10:お出かけ 2
服を買いあさってアクセサリーも買って荷物が多くなったところで辻馬車を捕まえる。
「これをシナノ学園のアルジェリーに」
「こっちはクルスクに」
「ヘレナ様はどうしますか?」
「私はこの紙袋ひとつですので、必要ありません」
荷物を分けて馬車に積むと御者はにこやかに本当に微笑ましく見てきた。
「はい。畏まりました」
「これ少ないですが」
「これは恐縮です」
チップをたっぷり渡し、それから馬車代も渡す。
御者は頭を下げて金をしまい、馬車を駆っていった。
丁度昼頃になったのでカフェに向かう。
相変わらず4人はぞろぞろとついてきている。
ユリウスが後ろを見ては舌打ちをしている。
「こらこら」
「だって、2人きりだと思ったのに」
「まあ」
2人きりにこだわりがあるのか。特別な友達ってそんなものなのかな?
「残念だったな」
ティニアシアあああああああああああ!!
ほら!ユリウスが舌打ちしてる!今日は何か感じ悪いぞ!
ルロヴェネーゼもぎょっとした顔をしているし。
ジェレニカは無表情だし、テユティオルはニヤニヤ顔を変えようとしない。
何が楽しいんですか!
胡乱げな目をテユティオルに向けると肩を竦められる。
カフェに着き、店員が現れる。
「何名様ですか?」
「3名です」
ユリウスがそう言い後ろからティニアシアが声を上げる。
「7名です」
店員さんを困らせるな!
ユリウスは舌打ちをしてティニアシアを睨み、ティニアシアは鼻先で嗤う。
結局7名ということで2階の席に通された。
「円卓かあ」
王太子がいるんだよな。学友とはいえこれはまずい。
だが当のルロヴェネーゼが気にした風もなく席に着いたので各々席に着いた。
昼には少し早い時間だったので、通された2階は誰もいなかった。
「このまま2階は貸し切りで」
とルロヴェネーゼが言い出し、私はぎょっとしたが店員は慣れた様子で頭を下げる。
「いくらくらいだ?」
「何時間おられますか?」
「1,2時間」
「でしたら50万オシアです」
「分かった」
ルロヴェネーゼは金を出し少し色を付けた金を店員に支払う。
「よろしかったんですか?」
「私の立場で街を歩く事態がまずいのだ。貸し切りくらいにしないと」
確かに王太子が護衛もつけずに街をうろつくのはまずい。
「今からでも護衛をお呼びになっては?」
私が言うとルロヴェネーゼは微妙な顔をした。
「自分の身は守れる」
「ですが、危険もあるでしょう」
「そうか?」
「ええそうですよ。やっぱり護衛の方をお呼びしましょう」
「今更だしな。ジェレニカ・ビスマルク先輩がいるのだから、万が一があっても大丈夫だ」
そう言われてルロヴェネーゼの隣に座っていたジェレニカが無表情で頭を下げる。
「恐縮です」
そこで店員がやってきてメニュー表を渡され、水が配られる。
メニュー表には値段が書いてない。庶民には恐怖仕様だ。
「ここは私が出す。好きなものを選んでくれ」
「いえ、ここは私が!」
そう私が言うとルロヴェネーゼは首を振る。
「友人と2人きりで楽しみにしていたのだろう?無理についてきたせめてもの詫びだ」
「そうですか?」
ルロヴェネーゼとは友達になれないのか?うーん王太子って難しいな。
そんな難しい顔をするとルロヴェネーゼは首をかしげる。
「どうした?」
「殿下とも友人になりたいと思っていたのですが、難しいなあと」
「そ、そうか」
微妙な顔をされ、やっぱり王族と友達になるのは難しいのか。不敬だったかな?
「俺たちはもう友達だよな」
テユティオルはニヤニヤ笑いでそう言い水を一気に飲み干す。新たに水が注がれる。
あの店員は水入れ係なのか。
「そうなんですか?嬉しいです!」
まあ適当に流しておこう。
あからさまに適当な態度にテユティオルは珍しく微妙な顔をしてそっぽを向いた。
どっちだよ!
