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8:2年生の先輩


1ヶ月の学園生活で私は疲れ切っていた。

相変わらずヘレナが誰ルートなのかは分からずじまい。

勉強は難しく、図書館で宿題にかじりついている状態だ。


そしてテスト当日、手ごたえを感じなかった。

うーんと悩み次の日には公開処刑スタイルのテスト結果が廊下のボードに貼りだされていた。


テストの結果を眺める。


学年上位10人が公開処刑されているのだが、その中でぎりぎり10位に自分の名前があるのを見て喜んだ。


イルトヴェガーナの冷たい視線にめげずに宿題がんばった甲斐があった!


1位はティニアシアだった。2位はルロヴェネーゼ、3位はヘレナ。4位にユリウスがいる。

皆頭いいな。

ちなみに10位までの間に何人かBクラスの子が混ざっているので10位はお情け感がある。


結果に満足しているとユリウスが寄って来た。


「ケーキ屋さん、今日行く?」

「さすがに時間がないよ。土曜日にゆっくり行こうか」

「分かった。僕凄いでしょ」

「凄い。勉強頑張っているんだね。私はまだまだ」

「10位でも十分だよ」

「そうかな」

「うん」


頬にキスを落とされ、手をつなぎながら教室に戻りユリウスは私の席までついてきた。

ティニアシアがそれを見かけて肩をいからせてやってきてユリウスを私から引きはがす。


「このっ」

「なあに?友達と一緒にいるだけだけど」

「レリンサに触るな」

「え」


何をそんなに怒っているんだろう。

ただ手をつないだだけなのに。友達ならそんなものだろう。

ティニアシアはコミュ障か?


うーん婚約してから5年間の間は女性にも男性にも紳士だったけどな。ユリウスだけなぜ?


友達にも嫉妬しちゃうタイプか?私の貴重な友達を奪わないで欲しいが。

でもそもそも、ティニアシアは家のために婚約しているだけだし嫉妬はないか。じゃあなんだ?独占欲か!

なるほどなるほど。ユリウスは私にとって大切な友達だからその立場が気に食わないかもしれない。

特別な友達って周りから見ても羨ましい物なんだな。

どうしようかと思っているとティニアシアはユリウスを詰る。


「女子と見れば見境がないな」

「そんなことはないけど。友達だから」

「友達以上にはなれないな」


その言葉にぎろりとユリウスがティニアシアを睨む。


「……」


なぜこんな空気に?

ユリウスは私の頬にキスを落とし、去っていった。

ティニアシアにハンカチで頬を拭かれ呟かれる。


「あまりあいつの好きにさせないでくれ」

「でも、友達だし」

「それは、そうだけど」


口ごもるティニアシアはヘレナが来るのを見ていた。

ちょっとずれてヘレナが席に座れるようにしてそれからこちらに話しかける。


「ケーキ屋に2人で行くの?」

「うん。約束だし」

「そうか……」


肩を落としてティニアシアは自分の席に戻っていった。

なんなんだ。分からん。ケーキ食べたかったのかしら?


そんなことより!テストの結果ですよ!


「ヘレナ様学年3位なんてすばらしいですわ!」

「あ、ありがとうございます」

「ヘレナ様ほど聡明な方なら殿方も放っておかないでしょう」

「そうですかね?」


曖昧な顔をされ、おやと思う。そろそろ好きな相手や気になる相手がいてもいいころなのに。

あ、2年生の攻略対象とは会ってないかな?


