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9:お出かけ 1


土曜日。

さあユリウスとケーキ屋に行く日だと意気揚々と校門のところに行く。

朝から出て、買い物をしつつケーキ屋をめぐるというプランだ。

朝9時を過ぎているので人通りがある。

生徒たちは制服のまま、そう制服を見せびらかすように王都へと繰り出す。

名門であるシナノ学園の制服は羨望の的だ。見せびらかしたくもなるだろう。

赤い長い髪を流して、歩く。

個人的には可愛い格好をしたい。ので、自分はワンピースだ。

校門に近づくにつれ人の声がする。


「まあ美しい。どこのクラスの方かしら」


うん?


「ああ、男の子か。本当に美しいな」


人ごみから眺めているとユリウスが立っていた。

ああなるほど見たことない人がいたのか。


「ユリウス。お待たせ」

「うん!待った!」


ユリウスは嬉しそうにこちらに来ると人混みが割れ、私まで走り寄ってくる。

馬車が並んでいるのは土日で王都内の家に帰る生徒もいるためだ。

並んでいる馬車の一つに乗り込み、城下町までとお願いする。

ガタガタと揺れる馬車の中でユリウスは笑顔で言う。


「大通りで買い物する?」

「うん。便箋が欲しくて」

「そっか、いいね」

「ユリウスも服見る?」

「うん、見たい。夏の新作が出るんだ」

「いいね」


わくわくとしているとがたんと馬車が止まる。


「大通りの入り口です」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます」


2人でお礼を言って馬車を降りると御者にお金を渡す。


「ああ、生徒さんからは受け取れませんよ」

「でも」

「いいんです。それじゃあ楽しんでくださいね」


御者は気持ちよく微笑んで馬車を駆って去っていった。


「便箋からでいい?」

「いいよー」


紙屋に入りカウンターによる前に一覧を見る。

と、背後から声をかけられる。


「アルジェリー嬢」


振り返って上背のある逞しいジェレニカが立っていた。その背後にはテユティオルが欠伸をかみ殺している。が、目線はしっかりと私をとらえていた。


「げ」


ユリウスが喉の奥で呻き私は一歩下がる。

カーテシーをしようとしてそれをジェレニカに押しとどめられる。


「いいんだ。気にしないでくれ」

「ですが、公爵家のご子息ですし」

「それはそうだが、君には気軽に話してほしい」

「そうですか?」

「ああ」


うーん何かの罠だろうか。怖いな。

悩んでいると入口の方から話かけられる。


「あ、レリンサ様……っ!」


ヘレナが現れて目線が一斉にそちらに向く。


「クルスク様、ビスマルク様、ブリャッヒャー様、おはようございます」


美しいカーテシーを見せたヘレナにジェレニカがそれを抑える。


「いいんだ。同じ学び舎の仲間だろう」

「そうですか?それでは失礼して」


ヘレナはカーテシーから戻り、お辞儀をした。


おおっと!この広い王都で出くわすとはラッキーだ!

さ!選びたい放題だぞ!


すすすとヘレナに寄り耳打ちする。


「どなたかとお買い物に行かれては?」

「いえ、お金がないので」

「私が出します」


お小遣いはたっぷりもらっているのだ。えっへん。なにせ幼いころから仕事をしていたからな。

父親も母親も喜んでお小遣いをたっぷりくれた。だがこれは領民の血税である。慎重に使わねば。


「それなら、私」


きらきらとした赤い目で見られる。

やっぱりな気になる人がいたか。言い出しづらいよな。


「レリンサ様と一緒に王都を回りたいです」

「え?でも……」


悩んでいるとまた入り口が開く。


「なんだそろって」

「ディラン先生」


あー!もしかしてディランルートか?

それで関係ないとばかりに私に声をかけたのか。


「ディラン先生は何しに?」

「お前が入っていったから……ごほんごほん、紙を見に」

「へー」


何か言われた気がするが聞こえなかったので単純に紙を見に来たのか紙が好きなのかな?


ディラン先生の後ろからルロヴェネーゼとティニアシアが現れて店が狭い。

ティニアシアがユリウスを見て舌打ちをした。


柄悪いぞ。上品で品行方正が貴方の売りだぞ。

まあお互いに舌打ちしているが。


ユリウスと手をつないでいるのを見てティニアシアが殺気立ってその手を引きはがす。


「どうしたの?」


驚いて聞くもティニアシアは曖昧な表情をしてそれからユリウスを追い出そうとする。


「どっかいけ」

「僕は約束してるもん。お前はレリンサが約束破るような人だと思うの?」

「この」


ティニアシアがユリウスの肩を掴む。


おっとさすがにまずいぞ。


「ティニアシア」


穏やかに名前を呼ぶと彼はっとしてこちらを見て恥じ入るようにうつむいた。


「見苦しい所を見せて申し訳ない」

「なぜそんなに仲が悪いんだ?」


ジェレニカが聞くとその顔を見てティニアシアはぎょっとして頭を下げて言う。


「馬が合わないんです」

「そうか。言いづらいことを聞いてすまなかった」

「いえ」


あれ、ティニアシアには気を使うな的な事を言わないのか。


女性には優しく男性には厳しくなタイプだったか?

