ATMになった男
朝、目が覚めたら、突然ATMの機械になっていた。
そんな事があるのだろうかと、不思議な気分になった。
自分はATMになったのだと理解するまでに、時間がかかった。
そう、あの、お金を出したり、お金を払ったり、お金を送ったりするあれである。
この状況をどう理解したらいいんだろうと、考えていたら、お客さんがきた。
何故かイライラしてそうだった。
ご要望のボタンを押して下さい。
そう言ってみた。
乱暴な操作で、体のスイッチを押される。
5万円。自分の体から引き出された。
お客さんは、ひったくるように、お金を掴んで、明細はくるめて投げ捨てていった。
恐らくだが、向いにパチンコ屋が見える。
負けていて、追加資金を借りにきたのだろう。
またお客さんがきた。
老夫婦だ。
そうか今日は多分、年金のおりる15日なのだ。
優雅で気品がある夫妻だった。
体からお金が24万円引き出された。
これだけじゃあ、旅行何て行けないわよね。
勝ち誇った顔で言っていた。
多分、年金意外に貯金もあるのだろう。
ちょっと覗いてみるかと脳みそにある、ネットワークと口座番号を繋いでみた。
残高、2億4357万9252円。
ちょっと分けて欲しかった。
ってか口座は果たして、自分の銀行の預金だけなのか??
もし、他にも預金があるのなら、、、詐欺だけには気をつけて欲しい。
老人達だけで、世の資産の半分以上は持っているという。
墓場まで持っていけないのに、若い頃の時間はお金じゃ買えない。そう嘘ぶきながら、大層なお金を持っている。謎だ。
若い時、どんなにお金が欲しくても、出費が追いつかない位出ていく。
自分も人間だった時、お金は本当に入ってきてるのだろうか??出ていくばっかりだと思っていた。
恋愛もしたい時には、サッパリで、もういいやと思った時、突然モテたりする。
そういう事なんだろうか。
ATMである事に慣れてきた時、偶然元カノがATMの前にきた。
力を力ませ、ボタンを押していく。
くそっ。という言葉を吐きながら、誰がアンタ何かに頼むかっという、謎の言葉を吐きながら、ATMを、元カレを蹴りながら、エラーの出た明細を握りしめていた。
少し今現在ATMである自分が悲しくなった。
自分は、人間ですら無くなったのに。
お前達はお金が無かろうが、悲しかろうが、人間じゃないか。
人間で居られる事に感謝もしないで、ATMに八つ当たりするんじゃない。
自業自得だ。
数字は時に残酷だ。
人を数値化する機械があったら、人は比較という世界に置かれる。
比較は差別や様々な障害を産む。
人間に戻りたい。お金に惑わされ、無いものねだりばかりした人生をやり直したい。
自分は血の通った人間だった。
全てを望んだ結果、何故かATMになってしまった。
辛い。
人の生活が見える分、お金に左右されている人達が多い事に、気付く。人間の癖に。
またお客さんか。
子供だな。
100円玉を握りしめて、ATMに近づいてくる。
あぁ、今は100円玉も、手数料が取られるんだよ。
大人は賢いから、君のその100円を丸々取っていくんだよ。
君の夢も希望も取っていくんだよ。
何故か泣けてきた。
君の一生懸命握りしめた、100円玉が、いつか、綺麗な花になって、帰ってきますように。
機械になっても、生きたいと望む、自分は愚かな生き物であるとつくづく思う。