「2年生の階に行きます?」

「なんでですか?」

「先輩の意見を聞けると良いかと思って」

「ええ?」


2年生の攻略対象は2人。ヤンキーで頭のいい先輩と生真面目で寡黙な先輩。


「ささ、今のうちに行きましょう」

「え、ええ……」


攻略対象に会わせて恋に目覚めてもらおう。そうすれば、誰を避ければいいかわかるし。

なんかティニアシアもルロヴェネーゼもユリウスもディラン先生もヘレナにメロメロになっているように見えない。

疑問は増えるばかりだ。


教室を出て階段を上る。わざわざ2階に2年生、3階に3年生が教室を持っている。

城なんだから1階で全部賄えるほど広いはずだが階を離すことで秩序を保っているらしい。

数分歩いて2年生のAクラスをのぞき込む。


「ほら、2年生の皆様は大人びていますね」

「は、はあ」


ヘレナは戸惑い気味に2-Aをのぞき込み、それから教室の前に張り出されている紙を見た。


「1位の方は満点ですね」

「さすがに勉強の仕方が違うのでは?」


紙を見上げていろいろ言っていると背後から声をかけられる。


「1年生か?」

「あ、はい。失礼しています」


灰色の髪に金に銀のアースカラーの目の男子学生が話しかけてくる。

ジェレニカ・ビスマルク。

生真面目で魔法の鍛錬に余念がなく体格もいい。勉学もトップクラスで非の打ちどころのない人物だが、如何せん生真面目すぎる。冗談が通じない節がある。


「ああ、オーリック嬢とアルジェリー嬢か」

「噂になってますか?」

「桃の聖女と赤の聖女だからな」

「……」


恥ずかしい、顔を赤くして愛想笑いをしてヘレナを見る。

ヘレナはジェレニカを見てカーテシーをする。

流石にビスマルク公爵家の息子の顔は知っていたか。


「ヘレナ・オーリックと申します」


それに倣って私もカーテシーをした。

相手はビスマルク公爵家の末息子だ。地位が雲泥の差だ。


「レリンサ・アルジェリーでございます」

「これは丁寧にありがとう。私はジェレニカ・ビスマルクだ。2年生の教室へは何しに?」

「テストの結果を見に来ました」


どうこのイケメンどう?とヘレナをちらりと見ると別に変化は見られない。

1ヶ月経っても変化なし?この状況大丈夫かな。

私何の罪もなく断罪死刑とかないよね?


「ジェレニカ」

「ああ、テユティオル」


教室から怪訝そうに現れたのは制服を着崩した精悍な白髪藍色の目の男子生徒。

テユティオル・ブリュッヒャー。

天才肌で面倒なことが嫌いという点ではディラン先生に似たところがあるが、致命的に違うのは、面倒なことは本当に何もしないというところだ。

授業は平気で寝るし、逃亡してさぼる。だが、テストの点数は常にトップ。

8大貴族の一角、ブリュッヒャー侯爵家の2男という地位の上結果も出しているため教師も強くは文句を言えない。


ヘレナがカーテシーをしようとするとテユティオルが制した。


「いい面倒くさい」

「は、失礼しました」


ヘレナがお辞儀をするとテユティオルはまじまじとヘレナを見ている。

お!気になる?可愛い子気になる?


「桃の聖女か。じゃあ、そっちは赤の聖女?」

「え、あ、はい。恐れながら、そういう風に名前が広がってしまっています」


目をそらすとテユティオルは片眉を上げて首をかしげる。


「聖女と呼ばれるのが不満なのか?」

「不満というか恥ずかしいというか」

「名誉ある称号だ。誇れよ」


傲岸不遜だなあと思いつつ苦笑しておく。


「俺はテユティオル・ブリュッヒャー。面倒なことはしない以上」

「あ、はい」


そう言ってテユティオルは教室に戻っていった。


「そろそろ時間だ。君たちも戻るといい」

「はい、失礼します」


ヘレナと2人そろってお辞儀をして背中を見せる。


「あれが噂のレリンサ・アルジェリーか」


教室に戻ったジェレニカは隣のテユティオルににやにやと見られる。


「噂のレリンサ・アルジェリーに会えてうれしいか?」

「まあ、嬉しいな」


赤い髪に濃い青い目を思い出しながら真面目に答える。


「ご執心だったからな」

「彼女の点数を見たが10位だった。能ある鷹は爪を隠すという奴だろうか?」

「さあなあ」


テユティオルから見てレリンサの第一印象は平凡。もちろん容姿は恵まれているだろうが、それだけだ。特筆すべき点ではない。

本当にあんな斬新な政策を幼いころから打ち出していたのかと疑いたくなる。

だが聖女としての実力は十分に思える。潜在魔力はジェレニカ以上だ。

ただ、魔力走査を一瞬で行っても意にも介していないのか、気づかないのか。あれほどの魔力があれば指先に触れられる程度の違和感はあったはずだが。

桃の聖女、ヘレナの方はどこか戸惑ったようにこちらをテユティオルを見ていたのに。

ヘレナの方が魔力操作は上手いのだろう。


「仲良くなるにはどうしたらいいだろうか」

「珍しいなお前が他人に興味を持つなんて」


真面目な顔をしてこちらを見ているジェレニカを面白いものを見つけたように笑う。


「まあ、昼食が楽しみだな」



大食堂に入るとひょこっとニヤニヤ顔のテユティオルが現れた。

びくっとその精悍な顔を見上げてどぎまぎする。


断罪か!?ここで断罪か!?何かしたっけ。2年生のところに行ったのがまずかったか!?


