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4:入学


寝起きの頭でぼんやりしながら髪を梳かれる。


「レリンサ様。そろそろ目を覚ましてください」

「はーい」


冷淡なメイドにそう言われて欠伸をかみ殺す。


今日から学校だ。


そう今日から学校だ。

【どんとこい☆ずっきゅんラブラブスクール♡】の舞台、王立シナノ学園への入学である。

この5年間せっせと善行を積んでヘイトを多方面から集めたおかげで誘拐なども多発したがまあ生きてはいる。

一番驚いたのはユリウスとティニアシアの仲が極めて悪い所だ。誘拐はどうでもいい。



「とうとう15歳か。学校楽しみだなー」

「そうですか?いつでも帰っていいですからね」

「同じ王都内だよ」


まあ寮生活だけど。

16歳になる年にシナノ学園に入学し、勉学に励む。

学校へは基本的に寮から通う。

使用人も一緒に学校の寮に行き面倒を見てもらえる制度だ。


うーん貴族。心行くまで貴族だわ。


そんなことより、これからは主人公の邪魔をしないように気を付けなくては。

虐めととられかねない言動や行動は慎み、邪魔をしない。


攻略対象達からも離れなくては。


「ティニアシアがなあ」


ティニアシアは未だに婚約者のままだ。

ティニアシアが攻略対象になったら婚約破棄を滞りなく行えるように父とは相談済み。


「婚約破棄しますか」

「い、いや、まだしないかな」

「そうですか」


冷淡なメイドは今日も冷たい。


「こちらが制服です」


茶色の上着に丈の長いスカート。臙脂色のベストと質素に見えるが高級な生地を使っている。

しかもキッドスキンの手袋までついてくる。

それらを身に着け、カバンを持つ。荷物はもう寮に運び込み済みだ。


「よし!行こうかな!」

「朝食は」

「あ」


朝食をとりに食堂に向かうと母と父と弟が食堂の扉の前に立っていて、こちらを見るとハンカチを手に目元を覆う。


「うっ立派になって」

「何て美しいのかしら!」

「美醜は関係なんじゃないかな」

「お姉様。素敵です」


うっとりとこちらを見てくる弟に微笑む。


「貴方も来年には入れるからね」

「楽しみ」

「さあ朝食にしましょう」


朝食に席に着き、朝食はオムレツだった。


「美味しいわ」

「貴女のおかげよ。冒険者の足税をアルジェリー領だけでも低く抑えたために貿易商の行路も安全になったし、物流もよくなった。本当に感謝してる」

「そ、そんなことはないわ!お父様の立派な施策のおかげ!」

「うっ!優しく育ってくれてありがとうっ」


父が涙を流し顔を俯け、執事がハンカチをすっと取り出す。

なんだか大げさなんだよなあ。


「ごちそうさまでした。美味しかったわ。シェフにもお礼を伝えてください」

「はい、お嬢様」


食器が下げられ、席を立ち食堂をぞろぞろと出ていく。

エントランスに出るとくるりと振り返り頭を下げる。


「では、勉学に励もうと思います」

「無理のない範囲でな」

「嫌になったらいつでも帰ってきていいからね」


これから学校に送り出す親の言葉か?

まあいいだろう。

勉強に励み、魔法を修練し、主人公から離れる。

完璧だ。


「いってきます」

「いってらっしゃい。レリンサ」

「いってらっしゃい!お姉様」

「レリンサ、気をつけてな」

「はい」


メイドが玄関扉を開き眩しい青空の元に踏み出す。

馬車が止まっており、そこに乗り込む。

すると慌てた様子の御者が何者かと言い争っている様子だった。

何事かと扉を開けるとそこには制服に身を包んだティニアシアが御者に話しかけていた。


「なに?どうしたの、ティニアシア」

「ああ、おはよう」


さわやかな笑みで無視された。相変わらず強引だな。


「おはよう。で、何しに来たの?学校行かなきゃ」

「一緒に行こうかと思って」

「なん、なんで!?」


笑顔が引きつる。嫌だ!貴方は学校にひとりで行って主人公とイチャイチャするのよ!

そうに決まっている。世の中には運命の出会いというものがある!

