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33/45

33:結局何しに付いてきたかは分からずじまい。ケーキは美味しかった。

次の日が土曜日でよかった。5時にベッドから出て欠伸をかみ殺しつつ寝間着のまま、机に向かって宿題を始める。

教科書を開き、書き込む。

7時になると寮の部屋に使用人の食事が運ばれてくる。それを使用人が受け取り、食べているのを見て、ハッとする。


「私もご飯」

「抜けてますよね」

「じゃあ治療院に行ってくるわ」

「止めた方がいいんじゃないですか?」

「でも……」

「今週はお休み!酷い目に遭ったんですよ!お休みです、お休み」


強引な言葉に苦笑いする。

使用人はサラダを食べていたフォークを振り熱弁した。


「お嬢様は知らないかもしれないですけど、アルジェリー家ではお嬢様が治療院で酷い目に遭っているのは周知の事実だったんですよ!」

「え、でも誰も何も言わなかったじゃない」

「それとなくやめるように旦那様が言ったとき、持てる者の義務だからとやめなかったのは誰ですか」

「う」


使用人はちょっと睨んでそれからぱっと笑う。


「そんなお嬢様だから皆、大好きなんですけど、心配なんですよ。アレックス様がいらっしゃって本当に良かった」


劇的に改善されたものな。もう前の生活が考えられない。

そう言いつつも使用人は暗い顔をする。


「でもアレックス様が軍人になられたらと思うと……」


そうなんだよね。軍人になったら守ってもらえなくなる。

でも、我儘は言えない。


「もう流石に、護衛を雇おうかな」

「その方がいいですよ。厳つい人じゃなく、柔和な方なら受け入れやすいんじゃないですか?」


アレックスはかなり背が高いが治療院では威圧感はない。

確かに、と思う。


「お父様に言ってみなきゃ」

「そうですね。軍人を送ってくれるかもしれませんよ」


うーん。軍人かあ。派閥によってはまずいことになるよな。

冒険者に頼むとか?もっと信用できん。


「要相談って感じかな?」


使用人が朝食を食べ終わり、私の着替えを手伝ってもらう。


「コルセットきつくない?」

「きついですか?気のせいです」


そうか―気のせいか―

まあ、いいけど。

ドレスを着て大食堂に向かい食事をとると、校門に向かう。

生徒はいた。結構ひそひそされたが直接話しかけてくる生徒はいなかった。

校門に着くとアレックスとルヴェネ―ゼが立っている。


「おはようございます、ルロヴェネーゼ様、アレックス」

「お、おはよう」

「おはよう、レリンサ。体は大丈夫か?」


そうアレックスが聞くとルロヴェネーゼは何かをとられたとばかりの顔をした。


「うん、大丈夫!今日はうち……アルジェリー家の屋敷に行こうかと思って……」


ルロヴェネーゼはなぜここにいるんだろう。


「一緒に行ってもいい!!」

「え、なんでですか」


純粋に疑問である。何故?なんか怪しまれてるのかな?

そりゃあんな公衆の面前で襲撃されたら、王家に仇なすかとも思うか。

言葉に詰まったルロヴェネーゼのことを気の毒そうにアレックスが見ている。

アレックスは溜息を吐いて言葉を紡ぐ。


「……屋敷に言った後、どこかでゆっくりしないか?」

「あらいいわね」


それいいね!アレックスの手を取り、にこにこと笑う。

羨ましそうにルロヴェネーゼはこちらを見て、咳払いをした。


「い、一緒に行ってもいいぞ!」

「はあ」


無理しなくていいのに。なんだろ嫌なことしちゃったかな?


