コナン
「まったくもう!三人とも!次は気を付けてくださいね!」
「すいません…」
ったく。三人とも何やってんだか。花ちゃんが居たから魔法ですぐに服は戻せるけど、これじゃあ先が思いやられる。いや、花ちゃんの存在が三人にそうさせたのなら、彼女にも責任の一端はあるのか…。
まぁいい、パーティーを組んだ以上は四人で無事に討伐依頼を達成してもらわなきゃ。しっかりやってくれよ。みんな。
「そう言えば、目的地の洞窟はどこにあるの?」
「あそこの森の奥だよ」
「森の中もモンスターは出てくるの?」
「もちろん」
「私も戦ってみたい!」
「それなら、次はモンスターが懐かないように気を付けなきゃ」
「わかった」
四人は草原から森の入口へと到着。この森はたしか、秀部くんも以前訪れていた場所だ。あの頃はまだ見習いハンターだったけど、今ではすっかりベテランハンター。頼もしいことこの上ない。彼なら洞窟まで道のりもわかっているから安心だ。
「んっ?ちょっと待て、何か匂うぞ」
「ほんとだ、美味しそうな匂いがする」
「この匂いは!?こっちだ!」
「おい!トーマス!」
なんだなんだ?こっちからじゃ匂いまではわからないが、向こうでは四人とも何かの匂いを感じたようだ。トーマスのヤツ。また勝手に突っ走りやがって。花ちゃんを無理に走らせるんじゃない。
「お~い!トーマス!」
「うっひょー!美味そう!」
「はぁはぁ、一体何を見つけたんだ」
「これだよ!これっ!」
トーマスが見つけたのは、誰かの作りかけの料理だった。何やら大きな肉塊が置かれ、フライパンの上で焼かれている。たしかに美味しそうだ。
「これっ魔牛だよ」
「魔牛?」
「あぁ、しかし、この辺りに魔牛なんていたか?」
「ほんとにいい匂いですね」
「いただいちゃおうぜ!」
「ダメだよ」
「んっ?シッ!誰か来たっ!」
「ザッザッザッ」
(茂みの奥から誰かが近づく足音)
「おやっ?旅人かの?」
茂みの奥から出てきたのは、どうやら異世界の住人のようだ。モンスターじゃなくて良かった。みんなも安心した表情を浮かべている。
「おじさん!この肉俺たちにも食べさせてくれよ!」
「フォッフォッフォッ、魔牛の肉は絶品じゃぞ」
「ありがとう」
「俺はトーマス」
「俺は秀部です」
「花と言います」
「パーシーだ、よろしくな」
「わしはコナン、こんな年じゃが、世界中を旅しておる」
魔牛を振る舞ってくれたのは、どこかの推理漫画で博士をしていそうな風貌の優しいおじさん。名前はいかにも事件が起こりそうな匂いがするが、みんなにご馳走してやるなんて、懐の深い人物に違いない。
「コナンさん!これ美味しいよ!」
「ほんとだ!めちゃくちゃ美味しい!」
「ワハハ!それはよかった」
「でも、よく魔牛なんて手に入ったな」
「世界中旅しておるからの、たまには珍しいものも手に入るんじゃ」
「へぇ~」
コナンさんは経験豊富な旅人のようだ。以前、秀部くんも魔牛の狩りを行ったことがあったっけ?あのときもたしか『美味しい』って言ってたような気がするな。私も異世界に行けたら食べてみたいものだ。
「ほれっ、ぶどう酒じゃ」
「おっ!サンキュー!」
「ありがとうございます」
何から何まで至れり尽くせりだな。みんなの輪の中に私も入りたい。美味しい肉に、異世界のワイン。私が異世界転生するなら美食の旅がいいな。
「あれっ、なんか眠いな…」
「ドサッ!」
「グー!グー!」
「スヤァ…」
あれっ?えっ?どうしたみんな。なんで寝てるんだ。おいっ、コナンさん一体何をやってるんだ…。
「ゴソゴソ」
「チッ、こいつらしけてやがるな」
「ろくに金も持ってねぇのか」
「しょうがねぇ、武器だけでももらってくか」
おいっ!このジジイはただの盗人か。さては肉かワインに薬を入れてたな!この野郎。許せないヤツだ。
「さてと、じゃあそろそろ行くか」
お~い!秀部くん!花ちゃん!お~い!起きろー!!!
