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41:戦場へ 1

戦場か~~いやだな~~と思いつつも準備をする。

使用人はお留守番。ドレスではなく、制服でとのことだったので、制服で校門のところで待つ。

先にルロヴェネーゼとヘレナがすでにいる。


「お待たせしたようで、申し訳ございません」

「いえ、私は今着いたところですよ」

「わ、私も今来たところだ」

「え?私の前に……むぐっむぐっ」


ヘレナの口がルロヴェネーゼの手でふさがれる。

クエスチョンマークを頭に一杯浮かべつつ並ぶと軍の紋章が付いた馬車が来る。

馬車から降りてきたのは軍人と、もっと偉そうな軍人だった。

そのもっと偉そうな軍人は女性でしわが刻まれた顔に優しそうな笑みを浮かべる。だが、どこか疲れている様子だ。


「ユデリカ・フォーミダブル。元帥の職で軍に奉職している」


ぴえ!偉いなんてもんじゃない!近衛すら指揮下の軍のトップじゃまいか!!

慌ててカーテシーをして恐縮する。

ヘレナもカーテシーをしている。


「ああ、楽にしてくれ。誉れ高い聖女だ、対等だろう」

「そ、そんなことはないですよ!元帥閣下!」

「ふふ、そうかそうか。謙虚だな」

「いえ」


謙虚ではなく当然の事。相手は歴戦の兵士であり、軍師にして最高の権力者の一人。

王族さえおいそれと逆らわない。


「殿下、どうぞよろしくお願いいたします」

「うむ元帥殿もよろしく頼む」


先にルロヴェネーゼが馬車に乗り、後から元帥が乗る。ここでも地位の差と元帥の思慮深さがうかがえる。

ルロヴェネーゼは王族、それも次期王の王太子。元帥はだから彼を立てた。

ふと振り返ると向こうから誰かが走ってくる。

ん?誰?

金の髪を振り乱し、必死に走ってくる人物はぐんぐん近づいてくる。

あ、あの身体能力はアレックスだな。

アレックスは馬車に乗る直前の私を抱きしめ、息を吐く。


「すまない。どうしても会いたくて」

「ううん。ありがとう」


ぎゅーと抱きしめられて照れてしまう。大切にされてるなあ。

彼のためにも断罪死刑は避けねばならない。


「もういいか?時間がないんだ」


元帥が窘めるように言うとアレックスは顔を真っ赤にしてばっと体を離す。


「す、すみません」

「じゃあ、行ってくるね」

「気を付けて」

「任せろ、少年」


元帥は気軽にぐっと腕を見せ、アレックスはくすぐったそうに笑った。

馬車に乗ると窓の外にアレックスが立っている。

手を振ると彼も手を振ってくれる。

がたんと馬車が動き始めてアレックスは見えなくなる。


「恋人か?」


元帥の言葉にルロヴェネーゼが咽て私は笑う。


「兄です」

「そうか。彼がアレックスか」

「有名なんですか?」

「まあな」


へー将来有望だもんな。あの身体能力。


「この馬車で5日くらいですか?」

「いや、王都の城壁の城門に魔獣馬車を置いてある。そこまでのつなぎだ」

「へー魔獣馬車って早いんですか?」

「ああ。普通の馬車だと6頭立てでも10日以上かかるからな」

「半分!凄い!」

「ただ、魔獣の管理は大変でな。契約魔力をとられるから数は用意できん」

「まあ、そんな旨い話はないですよね」


そんなことを話し、魔獣の外見やスペックを話していると城門に着く。

一緒に乗っていた軍人が馬車の扉を内側から開ける。ここは貴族とは違うのね。そりゃそうか。

乗るのは基本的に軍人。外から開けられる構造はいらぬ誤解を生みかねない。

ルロヴェネーゼが降りると元帥が降り、ヘレナの後に私も下りた。

軍人も降りると城門の外に案内される。

平原が広がる城門の外は街道が地平線の向こうまで続く。


「わ、凄い」

「凄いですね」


馬よりも大きい緑の毛の狼が轡と紐をつけられ、それが6頭。

質実剛健なつくりの馬車にルロヴェネーゼが乗り、元帥が乗り、ヘレナが乗って悲鳴のようなものが聞こえた。

何だろうと思いつつ馬車中に入ると悲鳴の正体が分かった。


「え?なんで?」


そこは部屋だった。窓こそないが広い部屋。そこから扉があり、そこもきっと広いんだろうな。

なんで?どうやって?

顔に疑問が出ていたのかルロヴェネーゼが答える。


「空間魔法だ」

「え。こんなすごいこともできるんですか?」


元帥はソファの方に行き座る。


「座って話しては」

「ああ、そうだな」


ルロヴェネーゼもソファの方に行き、一人掛けのソファに座る。

3人掛けのソファに私とヘレナが座り、対面の元帥は微笑ましくこちらを見ている。


「部屋はひとり一部屋。そこまで広くはないが狭くもない。トイレもシャワーもついているから遠慮なく使ってくれ」

「は、はい」

「見てくると良い」

「ありがとうございます」


そう言ってヘレナとソファを立ち、それぞれ扉を開ける。


「わ」


良い宿屋くらいの広さだ。調度品は質素で、ベッドも質素な見た目だがクィーンサイズ。

まじか!スゲー!!馬車で寝るの不安だったんだよね!旅行に行くときは馬車にキャンプセット詰め込んでテントで寝てたけど。

興奮気味に共有スペースに戻り、元帥に話しかける。


「凄いです!」

「特別だからな5台しかない魔獣馬車だ」

「ありがとうございます!」

「なに、聖女と王太子に何かあっては事だ」


カッコイイ!

