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15:不器用な真実

朝から図書館で宿題をこなす。


明日は山登りかー。

面倒くさ……げふんげふん。大変だなー。


心ここにあらずといった具合で教科書をめくる。


「もっと気合い入れて勉強したほういいのでは?」

「いやあ山登りが面倒くさっ、ん!?」


声をかけられて心の声が漏れたが慌てて頭を上げると青い髪に赤い瞳のイルトヴェガーナは本を抱えてこちらをじっと見つめていた。

顔は見えないが。


「1年生の山登りは義務ですよ」

「はい。すみません」


推しに怒られた。

べそべそしながら勉強に打ち込む。


「……貴女は、その……ディラン・リシュリュー先生のことが好きなんですか」

「好きですね」


きっぱり言い切ると無言が降ってくる。

それを気にも留めず教科書と参考書を交互に捲りながら続ける。


「教え方も凄く分かりやすいですし、清潔感ありますし。あ、でも学校関係者の皆様は清潔感ありますよね。あと声がいいですね」

「声」

「はい。いい声で魔法の授業をしてくれるので楽しいです」


ぺらぺらとページをめくり、目的のページで止まると宿題を進める。


「あと、教え方が優しいんですよ。分からないところがあったら何度でも教えてくれるし。私、魔法が不得意で」

「赤の聖女様が?」

「あ、いえ、光魔法は使えるんですけど、水魔法がうまくいかなくて。一応攻撃はできるんですけど、周囲の人からすると見劣りするので、ディラン先生はちょっと心配しているみたいで」


へへっと恥ずかしくて笑うとイルトヴェガーナはどこか冷たく言い放つ。


「つまり先生として好きと」

「はい。当然じゃないですか。とってもいい先生ですよ」


そこで顔を上げてイルトヴェガーナを見る。本の向こうでどんな表情をしているのかは分からないがまあいつもの愛想笑いだろう。


「私、イルト司書も好きです。優しいし、努力を見てくれる方なので」

「そ、そうですか」


推しに好きって言っちゃった!ダメかな!

顔をうかがいたいがここからでは角度的に見えない。

ああ~ダメな感じかな。推しに認知されていると思ったから調子に乗った。


「……勉強、頑張ってください」

「え!」


そんなこと言われたことなかったので驚いていると歩き去ってしまう。

揺れる美しい青髪に声をかける。


「はい!」

「大声を出さない」

「はい……」


また怒られた。くっおしとやかな淑女を目指すぞ。



授業についていけないなーと思いつつ錬金術の授業を受ける。

鍋に薬草を入れたらぎょっとした隣のヘレナに慌てた様子でお玉でその薬草を出された。


「これはすり鉢で荒くすり潰して入れるんですよ」

「え」

「こっちの球根は刻むんです」

「あらあら」


教科書をめくり手順を確認するとそう書いている。

錬金術苦手なんだよな。魔法陣も綺麗に書けないし。


「すみません」

「いえ」


薬草をすり潰していると先生が周ってくる。


「分からないところは?」

「次のこの薬草はどうしたらいいですか?」

「……それもすりつぶすのよ」

「はい、タニカゼ先生」


ごりごりすり潰し苦そうな汁ごと鍋に入れるとヘレナが悲鳴を上げる。


「ひい!汁はいれないんですよ!」

「え」


じゅうじゅう鍋が音を立てはじめ中の薬湯が煮え立つと緑色の液体になり、徐々に水分が飛んでいく。

あっという間にドロドロになり、水分は完全に飛び、ころんと石が鍋に熱されて落ちていた。


「ああ、あらら」

「アルジェリー。宿題はやっているの?」

「あの、はい」

「これは宿題で手順を確認させた錬金薬だった」


ちょっと怒った様子のタニカゼ先生の顔を見て、焦る。

真面目に宿題はやってたんだ。全然頭に入ってないだけで。


「すみません」

「難しい手順もないのに。貴女やる気あるの?Aクラスでしょう?」

「すみませんでした」

「……はあ」


重い溜息を零され火から鍋が上げられると中の石をひっくり返して放り出し、魔法で新たに水を張られた鍋が火にかけられる。


「出来るまで次の授業に行ってはいけません」

「はい。タニカゼ先生」


うっつらい。このこの悪い頭が悪いんだ!

クラス中からの視線に耐えられない。

すっごい恥ずかしい。


顔を真っ赤にして薬草をすり潰し苦そうな汁はシンクに捨て置く。

耳が熱い。恥ずかしい。ここまで馬鹿だとクラスメイトからも呆れられるだろうな。


ヘレナが優しく話しかけてきてくれた。


「最初の準備はしておきますね」

「でも……」

「いいんです。困ったときはお互い様、ですよね」


私の口癖を言われて苦笑してしまう。

ヘレナは数種類の薬草を手際よく刻み、お湯が煮立つ私の鍋に放り入れる。

そのあとですり潰した薬草をヘレナは自分の鍋に入れていた。


「ありがとうございます」

「いえ。どういたしまして!」


優しいいいいい!ヘレナ優しい!流石主人公!

