花ちゃん初めての転生
「わぁ~!すごい!」
花ちゃんは秀部くんと異世界へ飛んだ。第一印象はかなりイイ。とても喜んでくれている。異世界転生屋として私も嬉しい限りだ。
「見て!私の服、本物の魔法使いみたい」
彼女からリクエストをもらった衣装にも満足してもらえたようだ。黒いローブと黒い帽子、そして頭が丸くなった木の杖。お手本のような魔法使いの格好だ。とても良く似合っているよ。花ちゃん。
「かわいいよ、花ちゃん」
「えへへ」
「まずは街の中を案内するね」
「うん」
秀部くんと花ちゃんの二人は、まずはじめに街の中を見て回るようだ。まるで異世界の観光だな。街の男どもはみな、花ちゃんのあまりの可憐さに、目を奪われている。それは仕方ない。こんなにかわいい魔法使いは、おそらく花ちゃんぐらいしかいないだろうから。
だが、あいにく本日は秀部くんと言うボディーガードが一緒だ。彼女に寄ってくる男どもを『ヒャッハー!』の表情ひとつで黙らせる。さすがに彼のあんな表情を見れば、誰だって『やばいヤツ』と思うだろう。最初は本当にただのイカれたやばいヤツだったが…。
「花ちゃん、ここでモンスターの討伐依頼を請けられるよ」
「そうなの?」
「ここはハンターたちのたまり場で、食事なんかもすることができる」
「わぁ、賑わってるね」
秀部くんはさっそく彼女と一緒に簡単なモンスター討伐に出かけるようだ。リクエストにあった『冒険がしたい』、『モンスターと戦ってみたい』という望みを叶えてあげなきゃ。百戦錬磨の秀部くんが付いてるんだ。何の問題もないだろう。
「よぉ!拳!」
「んっ?おぉ!トーマス!それにパーシーも!」
「久しぶりだな」
どうやら以前一緒に討伐依頼をこなしたハンターたちと再会したようだ。秀部くんが楽しそうな顔をしている。異世界であっても仲間というのはいいものだ。
「えっと、この子は?」
「あぁ、紹介するよ、花ちゃんだ」
「よ、よろしく…お願いします」
「か、かわいい!!!」
彼女のあまりの可愛さにトーマスとパーシーは動揺している。それはそうだ。こんな可愛い魔法使いの女の子を見れば、誰だって心を奪われてしまう。
「お、俺はトーマスだ、よろしくな」
(キザな表情を浮かべるトーマス)
「パーシーです」
(テーブルに飾ってあった花を取り、彼女に手渡そうとするパーシー)
二人ともカッコつけて自己紹介してるな。私がその場にいれば、彼女を守ってあげられるのに。
「おい、トーマス、パーシー、ちょっといいか」
「なんだ?」
(二人の背中から肩を組み、怖い表情を浮かべる秀部)
「花ちゃんにちょっかいだしたら殺すゾ!」
「わ、わかったよ…」
「いちいち怒んなって」
さすが秀部くん。あんな二人が近くに居たら花ちゃんが危険だ。これから花ちゃんが転生するときは秀部くんにもついて行ってもらおう。
「で、今日は何かの討伐依頼を請けるのか?」
「あぁ、花ちゃんが初めてだからさ、なんか簡単そうなヤツを探そうと思って」
「それなら俺たちもついていくよ」
「ありがとうございます」
これから四人はおあつらえ向きの依頼を探すようだ。まだまだ信用は置けないが、仲間が二人も増えれば申し分ない。これなら花ちゃんの最初の冒険は安心だ。
それから十分ほどが経ち――
「じゃあ出発進行!」
いよいよ花ちゃんが冒険へ繰り出す時が来た。本日の依頼は街から少し離れた洞窟に巣食うゴブリンたちの討伐だ。本来なら秀部くんひとりでも簡単にこなせるほどの簡単なものだが、花ちゃんにとっては大変なクエスト。三つ星ランクだ。
初心者がいきなり三つ星ランクは少しハードだが、一つ星や二つ星の討伐依頼はすでに他のハンターが受注していたようだ。まっ、仲間も多いから今回は問題だろう。
「外の自然が気持ちいいね」
「そうだね」
「まるでアルプスの大自然みたい」
そう言ってはしゃぐ彼女はまさにアルプスの少女そのものだ。だが、雰囲気はどちらかと言えば、ク〇ラのほうか。いずれにせよ、大自然に喜ぶ彼女はかわいい。
街の外にはすぐにちらほらモンスターが見えるが、こういったモンスターは、討伐依頼なんかはほとんど無い、ただの雑魚だ。気性が穏やかなモンスターもいるため、すべてのモンスターが悪いというものでもない。