コーヒーテーブルに置かれたコーヒーを元帥は飲み、私たちには紅茶が出される。


「5日間の共同生活は大変かと思うが、何とか耐えてほしい」

「はい。頑張ります」

「私も頑張りますが、至らない点があると思いますので、ご迷惑かとは思いますがその都度言っていただけると助かります」

「あははは!気張らなくていい」


元帥は朗らかに笑いコーヒーを飲む。もう一杯飲んだのか。カフェイン中毒なの?

次の一杯が運ばれてきて、元帥はそれを受け取りつつ持ってきた軍人を見上げた。


「そろそろか?」

「はい。出発です」

「揺れますか?」

「いや、揺れんよ。衝撃吸収の魔法もかかっているし」


そう言ってコーヒーを飲み切り元帥はソファを立つ。絶対カフェイン中毒じゃん!


「赤の聖女殿」

「え、あ、はい?」

「話があるので私の部屋に」

「は、はい」


緊張するな。何かしちゃったかな?

緊張しながら部屋に入ると私の部屋と同じ作りだった。

椅子に座った元帥は控えている軍人にコーヒーを持ってくるように言い、私に机を挟んだ目の前の椅子に座るよう言う。

言われるがまま座って、目をきょどきょ度させてしまう。


「……転生、と言うものは信じるか?」

「転生、ですか」


はあ、私は転生してきてここにいてしまっているのですが。

もしかして!


「元帥閣下は転生なさったんですか?」

「ああ」

「前世の記憶がある!?」

「そうだ」


ふおおおおおお!!いや落ち着け落ち着け地球の日本出身とは限らない。


「この世界の昔からいらしたんですか?」

「いや、地球は分かるか」

「!!はい!」

「そうか、そこの日本と言う国から転生してきた」


興奮のあまりガタンと席を立つと同時に扉が叩かれる。

入るように元帥がいい、中に入って来た軍人は飲み物が乗った盆を持っていた。


「お飲み物をお持ちしました」

「ああ、おいてくれ」


元帥の方にコーヒー、私の座っていた席の前に紅茶を置き、扉の前に下がった。

元帥は立ち上がった私を見上げて笑う。


「なに、魔女狩りをしたいわけではない」

「わ、私も、です」

「ん?」

「私も前世の記憶があります!地球の日本から!」

「まあ、落ち着いて席につけ」

「はい」


椅子に座り、紅茶に口をつける。

ふーと落ち着き、きらきらとした目で元帥を見る。


「私、トラックに轢かれて死んじゃって……」

「そうか。私も似たようなものだよ」


コーヒーを啜る元帥はこちらを見て、微笑む。


「赤の聖女殿が優秀な理由が分かったな。享年はいくつだ?」

「40手前……38でした」

「私は56歳だったよ。気づいたら軍人の家系に生まれていてな」


そこでコーヒーカップを置き、溜息を吐く。


「所謂、女傭兵だったんだ。世界中を飛び回ってた。金も十分溜まって日本に帰って来て10年して、車に轢かれた。結婚もして無くてな孤独な最期だったよ」

「そうでしたか」

「その代わりこの世界で軍人として成り上がれた。ノウハウがあったからな」

「素晴らしいですね」


元帥は苦笑する。


「私は軍以外のことは何も鈍くてな。赤の聖女殿が羨ましい」

「私も優秀ではないですよ。勉強はからっきしですし」

「だが、生活保護、税金の分配などは上手くいっている」

「たまたまですよ」

「地頭は悪くないんだな」

「あはははは。そう言ってもらえると嬉しいです」


悪くないんだろうか?いや基本ずるだしな。


「法律の勉強していたのか?」

「いえ、広く浅く知識があったんです」

「なるほど。それで柔軟な法整備ができたんだな」


まあ、ネットに嚙り付いてゲームをし、動画を見漁り、SNSを何時間も見ていたりしていた。

もっと頭が良ければ、断罪死刑を確実に避けられるんだろうがなんともならない。

ヘレナの攻略対象が分からない限りは難しいだろう。


「西暦何年から?」

「私は2031年からです」


元帥はぎょっとした顔をして、こちらをまじまじと見る。


「私は1990年だ」

「え?でも元帥閣下は今おいくつですか?」

「61歳になる。孫が可愛くてな」


ニヤニヤ笑う元帥の顔は可愛らしいおばあちゃんの顔だった。


「来年シナノ学園に入学する」

「へーいいですね。私の弟と同い年です」

「ふむ良ければ婚約といきたいな」

「そればっかりは本人たちの意思がないと」

「確かにな。だが、フォーミダブル侯爵家は領地はない法衣貴族だが悪い家柄ではない。少々固いがお互い利益はあると確信がある」

「お父様に言ってみます」

「助かる。女の幸せが結婚だなんてゴミみたいな信念だと思っていたが、孫の顔を見ると幸せを願ってしまう。だから、アルジェリー家に嫁がせられればこの上ない。安全だし安泰だし」


アルジェリー家はメイドと使用人が言うには結構中枢まで権力を持っている様だし。幸せかどうかは本人次第だが、金銭面では苦労はさせない。


「お孫さんには好きな方、いないんですか?」

「固い軍人家系のフォーミダブル家だからなあ……寄ってくる男はいないよ」

「あら」


あらあら。軍人の家系なんて安定職なのに。まあ、前線勤務は最悪だが、国境任務ならましだ。


「軍人さんはもてそうですけど」

「そうでもない。危険な任務も多いしな」


そっか魔物の討伐もあるしな。


「そうですよね」

「まあ、赤の聖女殿の前世が覗けて嬉しいよ」

「私もです、閣下」


お互い微笑みあってカップをとった。




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