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6:初めての授業

「11時30分だ」


上品な懐中時計を取り出して見たルロヴェネーゼがぐっすり寝ているレリンサを揺り起こした。


「おい」

「……ぐふ」

「……」


すやすや寝ているレリンサにティニアシアが肩をゆする。


「レリンサ?」

「え!?あ!はい」


大きな声を出して飛び起きると司書席の方から咳払いが聞こえる。


くっ!推しに疎まれた!


「寝てません」

「寝てたよね」

「寝てません」

「寝てた」

「……」

「初日だしな。気が緩んだのだろう」

「殿下はお優しいですね」


肩を落としながら本を閉じて持つ。

元の場所に各々戻し、イルトヴェガーナ司書にお辞儀をして去る。


「読書が趣味なんじゃなかったのか」


ルロヴェネーゼがそう言うので私はいたたまれなくなって顔を赤くした。


「いえ。その、実はこれと言って趣味はないです」

「そ、そうか」


イルトヴェガーナがいるから図書館には通うがな!


「おすすめの本とかありますか?」

「図書館なら一緒に行こう」

「え?ああ、え?」


なんで?


「ルヴェネが一緒に行く必要はないだろう。僕が一緒に行くよ」

「でも、ティニアシアは本に詳しくないでしょう?」

「……」


本に詳しくないのになぜ図書館についてきたいのか?


好奇心旺盛なタイプか。


いろんな本があるからな仕方ない。

でもひとりで行きたいんだよなー。攻略対象は主人公にメロメロになるんだから。

あーそう考えるとイルトヴェガーナも主人公にメロメロになって私は疎まれるんだろうな。

うっ悲しい。

でも推しはそっと遠くから眺めるのがマナーだから。


「僕もついていきたいなー」


ユリウスがそう言い私の頬にキスを落とす。


ぴしりと空気が凍った気がした。


気のせいかなと思いつつユリウスに優しくうりうりと体当たりする。


「でも、お友達出来るでしょう?」

「僕あんまり友達出来る気がしないんだよね」

「一緒に友達作る?」

「うーん」


おや?ユリウスは女子に目がなく食っては捨て食っては捨てを繰り返すんじゃなかったのか?

いやそもそも、ユリウスはAクラスだったか?


クラスが違う気がする。思い出せん。

如何せんゲームをやったのは15年以上前だ。記憶も曖昧だった。


ゲームの強制力ってどこまでだ?