ましてやここはゲームの世界なのだ!ゲームの強制力で主人公にメロメロになるに決まっているんだ!

私は弁えているぞ!!


「ひとりで行って!」


ばんと扉を閉めると外からやすやすと開かれる。


「僕の馬車はもう帰しちゃったから」


そう言って、目の前に座る。


「嫌!」

「はいはい。レリンサって変なところで頑なだよね。初日から遅刻はいやだなー」

「くっ!」


ここで見捨てたら悪評が立つか!?

学園まで歩いていけんでもない距離という微妙な距離なのだ。

ちなみにここから歩いていくと間違いなく遅刻する。

上り坂が多く、疲れる。

王城からは少し離れたところにあるのがシナノ学園だ。

どうする叩き出すかと悩んでいるとばっと扉がまた開かれる。 


あんぜんめーん!!


「レリンサ、おはよう!」


輝く美貌のユリウスが現れた。この5年で絶世のという言葉を惜しみなく受けている美貌で微笑まれると言葉に詰まる。

銀髪をポニーテールにして揺らし、馬車に乗り込んでくる。


「ゆ、ユリウス!ダメよ!」

「ダメじゃない。ダメじゃない」


ユリウスは美貌を惜しみなく放出してティニアシアを鼻先で嗤い、ティニアシアの方も舌打ちをした。

なぜこれほど仲が悪いのか。なのに考えることは同じという。なんなんだ。

私の隣にユリウスは座り、ユリウスが御者窓にこんこんと合図を送る。

馬車が動き出し、がたがたと馬車が揺れる。


空気が重いよお!!

何故来たんだふたりとも!


「2人ともなんで来たの?」

「レリンサと登校したくて。婚約者だし」

「いや、婚約者関係なくない?」

「婚約者って立場がないとレリンサに相手してもらえないもんねっ!」


ぎょっとしてユリウスを見ると彼は白皙の美貌に笑みを浮かべて無邪気にそう言いのけた。

ティニアシアは怒るかと思ったが満面の笑みを浮かべて言う。


「君の家とは違って同じアルジェリー侯爵家とベルファスト侯爵家は8大貴族の一角なんだよ。会いたければ婚約がなくたって会える」


余裕の笑みにユリウスが無表情で低く唸る。


「婚約破棄されろ」

「はっ!」


ありえないとばかりにティニアシアは鼻先で嗤う


あり得るんだなーこれが。

主人公は可愛らしいし、選択肢にもよるが基本的には優しい。しかも聖女と呼ばれるほど強い癒しの魔法を使える。

あなた達はそんな可愛らしい女の子に言い寄られてメロメロになるんですよ。むしろ言い寄るんですよ。そして、婚約は破棄。安全のためだ。


ティニアシアが婚約にこだわるのはアルジェリー侯爵家の権力がここ10年程で無視できないものになったからだ。

だからベルファスト侯爵家は何としてもティニアシア・ベルファストとレリンサ・アルジェリーの婚約を成就させたい。彼の感情は恋愛ではなく家のための打算だ。


家のために婚約したが友人としての情はある。家の損得でしか物事を図れない立場の彼がこれから主人公に会って恋愛をするかと思うと微笑ましいものがある。


「なになに?何か面白かった?」

「あらやだ、ごめんなさい。仲がいいなあと思って」


おほほと口を手で隠して笑うと訝しげな顔を見せられた。



馬車から降りて学園を見上げる。


城だ。


王城以外に城があるってどうなんだと思いつつ歩を進める。

そこでどんと誰かとぶつかる。


「わっすみません」

「いえ、こちらこそ申し訳ありません」


桃色の髪を三つ編みにして揺らしている赤い目の美少女に目玉がポーンと飛ぶ心地だった。


「わ、わ、わ。すみ、すみません」

「え、え、こちらが悪いんです」


やばいぞ。


主人公だ!!


ばっと後ろを振り返りこちらに向かってくるティニアシアとユリウスを見て、飛び込むように門に走りこんでいった。

学園内は土足だ。日本製のゲームのわりにそこはやむを得なかったのだろう。靴も高いしな。


いいぞ!これでユリウスとティニアシアは主人公に会う!すると恋に落ちるのだ!メロメロだ!


