扉の前で◇一人の女と一匹の男
五つの「短編」をオムニバスに絡めて「連作」という「カタチ」を試みました。
【空想科学祭FINAL・参加作品】
一人の女と一匹の男は待っていた。
その扉の前で。
やがて扉は静かに開いた。
二重になった扉が左右両側へと開いた。
開いた扉の先にあったのは、四角い小さな空間。
扉の前に居た一人の女と一匹の男は、開いた扉から中に入る。
「ここから始まる訳?」と、一人の女が問い掛ける。
「そうです、ここから始まるんですよ」と、一匹の男が答える。
女はしなを作りながら小さな空間に進み入り、空間の右奥の角にもたれ掛かった。
男は小さな空間の左手前に座り、毛繕いを始めた。
その扉は、女と男が小さな空間に入ったことを見届けたかのようなタイミングで閉じた。
開いた時とは逆に、二重になった扉が左右両側から静かに閉じた。
扉の横に、ボタンが整然と並んでいるパネルがあった。
そこには、1から5までの数字が書かれたボタンが並んでいた。
「先ずは『1』からですかねぇ、やっぱり」
男がボタンに手を掛ける。
「そうね。『1』からよね、やっぱり」
女はうなずく。
男がボタンを押すと『1』のボタンが点灯した。
それと同時に、女と男が居る小さな空間の照明が瞬いた。
そして、音は全く聞こえなかったが微かな振動が伝わった。
そこでその時から何かが動き始めたことを知った一人の女と一匹の男であった。
これから先、何が起こるか。
充分に知っているのに。
だけど、それでも。