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24:体育祭準備 2

朝、図書館に入るなりイルトヴェガーナに話しかける。


「イルト司書は運動会見るんですか?」

「うんどうかい?」


しまった。


「……体育祭を見ますか?」

「ああ、見ませんよ。私は平民でただの司書なので」


あ、そう言う設定だったな。

体育祭のスチルにもイルトヴェガーナのものとダグラスのものはない。


「平民でもいいじゃないですか。貴賤はなしですよ」


にこっと温度の無い愛想笑いを向けられ思わず笑い返す。


「学園の決まりなので」

「……はい」


なーんだ残念。

推しが見てくれるなら頑張ろうと思ったのに。


すごすごと引き下がりいつもの席に着く。

宿題を広げ図書館の参考書も広げる。

かりかりと書いていると目の前の席に誰かが座る。

頭を上げるとアレックスとティニアシア、ルロヴェネーゼが座っている。


おお、そろい踏みだな。ユリウスは絶対寝てるだろ。


「どうしたの?」


ひそひそとアレックスに聞くと彼は優しく微笑み、参考書を取り上げる。


「え、え」

「思うに、君は勉強の仕方が悪い」

「え?」

「元々の頭はいいし、基礎もできてる。悪いのは宿題やレポートを参考書に頼って穴埋め式にしているからだ」


ぎくぅ。

だ、だって楽なんだもん。


「教科書を出して」

「はい」


しくしくと教科書を出して広げる。


「参考書が悪いとは言わないが、頼り切りはいけない。教科書に書いてあることだけで十分なんだよ。多分難しく考えすぎなんだよ」


だっていい評価欲しいじゃん。でも楽したいじゃん。

結果、参考書をひっくり返して分かった気になるという方法である。

ふっ!私は楽をするためなら参考書をなんとしてでも探し出すぞ!


「ベルファストは教え方が下手だ。ただ押し付けて教えるのはいい方法じゃない。レリンサは分かっていないかっただろう?」

「分かりませんでした」


胸を張って言うとティニアシアは机に片肘ついてぶすっとした表情をみせる。

そんな表情もするのねと笑いかけると、慌てて彼は姿勢を正した。


「殿下の教え方は分かりやすい。多分そう教えてもらったからだろう。俺はそう言う教え方をしてもらえなかったから、教え方が悪い。だから殿下に教えてもらうといい」

「え、ルロヴェネーゼ様はそれでいいんですか?」

「も、もちろんどうしてもと言うならだ!特別にな!」

「どうしても!」


ツンデレは勉強には関係ない!教えて教えて!


「そ、そうか!教えてやってもいい!」

「じゃあ、ここは……」


そう言って、3人に宿題を教えてもらった。



1時間教えてもらって随分出来が変わった。

このレポートならジュノー先生も満足だろう。


「ありがとうございます。ルロヴェネーゼ様」

「と、特別だ!」

「特別なんですか?」

「そ、そうだ!レリンサのことなんて本当はどうでもいいんだからな!」


小学生か!

くすっと笑うとルロヴェネーゼは顔を真っ赤にしてうつむく。

怒らないんだ。そう言うところは大らかだな。


ティニアシアは参考書を退屈そうに読み、閉じた。


「じゃあそろそろ時間だから行こうか」

「うん」


せっせと宿題と教科書をカバンにしまい参考書を棚に戻す。

イルトヴェガーナに挨拶をすると声をかけられた。


「……勉強はできましたか」

「はい!友達っていいですね!」

「もう、図書館は必要ないですか?」


そんなわけはない。図書館は本がいっぱいだ。結局参考書は使うのだから。


「図書館は必要ですよ!また夕方来ます!」

「そ!そうですか!」


ちょっと頬を紅潮させたイルトヴェガーナをまじまじと見てしまう。


どうしたんだろう。うるさかったかな?

でもうるさいときははっきり言うタイプだし。

人数か?4人は多かったか?

うーん分からない。なにが怒るポイントだったんだろう?

頬を紅潮させるってことは怒っているってことだよね?違うのかな?

分からん。


まあいいや!ぱっと笑って手を振る。


「また夕方!」

「あ、はい」



ジュノー先生は私が提出したレポートを見て二度見した。

それ以外は順調な授業だった。

放課後に体育祭委員の仕事もこなし、ヘレナを見る。


「皆さんの意見をまとめると」

「徒競走は人気がありませんね」

「体力いりますものね」

「女子は私が入るとして……」


と私が言うとヘレナが苦笑していう。


「いえ、私が」

「徒競走好きなんですか?」

「はい。故郷ではよく走り回ってましたから」

「助かります」

「弓術が……」


そんな感じで種目と選手を振り分けていく。

30分ほどで終わりカバンを持って立つ。


「じゃあ、あとは明日と言うことで」

「はい、レリンサ様」

「それでは」

「それでは」


ヘレナと別れ、教室から出るとルロヴェネーゼとティニアシアが立っていた。

ルロヴェネーゼはぷるぷるしていて顔が真っ赤だ。


なになに?怖い。


「ど、どうしたんですか?」


どうした。どうしてここにいるんだ?


「と!特別に!どうしても言うなら!忙しい私が!勉強を教えてやってもいい!」


そう叫ばれて、微妙な顔をしてしまう。

忙しいのならそっちを優先して欲しい。


「忙しいのであれば、そちらを優先してください。私は朝、教えてくれた範囲で勉強しますから」

「え!」

「え?」


なに?黒髪の下を真っ赤にして黒い目をかっぴらいている。

どうしたどうした。時に落ち着け。

忙しいのだろう?