「無理しなくていいですよ」

「む、無理なんかしてない。近衛も来る!」

「ええ……」


来たいの?来たくないの?素直になろうよ。

そんなことを考えていると近衛の紋章を付けた馬車がやってきて止まる。

馬車からは3人降りてくる。


「ほら」

「わあ。本当に来た……」

「殿下、お待たせしました」


近衛の一人がそう言い、敬礼をする。

ルロヴェネーゼが鷹揚に返答しこちらに向き直る。


「さあ!アルジェリー家の屋敷に行こうか」

「ええ……」


いいの?困ってアレックスを見上げると肩を竦められた。

通り過ぎる生徒たちがひそひそしているのに耐えられなくなり、慌てて近くの馬車に乗る。

ルロヴェネーゼとその近衛、アレックス、私が乗ってもかなりスペースがある。

御者に「アルジェリー邸へ」と言い、馬車が動き出す。


「……近衛さんを連れまわしていいんですか?」

「あくまでも!私についてくるだけだ!」


ふふんと言われ、まあいいかと諦めた。

近衛も真面目な顔でルロヴェネーゼのそばに座っている。


アルジェリー家の屋敷に着くと執事が現れ、それから馬車から降りる。

ぞろぞろと降りて行ったので執事は一瞬驚いたそぶりを見せたが、すぐに取り繕う。流石だ。


「殿下。ようこそおいでくださいました」


深々とお辞儀する執事にルロヴェネーゼは柔らかに頷く。


「突然の来訪許されよ」

「アルジェリー家の門は王家にいつでも開かれております。何事も疚しいことなどございません、殿下」

「そうか」


こういうところは王族らしい態度なのに、なんで突然私には感じ悪くなったんだろう?