ゲーム内では男女構わず厳しい人かと思ったが。


テユティオルは面白そうにニヤニヤ見てるし。華やかな貴族服が似合うが着崩している。

そう考えるとこの空間眩しい。キラキラな貴族服を着ている。もちろん夜会服ほどじゃないが。


「うわっ」


その声に一斉に振り返る。ちなみに私は食い気味だった。


「なんですか皆さん。店が狭いですよ。関係ない方は出てください」


イルトヴェガーナだああああああ!!

今日は髪を三つ編みにしている。


心底いやそうに見渡し、テユティオルが口を噤んですっと気配を消した。

だがいまいち上手くいかなかった。

イルトヴェガーナがテユティオルを見て口を開く。


「ブリャッヒャーさん」

「……はい」

「貴方ここに用事が?」

「ジェレニカが用事あってそのついでについてきました」

「ふむ、ビスマルクさんはもう用事は終わりましたか」

「……いえ、あの」

「なんですか」

「アルジェリー嬢に用事があって」


その言葉にユリウスが叫ぶ。


「なんで!?」

「ユリウス」


窘めると頬を膨らませて私の手をぎゅっと握る。


というか「何の」ではなく「なんで」なのか。

些細な事だかなんか引っかかるな。ボタンを掛け違っているような違和感を覚えるがうまく言えない。


イルトヴェガーナはユリウスを見て、それから興味を失ったように顔をそむけた。


「ここでなければならない用事ですか」

「いえ」

「ならここではない場所で用事を済ませなさい」

「はい」


テユティオルとジェレニカは紙屋から出ていき、次はティニアシアとルロヴェネーゼを見た。

しかし賢い彼らはそそくさと紙屋を後にし、イルトヴェガーナは鼻を鳴らした。


「新しい日記帳が欲しいのですが」


と店員に話しかけはじめてイルトヴェガーナはこちらに興味を失った様子だった。


「じゃあ紙見ていい?」

「うん」


ディラン先生も一緒に紙を見てあれがいいこれがいいと和気藹々といろんな紙を眺めているとひときわ美しい紙がディスプレイされているのを見た。


「わあ、綺麗」


薄緑色の紙に花の透かし。薄い紙は書き心地もよさそうだ。


「いいなあ」

「ああ、そちらは非売品なんですよ」

「え、残念」

「職人がもう少し薄くしたいそうで」


別の店員にそう言われて別の紙を見る。


「あの紙」


ディラン先生が声を出す。


「買います」

「いえ、非売品で……」


店員にディラン先生が耳打ちをした。

店員は耳打ちされて目を見開いた店員は鍵束を取り出し、ディスプレイを開ける。

そして恭しく紙を取り出し、お辞儀をした。

胡乱げな目でイルトヴェガーナがディラン先生を見ていた。


「ほら。好きな人に手紙でも書け」

「わ。でも」

「いいからいいから」


美しい紙を受け取り、顔を熱くする。


わ!嬉しい!


「ディラン先生に手紙書きますね!」

「え、あ」


ディラン先生は私の言葉を聞いて緑の目を真ん丸にして戸惑っている様子だった。

それから、かあと顔を赤くした。


なんで?