うーん致命的に分からん。



昼食をとるのに大食堂にくると人でごった返していた。

一クラス大体20人。それが四つで80人が3学年。

全部で約240人か。


うわあ。


広い空間に大量の上質な木製のテーブルが無数。それに合わせて同じ木製の椅子が無数に置かれている。

だいたいが6人掛けである。

適当に椅子に座るとユリウスがにこにこしながら聞いてくる。


「何食べたい?」

「うーんシチューとか?」

「もらってくるね!」


止める間もなく3人はカウンターに向かっていった。


「アルジェリー様」

「ヘレナ様、私のことはレリンサで構いませんよ」


声をかけてきたヘレナににこやかにそう返すとヘレナははにかみ、頭を下げる。


「手紙を送って来ました、その、レリンサ様」

「はい」

「本当にありがとうございます」

「いえ、困っているときはお互い様です。本当に効果が出るかどうかは分かりかねますので」

「まあ、本当に聖女なんですね」

「ええ?これくらいは貴族として助け合うのは当然ですよ」

「そうですか?」

「そうです、そうです」


憧憬の眼差しを向けてくるヘレナを気まずく思いながらとりあえず席を譲る。


「よかったらここに」

「いえ、お隣に座ろうかと」

「あ、そうですか」

「では料理をとってきますね」

「はい」


先生たちは適当に座っている。

ディラン先生はどこかなーと眺めていると頭上から声がかかる。


「遅刻しなかったな」

「リシュリュー先生」

「ディランでいい」

「ディラン先生」

「ああ」


ディラン先生はお盆に乗っている料理を机に置いて私の前の席に座った。


「あ、シチューですね」

「ああ」

「美味しいですか?」

「ああ」

「よかった。私もシチューを頼んだんです」

「……誰に?」


目を眇められた。

当然のようにユリウスが行ってしまったが、よく考えたら感じ悪い態度だったな。


「ユリウスです」

「そうか」


いいの?性格悪いと思われたかな。

ディラン先生は気だるげに料理を眺めている。

シチューとパンのシンプルなものだがシチューにはたっぷり肉と野菜が入っている。


「食べないんですか?」

「待ってる」

「あ、はい」


待つんだ。


「ディラン先生が担任でよかったです」

「そうか?」

「はい。ディラン先生は教え方がうまいですし。会えてうれしいです」


そう言うとディラン先生ははにかんで頬を染める。


「そうか」


言葉は少ないが嬉しそうだ。

ディラン先生をにこにこしてみていると微妙な顔をされる。


「俺を見てて楽しいか?」

「先生格好いいですから。服装も洗練されてていいですよね」

「そう、そうか」


そう言ったきりディラン先生はそっぽを向いてしまった。

おや、言ってはいけないことを言ったか。


謝ろうとしたところでユリウスが帰ってきて両手にお盆を持っている。


「お待たせ―!」

「ありがとう、ユリウス」


シチューを目の前に置かれ、隣にユリウスが座る。

ティニアシアが舌打ちしてルロヴェネーゼがぎょっとしたようにそれを見ていた。


反対隣にティニアシアが座ろうとして待ったをかけた。


「ごめんヘレナ様が来るから」

「え、え、そう」


ティニアシアはしょぼんとしながら机を回りディラン先生の隣に座る。


「それなあに?」

「チキン」

「な、なるほど」


チキンのチューリップ揚げに見えるが。こういういうのもあるのか。

ゲームが基になっている世界なだけあって自由だな。

普通、上品に腿肉の焼いたやつとかじゃないのか。


まあいいか。


「殿下は……ステーキですか?」

「ああ」

「美味しそうですね!」


適度に人望は欲しいのでちょっとしたことでもよいしょしておく。

ルロヴェネーゼがちょっと悩んだ様子でナイフとフォークを手に一口分切り分ける。


「はい」

「はい?」

「あーん」

「え」

「あーん。ほら口を開けたまえ」


こんな威圧感たっぷりなはいあーんはいやだ。

ヘレナに見られたらまずい。


「いえ、さすがに殿方の食事に手を付けるほど飢えてはおりませんわ」


おほほほと口に手を当てて笑うと、ぐっと身を乗り出してきて肉汁たっぷりな肉を押し付けてくる。


くっ押し切られる。


「そ、それでは失礼して」


パクリと口に含むと肉はとろけていき、数度噛むだけで口から消えていった。


「まあ美味しい!」

「そうだろう」

「あら、まあ」


はっ!ヘレナに見られた!


「殿下と仲がよろしいんですね、レリンサ様は」

「いえ、違うんです。私がお肉をせがんでっ!」

「お腹が空いてらっしゃるんですか?お待たせして申し訳ありません」


私の隣に座るヘレナは軽く頭を下げて謝罪した。


「いえ、その。殿下は誰にでもお優しいですよ」

「そうでもないが」

「くっ……ヘレナ様はお優しくて桃の聖女様ですよ!」

「そうか」


興味を無くしたようにルロヴェネーゼは食べ始めてそれに続いてティニアシアもディラン先生も食べ始める。


「い、いただきます」


辛い。この空間、辛いよ。


シチューにパンを浸して食べる。


「美味しい」


シチューからチーズの味がする。それもひとつじゃないな。7種類は重ねてる。

高級シチューじゃないか!

見ればヘレナもシチューで嬉しそうに頬を緩めて食べている。


美味しいなあ。いいなあ。王都は交易が盛んでイラストリアス王国は温暖な気候で国土も広い。

そりゃあ王宮ではいいモノ食べれるよなあ。

実際、王都のアルジェリー侯爵邸でもいい物がよく出てきた。


パクパクと食べていきお肉も柔らかい。野菜もトロトロ。

たかが学校のシェフでしょ。ふん。なんて思ってたけど、とんでもない。

トップクラスのシェフがいるな。


食べ終わって、一抹の不安を抱える。

ここ、食べ放題なんだよな。



昼食が終わったのち速やかに教室に戻る。

当然、授業が始まった。


しょっぱなから歴史かー!!


歴史の教科書を机に置き、先生を眺める。

壮年の先生はびしっと灰色のスーツを着こなした紳士だった。

隅から隅までイケメンだな。


「今日は建国時の歴史からいこうか」


イケボー渋くていい声。

ゲームだとステータス画面が出てキャラクターがSDで机に向かっている映像で終了だったが現実ではこうだ。


「999年前イラストリアス王国は北のエンタープライズ帝国から分離した――」


あ、ねむっ。お昼ご飯食べてお腹いっぱいで瞼さんが下りてくるよー。

渋い声での朗読付き。どうせこの席は死角だし、ちょっとくらい寝てもとこっくりこっくりし始めたところで名指しされる。


「アルジェリー」

「ふわっ!はい!ジュノー先生!!」

「みっともない。叫ぶな」

「はい!申し訳ありません」


慌てて席を立ち叫ぶと呆れたような声に私は深々と丁寧に頭を下げた。


「エンタープライズ帝国との549年前の戦役の名前は」

「えー……あっウヴェツエンタラ戦役です」

「そうだ。よくできたな。特進クラスなんだ、胸を張れ。座っていい」

「ありがとうございます、先生」

「発言するたびに席を立つ必要はないぞ、アルジェリー」

「申し訳ありません、先生」

「謝る必要もない」

「もっ」


私が押し黙って頭を下げるとジュノー先生は話を打ち切る。

そのまま次の生徒が当てられ質問される。

ノートに戦役の名前と詳細を記していく。


ふと窓から外を覗くと中庭で魔法の訓練をしていた。


「魔法かー」


光魔法以外はあんまり得意じゃないんだよな。

光魔法には一応攻撃魔法はあるが威力はいまいちだ。


「光魔法以外は何か属性をお持ちなんですか?」


隣のヘレナに聞かれ、頷く。


「一応水魔法が使えます」

「瞳の色に合っていて素敵ですね」

「……私はこの暗い色の青目があまり好きじゃないんです」

「も、申し訳ありません」

「あ、いえ、お気遣いなく。個人的な事ですみませんでした」

「わ、私は優しくて素敵な色だと思います」


そう言われて、ぱちぱちと瞬く。


「そう、そうですか?」

「はい。暖かい青色です。故郷の海によく似ています」

 

そう言われてちょっと自分の瞳の色が好きになる。

ヘレナは特別だ。何せ主人公だし、打算で善行を行うような汚い人間にもこうして優しくしてくれる。

はにかんでヘレナに頭を下げた。


「ありがとう、ございます」

「いえそんな」


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