(転田の思いが二人に届き、目を覚ます秀部と花)
「んっ、なんで寝てんだ?」
私の思いが二人に届いた。異世界には入れないが、なんとか二人を起こすぐらいことはできるようだ。
「ふぁ~、あれっ?コナンさん」
「ギクッ?な、なんじゃ?」
「あれっ、俺たちの武器が…」
「そ、それじゃわしはこれで…」
「おいっ!おっさん!」
私の思いが二人に届いたのか…。異世界に私自身が飛ぶことはできないが、意図した思いを届けることはできるようだ。ちょっとした手助けなら今後もできるかもしれない。
「バレてしまったか…、じゃが、わしも世界中旅しているだけあって、腕にはちょいと自信があるぞ」
「この悪魔め…」
(震える背中からオーラのようなものがほとばしる秀部)
「ハッ!?」
「許さねぇ、てめぇ!」
(怖い顔で振り返る秀部)
「てめぇ!」
「あっ、あぁぁ」
(あまりの恐怖におびえるコナン)
「てめぇの血はッ何色だぁ!!!」
バキッ!ボコッ!ドカッ!――
「す、すいませんでした、アハ、アハハ」
秀部くん。容赦ないな。たしかにコイツはコソ泥だが、何もそこまでしなくても。前までは別の意味で恐ろしいモヒカンだったが、今ではこんなにも正義感に溢れる強い男になってしまった。
怒れる彼に恐怖すら感じてしまったが、その戦いぶりはどこか美しさを感じさせた。まったく、男なのに見とれてしまったよ。秀部くんも大したヤツだ。
「もうこれに懲りたら盗みはするなよ」
「はっ、はいっ!」
「お前はこんなところで何やってたんだ」
「わ、わしは森の奥の洞窟に宝探しに来たんじゃ」
「あの洞窟にお宝なんてあるのか?」
「あ、ある!」
「そうか、俺たちもあの洞窟に用があるんだよ」
どうやら成り行きでコソ泥コナンと一緒に洞窟へ行くようだ。花ちゃんはボコボコにされたコナンを魔法で回復している。なんて優しい女の子なんだ。どんな人でも分け隔てなく接する彼女は、まさに女神のような存在だ。
それなのにトーマスとパーシーときたら、だらしない。秀部くんに蹴られてようやく目を覚ましている。彼らは本当にそれなりのハンターなのか?先が思いやられるな。
「コナンさん、大丈夫ですか?」
「あぁ、もう治ったよ、ありがとう、花ちゃん」
「花ちゃん、そんなヤツほっといて行こうよ」
「ダメだよ、魔法で回復はさせたけど、私たちより年なんだから」
「な、なんて優しい子じゃ…、わしはこんな子になんて酷いことを…」
コナンも深く反省したようだ。自分の行いを悔いて恥じている。その気持ちを忘れないようにな。
「で、あの洞窟にあるお宝って?」
「あの洞窟にはな、昔いた山賊がお宝を隠してるって噂だ」
「それっ、俺も聞いたことあるぜ」
これから向かう洞窟には山賊のお宝があるのか。ゴブリンを倒したあとは、お宝探しになりそうだな。あぁ、異世界の冒険が羨ましい。私も転生して、みんなと一緒に異世界を満喫したいよ。
「じゃが、あそこには今、ゴブリンの群れがたくさん住んでおる」
「任しときな!俺たちがサクッと倒してやるよ」
「おぉ!心強い」
「その代わり、お宝は山分けだぜ」
五人は森の中を順調に進んでいった。途中、何度かモンスターに襲われたが、花ちゃんの初めての戦闘も無事に終わり、魔法を使う感覚もいくらか掴めたようだ。やっぱり実践で覚えるのが一番早い。彼女の顔つきも最初よりは少し変わったような気さえする。
「ガサッ」
「ん?」
「ハッ?ガギャー!!」
(洞窟へ迫る一同に気付き、森の奥へ消えていくゴブリン)
「あっ、バレちゃったな」
「まぁ、いいだろ」
「フォッフォッフォッ、頼もしいわい」
「あっ!見えたよ!」
ついに目的地の洞窟が見えてきた。いよいよ、本日の討伐依頼兼お宝探しのはじまりだ。すでにゴブリンに見つかってしまったから、相手はかなり警戒しているかもしれない。いくらゴブリンと言えど、群れになればそれなりの戦力になる。こちらも警戒しておかなければ。
「着いたな」
「おぉ、ここじゃ」
洞窟の入り口は如何にもな『ダンジョン』といった出で立ち。花ちゃんにとっては初めての洞窟だ。彼女も嬉しそうな表情を浮かべている。
「これが洞窟なの?なんかゲームみたい」
「そうだよ、俺たちもついてるから安心してね」
「うん」
「どれっ、松明でも用意してやるかな」
「あっ、コナンさん、私の魔法でなんとかなるかも」
「へっ?」
すごい。杖の頭がまるで懐中電灯のように光を放っている。花ちゃんはすでに魔法をかなり使いこなしているようだ。これなら暗い洞窟の中でも安心安心。
「じゃあ、中行こっか」
こうして五人は洞窟の中へと入っていった。