びくびくしていると大真面目な無表情でジェレニカがその後ろから現れて言う。


「一緒に昼食をとってはくれないだろうか」

「え、あ、はあ。構いません」


なんだそんな事か。しかしなぜ一緒に昼食をとりたいんだろう?


「構う!」

「え」


ユリウスが後ろからそう叫び、私の手を握った。


「僕と2人で食べるんだ」

「ヘレナ様も一緒だよ」

「じゃあ3人」

「僕もいるが」


そうティニアシアが言うと見もせず冷たく返答した。


「お前はひとりで食べてろ」


絶対朝の件引きずってるじゃん。めちゃ怒ってる。

何を怒ってるんだろうなあとのんびりしているとルロヴェネーゼが追い付いてきて私に声をかける。


「昼食を一緒に」


このメンツで昼食をとるのはいつものことなのでいいがジェレニカとテユティオルが問題だ。


「机は6人掛けですし。2年生と昼食をとるのは恐れ多いので」

「そちらは王太子殿下が一緒じゃないか。机は合わせればいい」

「ええ……」


どうしても一緒に食べたいらしい。

まあいいかと思い始める。ディラン先生とイルトヴェガーナ以外はここにいるし、ヘレナも選びたい放題だ。


そうだ進展するいい機会じゃないか!


「じゃあ、一緒に食べましょう」

「ええ!?」


ユリウスが嫌そうにしたが頭を撫でてなだめる。


「まあ、まあ」

「うう」


ふふ、ユリウスが選ばれたらいいな。ヘレナともっと仲良く出来そう。

そうしたら3人でどこか行ったりするのかな?


大食堂のカウンターに並びシチューを頼むとテユティオルはカナッペを大量に注文していた。

そんなに食べるなら普通にシチュー大盛とかすればいいのに。

ヘレナは焼きナス定食を頼み、ルロヴェネーゼはオムライスを大盛で頼んでいた。

ユリウスはステーキを500g頼み、ティニアシアは鳥白湯。

流石日本製のゲーム。メニューが自由だ。

ジェレニカはキッシュを頼み、各々盆をもって席を探す。

空いている机を2つ見つけてジェレニカは片手で机を動かすと盆を置き、椅子を並べ直す。

2つ分の机に12脚の椅子。問題なく並ぶかと思いきや私の隣にユリウスが当然のように座り、その反対側に素早くティニアシアが座る。

肩を落としたルロヴェネーゼが目の前に座るヘレナの隣に座り、ジェレニカとテユティオルはヘレナの隣とその隣に座った。


「いただきます」


食事をとりながらテユティオルはアルジェリー侯爵領の施策の話をしたがった。

あれやこれを聞かれそれに淀みなく答える。食事を終えるとジェレニカは顔を真面目にした。


「アルジェリー嬢は婚約者はいるのか?」

「え、あ、いえ。いません」


ティニアシアが顔を顰めてジェレニカを見る。


「何か関係が?」

「いや、婚約を申し出たいと思って」

「はい?」


何故だ。貴方方はヘレナにメロメロになるはずでは?

アルジェリー侯爵家は確かに権力を持っているだが、ビスマルク公爵家ほどではない。まだ無視できる範囲のはずだ。


ちらちらと周囲の生徒がこちらをうかがっている。


変な真似をすれば一気にうわさが広がる!

そうするとヘレナがジェレニカを選んだ際に断罪死刑!

ぎゃーーーーー!!


「まだ結婚を考えるには早いかと。おほほほ」


そう言って盆を持ってそそくさと去る。

茫然としているジェレニカを無視して速足で教室に向かっていると後ろから手を引っ張られる。

振り返るとティニアシアが顔を俯かせていた。


「君は、僕の、婚約者だ」


ティニアシアが泣きそうな顔でそう言い、私を抱きしめた。


「うん」


うん。そうなんだけど、貴方はヘレナの魅力に気付いて私を疎ましく思うんだよ。


そんな事実を言えないままティニアシアの背中に手を伸ばした。

お気に入りといいねありがとうございます!

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