ほら!優しいところ見た!?見た!?


何人かのクラスメイトは見ていた様子でヘレナをほめている。


お!これでルロヴェネーゼかティニアシアかユリウスが声をかけるか!?

と期待してそちらを見てみると全員から目をそらされた。


何でかあ!!!

私か!私が邪魔なのか!くっ!


お玉で鍋をよく混ぜてすり潰した薬草を入れる。次の薬草をすり潰す。

こそっとヘレナに問う。


「これは汁入れるんですか?」

「これも入れちゃいけません。基本的に何も書いていない時は汁はいれないんですよ」

「あ、そうなんですね。ありがとうございます」

「いえいえ」


汁の方が大切そうだけどな。料理とは違うのか。荒くすり潰した薬草を入れて後は球根を刻んで入れ、砕いた光属性の魔石を放り込む。


おっいい色になって来た。


「ヘレナ様、大丈夫ですか?これ、大丈夫ですか?」


興奮気味にヘレナに声をかける。

彼女は自分の鍋をゆっくりと混ぜながらこちらの鍋を覗く。


「大丈夫ですよ。後は時計回りにゆっくりお玉で混ぜてくださいね」


タニカゼ先生がこちらに周ってきて私の鍋の中身をのぞき込む。


「いいですね」

「ありがとうございます」

「油断しないように」

「はい」


先生は満足そうにうなずき、厳しそうな顔に微笑みを浮かべる。


「これなら居残りしなくてよさそうですね」

「ありがとうございます」


良かったあ!流石主人公!優しい!嬉しい!よかった!


出来た錬金薬を瓶に詰めると3本になった。

誰もが安堵の息を零し、一回失敗した私をちらりと見る。


ちゃんと3本ありますよ!


「これは明日の山登りの際に使う治癒の錬金薬です。打ち身程度ならじんわりと治せます。少し匂いますが」


クラス中がわあと声を上げ、皆、大切そうに瓶をカバンにしまう。

授業が終わり、理科室(仮)から教室に戻ろうとするとティニアシアが声をかけてくる。


「1本僕のと交換しない?」


え。なんで?

あ、ゲームであったなこれ。

主人公と錬金薬を交換するイベント。

何故私に?


ここは修正を試みよう。


「ヘレナ様の錬金薬の方がいいんじゃないかな?」

「なんで?」

「ヘレナ様は手順をよく分かってたしいい錬金薬を作れているとおもうの」

「いや僕は君の錬金薬が欲しい」


うん?なんで?


「上手くいかなかったの?」

「いや。上手くできたよ」


あ!分かった!本当に優しいんだから~。

ふふと笑うと微妙な顔をされる。


「私の錬金薬が上手くいってないと思って、一本だけでも交換しようとしてくれたの?」

「いや、ちが」

「優しいよね、ティニアシアって」


うんうんと頷いて、ティニアシアに笑いかける。


「大丈夫だよ!ヘレナ様にも確認してもらったし!一本持ってく?」


それにと胸を張る。


「私、光魔法使えるから。なくても大丈夫!」


近づいてきていたユリウスが私の目の前で固まるティニアシアを押しのけにこやかに声をかけてくる。


「僕の錬金薬と一本交換しない?」

「あら、ユリウスも優しいのね」

「え?」

「大丈夫よ!錬金薬は失敗してないから!」

「いや、あれっ」

「なんなら、持ってく?交換じゃなくていいよ」

「交換がいいな」

「優しい!でもいいのよ、ユリウス」


そう言ってカバンから一本錬金薬を取り出しユリウスに渡す。

そうこうしているうちにルロヴェネーゼがやってきて声をかけてきた。


「私の錬金薬と一本交換しないか?」

「あら、ルロヴェネーゼ様もお優しいんですね」

「ん?どういうことだ?」

「私の錬金薬は失敗してませんよ。良かったら一本差し上げます」


そうしてルロヴェネーゼに錬金薬を渡し、茫然としているティニアシアにも錬金薬を渡す。

自分の分はなくなったが私は光魔法という便利なものがあるので、大丈夫。


「ちがっ」

「あれあの」

「ま、まってくれ」


何か言っている3人をキョトンと見て、後ろから声をかけられた。


「あれ、レリンサ様の分の錬金薬がなくなっちゃうじゃないですか。私の分を一本お持ちください」

「ありがとうございます。いいのですか?」

「私も交換して欲しかったんですけど、出遅れちゃいましたね」


苦笑いするヘレナは眩しかった。


流石聖女眩しい笑みだ。無償の愛だな!


「私、光魔法があるので錬金薬が一本無くても大丈夫です!」

「私も光魔法使えますよ!お揃いですね!」


2人で笑いあいながら教室に向かった。







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