレポート-
「あ、はい。見てましたよ、通り魔。え、そっちが……? あ、じゃあ、俺達が見てたのと違うかな……」
「俺が見てる限りじゃ、男の人の方が襲われてる感じだったッスよ……え、ああ、そうッス」
「んじゃあ、あれはいわゆる──正義の味方ってやつじゃないですか?」