疑問を口にできないままディラン先生はそのままふらふらと紙屋から出ていった。


ん?何かおかしなことを口走っただろうか。

お礼の手紙を書くといっただけなのに。


イルトヴェガーナが何かつぶやいて、それから彼も日記帳を手にふらふらと紙屋から去っていった。


何だろ。

ふふ、推しと同じ空気が美味しいぜ。


紙を後60枚選んで紙袋に入れてもらった。


「6万オシアです」

「はい」


封筒も合わせてこの値段だ。貴族間でやり取りする紙ならまあこんなもんだ。

金を払い紙袋を下げて店を出る。ヘレナも日記帳を買っていた。

と、ティニアシアとルロヴェネーゼ、ジェレニカとテユティオルが立って待っていた。


「なんでいるんですか?」


ヘレナの魅力に気付いたのかと思ってヘレナを前に出す。


「え、え、なんでですか?」


ヘレナの困惑した声に彼らは無視してこちらに来る。


「一緒にお茶でも」

「いえ、これから友達と服を見に行こうかと」

「それも一緒に」


ルロヴェネーゼがそう言うとティニアシアが肘でルロヴェネーゼを押す。


「僕と」

「僕と一緒に行くって約束した」

「お前も一緒なら嘘にはならないだろう」

「屁理屈だ!僕はお前と一緒はいやだ!」


ええ……そんな嫌う?流石に可哀想だ。


「ケーキ食べたいならまた今度……」

「こいつと2人きりにするのが嫌なんだ」

「友達だよ?2人きりになるのは普通でしょ」

「友達なら僕が一緒に行ってもいいだろう?」

「うーん?でもユリウスはいやなんだよね?」

「いやだ!」

「食堂の延長と考えればいい」


ジェレニカがそう言うとユリウスは微妙な顔をした。


いやだとは言えないが、嫌なんだろうなあ。


テユティオルが横から声を出す。


「俺も一緒に行っていいか」

「ええ?」

「まあいいだろ」


ユリウスは嫌そうだ。


「また今度」

「まあまあ」


あ、押し切られた。くっ!イケメンの圧力め!


歩きながら服屋に向かう。貴族ならサロンで買うものだが欲しいのはドレスじゃない。

一件目の服屋に着き、中に入ると店員が上品にお辞儀をした。

ぞろぞろと7人――ヘレナは無理を言って付いてきてもらった――で服を色々見せてもらう。


「ねえこれ、可愛い!」


夏用の薄い生地でそれを重ねたふわふわの桃色のワンピース。


「いいね!お揃いで買おうかな」

「それいいわね」


うふふ楽しい。


ユリウス以外の男性陣は茫然と立っているだけだった。


「あ、このワンピース良いですね」


ちなみに服には値段札などついていない。

ヘレナの持っている服はいい物だ。


「夏用の青いワンピース。いいですねよくお似合いですよ」


夏っぽい。いいね。

レースがいい感じだし。


ただヘレナは服を見てそれから店を見てそっとハンガーラックに戻す。


はっとした。そうか男爵家のお小遣いじゃ買えないと分かるか。


そしてばっと背後を振り返る。


今がチャンスだぞ!

すすすとユリウスに近づきヘレナの話を振る。


「ヘレナに服買ってあげて!」


ひそひそと話すとユリウスは困惑気味に顔を引きつらせる。


「いや、ちょっとそれはさすがに」

「え、なんで?」

「男性から女性に服を送るのは気があるってことだから」


うん。うん?


「ないの?」

「ないよ!」


顔を真っ赤にしたユリウスにきょとんとする。


「頭もよくてこんなに可愛いのに?」

「うん。僕もう好きな人いるから!」


はっとしてユリウスが口を塞ぐ。


ほほほほほほ。まさかモブに恋を?いや現実世界でモブって言い方はないか。

ユリウスにとってその人は魅力的な人なんだな。

全然知らなかった。ちゃんといるじゃーん。じゃあ、ユリウスルートはなしかな?


ふとティニアシアをみると隣のルロヴェネーゼ、そのさらに隣のテユティオルとジェレニカが凍るような目でユリウスを見ている。


うん?心当たりがあるのか?


「殿下」

「え?」


ルロヴェネーゼに近づきヘレナを一通りプレゼンした後、さあとハンガーラックを指さす。


ヘレナが恥ずかしそうに顔を伏せている。


お、ルロヴェネーゼか!?


「どうですか!?」

「いや私も……」


残念。まだそんな間柄ではないか。

ティニアシアを見ると首を振られる。

ジェレニカも首を振り、その隣のテユティオルもニヤニヤしながら首を振った。


ぬう、まだ誰ルートとかないのか。

逸りすぎたな。


「そのワンピース私が買いますわ」

「あ、そうですか?」


要領を得ない感じでヘレナがそう頷くと私は焦って早口になる。


「ヘレナ様へのプレゼントです」

「え」


友達にプレゼントは悪手ではないだろう。

戸惑うヘレナをそのままに別の服を見る。


「これなんかどうかな」


白ワンピースに桃色のボレロを取り出すとユリウスは嬉しそうにしつつも微妙な顔をした。


「うーん。レリンサには地味なんじゃないかな?」

「そうかな」

「うん」


ならいいや。


「お会計お願いします」

「はい。2着で70万オシアです」

「はい」

「れ、レリンサ様!やっぱりいいです!いりません」

「これはお友達としてこれを着て一緒にまたお出かけしようというお約束です」


そう言うとヘレナは顔を真っ赤にしてでもと言い募る。


「お約束、していただけませんか?」

「……ありがとうございます」


ぺこりと頭を下げられ、それを微笑んでみた。


「約束ですよ」

「はい」


ヘレナの分の紙袋を渡し、自分も紙袋を受け取る。

お揃いのワンピースをユリウスと買って、楽しい一日だ。









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