「ぐぎゃー!!!」
「あっ!あそこでモンスター同士が戦ってる」
「あぁ、あれは『一角ウサギ』と『人食いリス』だよ」
(その言葉と同時にモンスター目がけて走り始める花)
「あっ!ちょっ!花ちゃん!!」
何やってるんだ花ちゃん!みんなも早く彼女を追いかけろ!まだ魔法の使い方も知らないのに危険だ。
「待ってー!花ちゃーん!!」
(尋常ではない速度で走る花に追いつけない一同)
「ギロッ」
(駆け寄る花に気付いたモンスターたちの視線が彼女に注がれる)
やばい――
このとき、その場にいた全員が、彼女がモンスターに襲われることを悟った…。だが、そんな予想に反して彼女は、驚きの行動を見せた。
「かわいいぃぃぃぃ♪」
なんと彼女はさっきまで激しく戦っていた獰猛なモンスターたちをいとも簡単に手懐けたのだ。
「よしよし、いい子いい子」
モンスターたちはとても可愛らしい表情を浮かべ、彼女の両ひざに頭を乗せてじゃれている。彼女の可憐さはモンスターにも効果的だったのか。これなら低ランク帯のモンスターでも、戦わずに済む。
「は、花ちゃん、それどうやったの?」
「えっ?かわいいから近づいたら、懐かれちゃった」
「えぇぇぇ!!!」
三人とも彼女の天性の魅力には度肝を抜かれていた。今までモンスターを手懐ける人間なんて居なかったからだ。精神魔法で無理やり従わせることはできるようだが、彼女は魔法いらず。これは才能だ。
「どれっ、俺もよしよし」
「ガルルル…」
「ぐぎゃー!!!」
「あイテッ!なんだよコイツ」
「花ちゃん以外には触らせないようだ」
「ちょっ!やめろって!なんでコイツ角で股間ばっか狙ってくるんだよ!」
どうやら花ちゃんに懐いたモンスターたちは彼女以外に尻尾は振らないようだ。案の定、調子に乗ったトーマスはウサギの角で股間への攻撃を受けている。まだ洞窟へ行く前だと言うのに、今からHPを減らしてどうする。
「どうすんだよ!これぇ~!!」
(ズボンの股間が部分が破れてしまい、股間を手で隠すトーマス)
「アハハハハ!!!」
(それを見て笑う三人)
「トーマスさんのズボンを魔法で直すことってできるの?」
「あぁ、たぶんできるよ」
「どうするの?」
「じゃあ、頭の中でトーマスのズボンが直っているのを想像して」
「できた」
「そしたら、そのままズボンの破れた部分目がけて、想像したエネルギーを飛ばすイメージで」
「えいっ!」
「ボンッ!!」
(トーマスのズボンが元通りになる)
「うぉっ!直った!」
「ほんとだ!やったー!魔法使えたぁ~」
初めての魔法を男の破れたズボンの股間部分に使ったのは、たぶん花ちゃんが世界で初めてだよ。よかったね。花ちゃん。魔法は成功だ。魔法の感度を高めに設定しておいてよかった。
異世界にいる魔法使いは呪文を詠唱して魔法を使うが、私が転生させた者には基本的にイメージだけで魔法が使えるように設定している。いわゆる『チート能力』に近いが、私は魔法使いを希望する人には、簡単に魔法が使ってもらいたいと考えてる。怪我なんかしたら大変だからだ。
それに異世界の場合、呪文を覚えるのが大変だし、そもそも魔力が無い人に魔法は使えない。転生者だからこそ、そこは融通を利かせて、安全第一で異世界を楽しんでもらいたいのだ。
「ありがとう、花ちゃん」
「えへへ、どういたしまして」
(二人を羨ましそうに見つめる秀部とパーシー)
「ビリッ」
「バリッ」
「あっ、俺もなんか尻部分が破れちゃったなぁ」
「俺は服のボタンが全部取れちゃったよぉ」
「あらっ、大変!」
「おいぃぃぃ!!お前ら絶対わざとだろぉぉがぁぁぁ!!!」
何やら三人は不毛な戦いをしている。みんな彼女に服を直してもらいたいようだ。羨ましい。私も異世界へ行けたら、彼女に服を直してもらいたい。あっ、そうだ。彼女が帰ってきたら裁縫で私も何か直してもらおう。
「てめぇはずっと破れたのを着てろ!」
「ビリッ!」
「お前も股間だけ丸出しになってろ!」
「バリリッ!!」
「てめぇらの服全部破ってやるよ!」
「ビリッ!バリッ!」
「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」
こうして三人は服の破り合いで、無事に全裸になってしまった。