木枯らし舞踏会と年賀状サバイバル
木枯らしがアパートの風鈴を鳴らすたびに、駈は胸を張る。
「今年の年賀状は、俺が全部仕切る!」
自分を過大評価しがちな幼なじみは、当然のようにリビングを占拠していた。
「まずは作戦名、『年賀状サバイバル』! この山の住所録を、木っ端みじんに——」
「駈、年賀状は爆発させないで。おばあちゃん、びっくりしちゃうよ」
私は苦笑しながら、家族写真と、祖母の好きなホットケーキのイラストを並べる。
テーブルの端では、祖父からもらった小さなオルゴールが鳴っている。
ふたの裏には、子どもの字でこう書いてあった。
『合い言葉は「愛があれば大丈夫」』
小学校の頃、雨宿りしたバス停で、震える私に駈が言った言葉だ。
「そうだ、舞踏会!」と駈が突然立ち上がった。
「年明けの町内会の集まり、あれを舞踏会って呼ぼう。新しい年賀状は、その招待状だ!」
「ただの新年会だよね?」
「夢は名前から入るんだよ、リーダーとして!」
駈は自転車で紙屋まで走り、荷物を山ほど抱えて戻ってきた。
「望愛の家族みんなの分、特別ギフトだ。ほら、このカード、開くとオルゴールと同じ曲が流れる」
木枯らしの音に混ざって、少しだけ調子外れのメロディーが鳴った。
気づけば、私は駈の横で年賀状を書いていた。
祖母へ。お父さんとお母さんへ。離れて暮らすお兄ちゃんへ。
大切な人の名前を書くたび、胸の中が少しだけあたたかくなる。
年明け。町内会館の床は、ホットケーキの匂いと、子どもたちの笑い声でいっぱいだった。
私は動画を一度見ただけで何とか振りを覚えたけれど、駈は踊りを完全に覚えきれておらず、足をもつれさせて転びそうになる。
「リーダー、ピンチだね」
「だ、大丈夫。これはダンスのサバイバルだから……!」
差し出した私の手を、駈が照れくさそうにつかむ。
「合い言葉、覚えてる?」と耳元でささやく。
「もちろん」
私たちは小さく声を合わせた。
「愛があれば大丈夫」
木枯らしがガラスを揺らし、風鈴とオルゴールが一緒に鳴った。
ぎこちないステップでも、不思議と笑いがこみ上げる。
たぶんこの踊りは、世界でいちばん不格好な舞踏会。
でも、世界でいちばんあたたかい年賀状の夜だと、私は思う。




