2222年
「それでは受講生の皆さん時間になりました。全人類統一史概説の講義を始めます。これまでの講義で2150年代後半まで取り扱いましたので、今回は2200年前半ぐらいまで取り扱うつもりです。そこから講義の終了時間によりますが、今現在2222年まで簡単にお話できたら、今回の講義は終わるかなというところです。
では、軽く前回の復習から始めて、2150年まで確認しようと思います。まず、2100年までの人類ですね。キーワードは国という概念です。それまで人類は国というものに分かれて生活していました。Aという国の人はA国の中でのみ基本は生きていました。それをA国民とかいっていたわけです。基本的に国民ごとに使用していた言語が異なっており、通貨や法律も違うので、一つの国で一つの大きな社会システムを構築していました。2030年頃までの地球上には200程の国があったといわれています。これは先の人類統一戦争で資料が失われ正確な数は不明です。
2050年ごろになるとだんだんと国の制度が機能しなくなってきました。それは国ごとの格差の極大化と資源の不足というジレンマに陥ったためだという説が有力です。他にも色々と矛盾は健在化してきました。テクノロジーが進歩を続けました。それまで貧くて、弱くて、小さな国とされていた国でさえも地球を破壊するだけの手段を手にしました。国どころが個人でもそれが可能になりました。個人で強力な兵器を購入するものが現れたということです。この時代に法律は廃れ、かわりに貨幣が異常な力を持っていました。地球上で不足している資源の買い占めが進みました。このような不平等の蔓延が統一戦争の下地をつくったとされています。多くの人々の間には不満が溜まっていました。人々の中で異を唱える者が出てきたようです。
2100年頃から始まった統一戦争は2150年半ばまで続きました。統一戦争が全面化したのか2100年ごろでそれ以前の2080年頃から局地的に始まっていたという説もあります。これは誰が始めたのか未だに分かっていません。いつ始まったのかも詳しくは分かりません。どこで始まったのかも不明です。どうにもいかなくなってしまった国の制度を解体する戦いでした。いくつもある国を統一して、地球上の人類を一つにまとめ上げようとしていたのです。地球上にいくつもある国々がそれぞれ地球を破壊することができるというのはどの地球人にとっても望ましいことではありませんでした。だったら一つにしようではないか。当時の人はそう考えたのだと思います。戦争は徹底的に破壊を繰り返しました。地球上の人類の半数以上がなくなりました。地球上の生物もかなり絶滅しました。この戦いのおかげで地球資源はほとんどなくなりました。それでも戦いは終わりました。いくつもあった国はなくなりました。でも、それから新しい社会制度を組み立てることが大きな課題でした。
戦争が終わってから、生き残った人類は一つにまとまろうと必死でした。まずバラバラだった言語が統一されました。言語の統一は人類の歴史上、度々試みてきましたが失敗していました。言語の統一が成功したのは戦争で人間の数が極端に少なくなっていたためだと言われています。つまり、この時代は人類統一化政策が進めやすかったのです。貨幣も統一されました。人類の文化や風習が一つになっていきました。巨大な政府ができて、人々の行動を管理するようになりました。労働が合理化され、人に指示を与えるものがいなくなりました。地球上の法体系が一つにまとめられました。宗教と科学もしかりです。一神教と多神教は渾然一体となり、緩やかに一神教のシステムの中に取り入れられました。でも、もうこの時代に神を信じるものがいるのでしょうか。徹底的に細分化されていた科学は統一理論に基づき一つになりました。
2200年をすぎたあたりから法律と宗教と科学を統一する試みが進められています。この3つの間には矛盾がなく一つにできると思われたためです。管理社会に嫌気が差した人々のために、統一政府は開放区を作りました。ちなみに統一政府というのは巨大な人工知能です。見学会もやっていますね。解放区では法律に従う必要はなく、自由に過ごすことができます。
大体これで人類の統一史を簡単に振り返りました。こんかいはここまでです。次回は小テストを行います。」
やっと講義が終わったか。教室を抜け出したオレは解放区へと向かう。成人して解放区に入ることが許されてから毎日のように行っている。解放区に行くととても清々しい気分になる。ただの広場ではある。でも、自分勝手に楽器を弾いたり、下手なサッカーをしたり、醜男が美女と話したりできる。逆もしかりだ。すばらしい。オレは毎日解放区に行って、学校を卒業したら解放区の管理者になりたい。あんな場所で働けるのは最高だ。決められていない時間にまで解放区に行けるなんて。絶対なれるはずだオレは学校の成績がとてもいい。教授は統一政府で働いてほしいと思っているみたいだけど。政府の犬になるなんてゴメンだ。そう言ったら、教授は笑っていったけ。
「おはようございます。今日も、ご苦労さまです。」
「今日も来たか。楽しんでいけよ。きれいに掃除しておいたから。でも次の講義に遅れちゃだめだぞ。ペナルティがつくと大変だ。」
解放区の管理者さんはオレを心配してくれている。もしかしてオレに期待してくれているのかもしれない。やっぱりここで働きたい。ここはみんな優しい。それに充実した表情をしている。オレは通り過ぎる人たちに軽く挨拶をしながら散歩する。
「こんにちは。ちょっといいかな。いきなり話しかけて申し訳ないです。」
誰だろう。オレに声をかけてきた。でもここは解放区だもの。この人統一政府の人だ。特注のスーツを着ている。しかもかなり、上層部の人だ。バッチの星の数が数えられないくらいある。でも、この人若いぞ。オレとそんなに変わらない。でも、すごく貫禄がある。でも、ありうるか。いやありえない。バッチは偽物かもしれない。いや、それもない。統一政府に抗ってそんなことできるはずがない。オレと同世代ならなおさら。受けてきた教育は全く同じだろう。
「私は統一政府で働いておりまして。脳部門に手足として使えるものです。今日はあなたとお話をするように指令が出てまいりました。誰かと話をするのにここに優る場所はありませんから。でも指示内容は話をするだけだったので、これからのことは分かりません。たまにはこういうのもいいかもしれません。」、そう言うと、優しく笑った。
脳部門なんてすごい。しかもまだ大分若そうだ。とても魅力的なひとだ。なんだろう、かっこいい。でも、この人は政府の犬なんだ。犬は犬でもとても上品な。それにしても、話っていったい何を話せばいいのだろう。
「その年で脳部門なんてすごいですね。僕なんてまだ学生ですよ。天才なのではないですか。」、オレは正直に話す。
「いやいやそんなことはないですよ。あなたのほうが。だって学校の成績、他の人を圧倒してますよね。見ました。自分はただ選ばれただけですよ。それにやることは政府から指示されます。細かいことまで。そんなに御大層なことではないですよ。」
「その、選ばれるのがすごいじゃないですか。しかもそんな地位に。」
オレは驚くと同時に、この人の謙虚な態度に胸を打たれた。
「ところで、あなた学校を卒業したら何をやろうと思っているんですか。」
「解放区で働きたいと思っていたんですけど、やっぱり統一政府かなと。少し迷っています。」
この人を見ていると政府では働くのも悪くなさそうだ。政府の犬なんかではないのかもしれない。なんだか迷ってきた。
「そうしたら、きちんと報告しますよ。また、、説明に伺うかもしれません。でも説明を聞いたら、断れないですよ。ただ、断った人がいないというだけなのですが。みんな飛びついてしまいます。わたしもそうでした。」
「よろしくお願いします。」、オレは言い、彼と別れた。
数日後、オレは政府の脳部門で働いていた。中々悪くない。オレは飛びついてしまった。
「反乱分子も無事消えたか。」、解放区の管理者は一人つぶやいた。