むふーと鼻の穴を広げて学園内を走り玄関を過ぎ、戻る。


……クラス分けは外に張り出してあったのか。


「1-A。うーわ、特進クラス……」


1学年にはABCDまである。Aはどの学年も特進クラス。

Bは普通。CDはほどほどに頑張りましょうクラス。


CDが良かったな。なぜAクラスに突っ込まれたんだ。解せぬ。

入学前のテストの出来は手ごたえなかったけどな。


ディランが家庭教師だったのは1年だけだったので、久しぶりに会うことになるなあと思いつつ、後ろからかかる声に振り返る。


「なんで置いてっちゃうの!?」


ユリウスが真っ赤なリボンを上下させながらポニーテールを揺らす。

男学生でさえも頬を赤らめてユリウスに見惚れて壁にぶつかっていく。


「あれ、あの可愛い子は?」


素朴な疑問とばかりに問うと首をかしげる。


「可愛い子?僕の目の前にいるけど」

「ああ、そう言うのはいいから。桃色の髪の可愛い子は?」


いつもの軽口をいなして、お互いに首を傾げているとティニアシアが走って来た。

後ろから主人公も走ってきている。


「やば」


すーと足を進めてその場から離れる。


うーんゲームだと主人公は何クラスだったか。

多分Aクラスなんだよな。

男爵家のご令嬢でそんなに頭がいいのか主人公。

う、羨ましい。努力家なんだな。

私とは格が違うのだよ格が。

しょぼんと肩を落としながら教室に入る。


入った教室の前の黒板に席順が掲げられている。


窓際か。しかも一番後ろ。寝放題じゃん。


自制心が試されるな。


席に着くとユリウスが追い付いてきて無邪気に抱きしめてくる。

教室がどよめいた。


いつものスキンシップなのでユリウスの銀髪を眺めながら腕をポンポンと叩く。


「なあに」

「隣の席じゃない」

「しょうがないでしょう」

「勉強やる気でないなー」


うりうりと赤い髪に頭を押し付けてくるユリウスの頭をぽんぽんする。


「勉強の成績が良かったら、一緒にケーキ食べに行かない?」


紫の瞳が顔のすぐそこにあり、きらきらと輝いている。


「本当!?」

「来月テストあるでしょ?その時の結果で決めようか」

「わーい☆」


私の頬にキスしユリウスは離れていった。


るんるんとポニーテールを揺らしながら自分の席に戻るユリウスを眺めていると不意に頬にキスが落とされた。


何事かと顔を離すとティニアシアが顔を真っ赤にして立っていた。


「ぼ、僕もいいかな?」

「勉強やる気無いの?珍しいね」

「いや、その……なんでもない」

「ん?」


なんだったんだ。イケメンにキスされるのはやぶさかではないが、主人公に見られたらまずいのでは?


そう思い、やってた桃色の髪の美少女に目を向ける。

視線がかち合い、彼女は黒板を見て、それから驚いた様子で隣に座る。


「さっきぶりですね」

「あ、はい」


主人公は名前変更可だったため黒板を見たとき誰だか分らなかったがどうやら隣は主人公らしい。


おっとやばいぞ。


「ヘレナ・オーリックです。遠くのオーリック男爵領の娘でございます」

「これはご丁寧に」


お辞儀をする彼女に倣って席を立ちお辞儀をする。


「レリンサ・アルジェリーと申します。アルジェリー侯爵家の娘でございます」


そう名乗ると彼女はヘレナは驚いて思わずと言った様子で一歩下がる。


「あの名高い赤の聖女様ですか!?」

「いえ、あの」


恥ずかしいこの2つ名はこの5年でうなぎ上りで有頂天である。

何せ勉強の合間を縫ってはせっせと治療院で光魔法を使って治療に従事していたからだ。

不治の病に苦しんでいた家族を救ったりしていた。もちろん金はとっているが、全部治療院の運営費に回している。


「そんな大層な者じゃないです。ヒトとして貴族として出来るだけのことをしただけですから」

「な、なんと志高い方」


治療院でも浴びた崇拝にも似た眼差しがあちらこちらから注がれる。


「おーい席に着け」


ディラン・リシュリュー先生が現れ気だるげに教室内を見渡す。


「席に着いたら、各々自己紹介してくれ」


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