うーん謎だ。ゲームの強制力か?レリンサは嫌われ者だし。

執事はこちらに向き直り綺麗なお辞儀をする。


「お帰りなさいませ、お嬢様、お坊ちゃん」

「ただいま!」

「ただいま戻りました」


執事に来賓室に案内され、ソファに3人座り、近衛3人はルロヴェネーゼの背後に立つ。

紅茶が3人の前に置かれてそれぞれ紅茶を飲む。


「素晴らしい茶葉だ」


ルロヴェネーゼが褒めると執事が恐縮したように頭を下げる。


「ありがとうございます」


執事に茶葉についてルロヴェネーゼがいろいろ話していると扉が叩かれる。

執事がルロヴェネーゼに一言いうと扉の方に行く。


「旦那様です」

「どうぞ」


ルロヴェネーゼの許可を得て、来賓室に父が入ってくる。

父はルロヴェネーゼを見て、胸に手を当て深々と頭を下げる。


「お久しぶりです、殿下」

「うむ、突然の来訪、申し訳ない」

「いえ、殿下が気軽に訪れることのできる屋敷であれば、自慢もできましょう」

「そうか」

「本日はどのようなご用向きで?」


ルロヴェネーゼは顔を真っ赤にして咳ばらいをし、きょどきょどとする。


「わ、私は用事はない。その、レリンサが行くというから仕方なく……」


仕方ないなら来なくてよかったのに。微妙な顔をして父に向き直る。


「今日はお父様にお話があって帰りました」

「そうか」


父はそう言ってソファに座ると紅茶を飲む。

ゆったりとソファに体重を預け、こちらの言葉を待っている。


「実は、ティニアシアとの婚約が……」

「ああ、婚約破棄の連絡が来たよ。ベルファスト家が不甲斐ないからと、レリンサを責めるものではなかったよ」

「私が悪いんです。その……ベルファスト家は悪くないんです。私が、うまく立ち回れなかったから」

「レリンサがそう言うならそうなんだろう。ベルファスト家を責めるのはやめておくよ」

「ありがとうございます」

「それだけかい?」


あと……と口ごもる。


「その、治療院に護衛をと思って」

「アレックスだけでは不安かい?」

「アレックスだけに責任を押し付けるのは間違っていると感じたんです」

「俺は構わない」

「でも……アレックスは軍人になって私に構ってられなくなるでしょう?」


アレックスは動揺し、瞬く。


「それなら、軍人になるのをやめる」

「夢だったでしょう?貴方の将来を潰したくない」

「レリンサ……」


アレックスは困ったような顔をして私の肩を撫でる。


「じゃあ、レリンサ。軍人を護衛に頼むかい?」

「可能なんですか?」

「ああ、赤の聖女派閥で王家派閥の軍人にあてがある。女性だしぱっと見、威圧感もない。何より強い」

「わ!ありがとうございます!」


頭を下げると朗らかに笑われる。


「あんな目に遭っても、治療院には行きたいんだね」

「はい!出来る事はしたいので!」


聖女と呼ばれるのは嫌だが、治療院での評判は自分を助ける。断罪がゆるくなるかもしれないし。

本当に私って自分のことしか考えていない嫌な人間だ。


「ニンハイ大佐にはこちらから連絡しよう。明日は治療院に行くかい?」

「はい。行きます」

「じゃあ、明日治療院で待ち合わせしよう」

「ありがとうございます」

「可愛い娘の頼みだ。構わないよ」

「流石お父様。お優しいですね」


ぱちぱちと手を叩いて父を賛辞すると父は嬉しそうに微笑む。


「やっと護衛を受け入れてくれて嬉しいよ」

「流石にあんな目に遭いましたからね。今はアレックスがいてくれますが、卒業したら忙しい軍人ですからね」


アレックスはこちらを見て、優しく微笑む。


「軍学校を出て将校になったら、レリンサの護衛になれるように努力するよ」

「無理しないでね」


軍人になるならやっぱり出世したいだろう。

アルジェリー家の名前があっても限界がある。成果がなければ出世はない。


「アレックスはアレックスの人生を歩んで。私は足を引っ張りたくない」

「ありがとう」


髪を梳かれ、ひと房とられるとそこにキスを落とされる。

ふふ、優しいんだから。

柔らかでくすぐったい優しさ。あまりにも柔らかい愛情がくすぐったすぎて笑みがこぼれる。

ルロヴェネーゼが羨ましそうに見ていることに気付き、首をかしげる。

王家ではこんなことはないのだろうか。大変だな。

王族の間では親子の情も時には邪魔になる。これほど近しいのはうらやむ対象かもしれない。


「れ、レリンサ」

「はい?」


緊張した面持ちでルロヴェネーゼが私の手を取る。


「私も守りたい」

「はあ。でもお立場上そういう訳にもいかないでしょう」


ぐっと押し黙るルロヴェネーゼを見てから、父を見る。


「王家は白の聖女派閥の御旗。そんな状況で私を守るとおっしゃるのはいらぬ争いを生みかねません」


父も賛同するかと思ったが、ちょっと苦笑してルロヴェネーゼに向き直った。


「……申し訳ございません。娘はどうにも鈍いようで」

「そ、そんなつもりはない!」


なんのつもり?なになに?なぜ父は謝ったの?んー?

わけわからん。


「お父様?」


この疑問に答えてくれるかと思って呼んでみるが首を振られる。

まあ鈍いのは事実だし。ま、いっか。

でも本当に何だろ。ルロヴェネーゼは顔を真っ赤にしているし、何かに怒っているってことだよね?これは鈍さが仇になるな。

そんなことを思いつつ父に頭を下げる。


「それでは護衛の件はよろしくお願いします」

「大丈夫だよ」

「はい、ありがとうございます」

「これからどこか行くのかい?」

「カフェにでも行こうかと」

「そうかそうか、ゆっくり過ごしなさい」

「はい」


ソファを立ち、退室すると執事がエントランスまで案内してくれる。

そして、玄関扉を開き、深くお辞儀する。


「いってらっしゃいませ」

「行ってきます!」

「行ってまいります」

「邪魔をした」

「殿下が気軽にいらっしゃってくだされば、貴族の誉にございます」

「そうか」


6人でアルジェリー家の馬車に乗り、御者窓からカフェの店名を告げる。


「そこは新しくできたところだね」

「うん。アルジェリー侯爵領で商売がうまくいって、王都に出店したの。ショートケーキとイチゴのタルトが美味しくて」


馬車に揺られながらルロヴェネーゼは顔を真っ赤にしたままでこちらを凝視している。

やっぱ何かしちゃったかな?

何か言ったほうがいいだろうか。


「……あの、私もアルジェリー家も王家に弓を引いたりしませんよ」

「わ、わ、分かっている!!」

「ありがとうございます」


言ったはいいがその途端にルロヴェネーゼは顔色を悪くして冷汗をかいている。

何だろう。やっぱ敵対しそうって思われているのかな?

その誤解は解きたい!!王家に弓引くほど愚かでも無謀でも命知らずでもない!!


「そ、それより兄とはどこで知り合ったんだ?」

「グルヴェネーノ殿下ですか?知り合ってませんよ?拝謁したことありません。私、社交界にもほとんど出てませんし、グルヴェネーノ殿下がお越しになるような畏まった会も出席してませんし」


突然言われきょとんとして言うとルロヴェネーゼの目線がそらされる。

何故、会ったと思われているんだろう。どこかで会ったっけ?

だってグルヴェネーノは黒髪、黒目に紫のアースアイと言われている。一目見ればわかるだろう。


だからあったことはないはずだが?


うーんと悩んでいるとルロヴェネーゼは汗をかきながらいろいろと考えこんでいる様だった。





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