ティニアシアがルロヴェネーゼの隣にいて、微妙な顔をしている。

そうだよな。そんな顔になるよな。


「ルヴェネは勉強を教えたいんだよ」

「でもお忙しいのでしょう?」

「そ、そうなんだけど、それを押してでも教えてあげたいんだよ」

「いえ、結構です。お忙しいのであれば、王太子としてのお仕事もあるでしょう?」


そう言うとぐっとルロヴェネーゼは押し黙り、うつむく。


「うっ……」


ぽつんと床にシミができる。

上背のあるルロヴェネーゼをのぞき込むと泣いている。


ひえ!泣かしちゃった!


「わ、わ。どうしたんですか」

「泣いてない!」


ハンカチを取り出し涙を拭こうとするとそう言われた。

声は鼻声だし涙も出ているが。


「もういい!」


ルロヴェネーゼは踵を返し、去っていった。

置いてかれた私とティニアシアは呆然と立ち尽くす。


「後で怒られるかな」

「いや、大丈夫じゃないかな。どっちかっていうと菓子折りが届くと思うよ」

「なんで?」

「うーん……」


いつもは品行方正で冷静なルロヴェネーゼがこれほどまでに心を乱しているのはなぜなのだろうか。


「お仕事忙しすぎるのでは?」

「う、うん。そうかもね」


そうだろうな。王太子だもんな。お仕事ぎっちぎちにつまっているよな。

そりゃ情緒も不安定になる。

なのに勉強教えようとするなんてとても優しい。

ヘレナは見てたかな?ルロヴェネーゼ優しいよ!

くるっと教室の入り口を見るとヘレナがぽかんとした顔でこちらを見ていた。


「……殿下はどうしたのですか?」

「なんだかお忙しそうで」

「お、お忙しい?」

「まあ、王太子殿下ですからねえ」


外遊とかの計画も立っているだろうし、王城で仕事もある。寮に運ばれているだろうが。


「まあいいや。出来ることないし、勉強しよう」

「私は寮に戻りますね」

「僕は一緒に勉強しようかな」

「あら嬉しい」


ヘレナと別れ、2人で図書館に行く。

いつもの席に座り、宿題を取り出す。

教科書を取り出し、ペラペラ捲る。


「あら、参考書が必要ね」


席を立ち、錬金術コーナーに向かう。

イルトヴェガーナが後からついてくるのを感じつつ、なんともないように錬金術初級の本をとる。

するとひそひそと話しかけてくる。


「あの、男子生徒は」

「ティニアシアですか?」

「ティニアシアさんは、恋人ですか?」

「いえ」


何故恋人の有無を聞いてくるのか?推しと会話できるのは嬉しいがもっと違う話題がいい。


「……今度の土曜日、一緒に……」


声が小さくて聞こえづらく、ん?と思う。なんだろう。

曖昧に笑いイルトヴェガーナを見上げる。青い美しい髪が覆いかぶさっている様で夢みたいで綺麗な景色だった。

シマカゼ家に脈々と伝わる赤いアースアイがどこか戸惑っているようにこちらを覗いている。


「なんでもないです」

「そうですか?いつでもお話ししましょうね」


にこっと笑うとイルトヴェガーナは温度の無い微笑みを浮かべて去っていった。

なんだろ。でもいい気分だな。推しと会話しちゃった!


うふっと気持ち悪い笑みを浮かべ本を持って席に戻ると怪訝な顔をしたティニアシアと目が合う。


「司書と仲がいいの?」

「仲良く見える!?」


がたんと思わず興奮して机に乗り上げてティニアシアを見る。

向こう側から咳払いが聞こえたのですっと静かに席に着いた。


「いや、まあ」

「そっかそっか。沢山、通ったからからな?」


頬を染めて錬金術の本を開く。教科書を見たりしながらページをめくる。

ぴりっとした空気を感じて不意にティニアシアを見ると満面の笑みを見せられる。

何だ気のせいか。


「ごめんね。勉強上手くいかなくて」

「いいよ。誰だって得意不得意はあるよ」

「ティニアシアって優しいよね」

「もちろん」


2人で笑いあい、ティニアシアがいろいろ手順を教えてくれる。


「この薬は30㎖でいいんだ」

「へーこっちは?」

「こっちは50㎖」

「毛生え薬って高級素材を使うのね」

「まあ、その代わり髪の毛が寂しくなったらすぐ使えるから」


ああーいつか私も髪の毛が寂しくなるんだろうな。断罪死刑が来なければ。


「魔法でも髪は伸ばせるから」

「あら、その魔法覚えたいわ」

「なんで?」

「私の髪が寂しくなったら使うから」

「なるほど。君の髪は黄金よりも価値があるからね」

「あら、嬉しい」


はにかむとティニアシアが手を伸ばしてくる。

その手を取り、手をつなぐ。


「暖かい」

「うん」

「……好きだよ」

「ありがとう。友達だものね」


友達として。ここ重要。

婚約者だけど、どうも主人公のルートがティニアシアルートの疑いがあるから婚約は破棄だろうな。


人目があることを悟ったティニアシアはそれ以上言い募ることなく手を離し、勉強を見てくれる。


婚約破棄したら、そのとき、私はティニアシアと仲良く出来るんだろうか。

友達じゃなくなるんだろうか?

考えたこともなかった。


ふっと宿題から顔を上げてティニアシアを見る。


「なあに?」

「ううん。なんでもない」


あ、友達じゃなくなるかもしれないのか。見捨てられるかもしれないのか。

断罪死刑が近づくってそう言うことなのか。


怖い。寒気がする。


でもここで弱気なっちゃだめよ!私には推しがいる!!

決然とした目で宿題をこなした。






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