メニュー表をのぞき込み一通り見て決める。
「私はこのミートソースパスタにしようかな」
「僕も僕も」
「私も同じもので」
注文を7人分とった店員は去っていき、水をサーブする係の店員だけ残った。
料理を待っている間、ユリウスと話に花が咲く。
あのワンピースは可愛かったとかアクセサリーをお揃いで揃えられたのは僥倖だったとか。
「ピアス開けようかな」
あのピアス可愛かった。青い宝石に花弁が開くそんな繊細で愛らしいピアス。雫のチェーンもよかった。
「ピアスかーちょっと怖いよね」
「そうそう、ひっかけたりとかね」
「開けてみるといろいろ便利がいいよ」
隣に座っていたティニアシアがそう言う。
「そうなの?」
「魔法道具としてピアスの形があるから、防御面のためにつける場合もある」
「そうかぁ……」
いずれあけるなら今のうちにあけちゃってファッションを楽しむのもありだな。
「殿下はピアスなんですか?」
「ああ」
「へーそうなんですね」
どんなデザインのものがあるんだろう。気になる。
「デザインはどんなのがあるんですか?」
「で、デザインか?バーピアスとかリングとか。一番多いのは宝石が一粒のやつだな」
「へーいっぱいあるんですね。今はつけているんですか?」
「ああ」
ほらと耳を隠していた長いの黒い髪を上げられ見せられる。黒いダイヤの絢爛豪華というよりは美しさの中に質素さを感じさせる質実剛健なデザインだった。
「よく似合っておいでです」
「ありがとう」
そう言えば服も黒く質素だ。もちろん貴族として最低限の華やかさはあるが、華美ではない。
王族ならもっと華美な服装もできただろうに……。だがそんなところに好感が持てる。
きっとそう言うところからコストカットをして血税をなるたけ使わないようにしているのだろう。
勿論、パーティーがあったり来賓があったりすれば華美な服装をするだろう。それは侮られないための武装と同じだからだ。
安易な浪費をしないという点ではこの国は安泰だなと思う。お嫁さんにヘレナはいかがですかと思いつつジェレニカが学校の話をする。
「学校は慣れたか?」
「はい。コツを覚えれば廊下の位置もわかるようになりますし」
「あの時はやばかったけどね!」
ユリウスと笑いあう。
「ゴブリンが学校内に迷い込んでて。結構深い所だったので助けも呼べないし。でもユリウスが一撃で倒したんです」
「よく守れたな」
ジェレニカが微笑み、頷く。
ふおおお。ジェレニカの金の目が細められて口がわずかに弧を描く。
美しい。美しい微笑みだ。
その隣でテユティオルが真面目な顔でユリウスを見る。
「ブリャッヒャー先輩?」
「ああ、なんだ?」
「どうしました?珍しく真面目な顔をして」
「酷いな。俺はいつでも真面目だ」
嘘だあ。いつもニヤニヤしてるじゃん。
「まあいいですけど」
「いいのか」
「テユティオルは不審者だからな」
「酷いな、ジェレニカ」
ティニアシアがジェレニカの脇腹を肘でついている。
いいなあ。あんな感じの友達いいなあ。ユリウスとはそんな感じだけど。
ちらりとヘレナを見てしまう。
友達になれるかな?上納品を渡して友達面は違う気がするし。
結局どっちがいいんだろうなあ。
断罪死刑を避けるために仲良くするのと、徹底的に避けるのと。
これは攻略対象にも言えることだが、あとひとり隠し攻略対象がいるが何せ会うことがない。
探してみたが、道に迷いそうになって無理だった。
あれこれ考えているとするりと腕に手が絡められる。
「どうしたの?」
「何か考え事?」
「うーん。まあそうね」
ユリウスはそう言ってちょっと不満そうにした。
「僕のこと考えてる?」
「違うよ」
「僕のこと考えて」
「うんうん」
ちょっとした独占欲に苦笑いしながら頭を撫でる。
「れ、レリンサ。ピアスを開けるなら宝石を渡そうか。魔石で綺麗な青があるんだ。君の瞳によく合うと思う」
突然名前で呼ばれて驚きつつも頭を下げる。
「殿下からの下賜品であればお断りする道理はございません」
「いや、あの。そういうつもりじゃ」
「え?」
「あ、うーん。私のことはルロヴェネーゼと呼べ」
「え?ですが……あらぬ誤解を生むのでは?」
「……とも、友達になりたいのだろう?」
「え、あ、はい」
なぜ突然。本当に突然だな。自分の魅力であるツンデレが生かされていない。あれはヘレナ限定か?
「兎に角!魔石を渡すからそれを好きなものに加工すればいい!」
とそっぽを向かれた。
う、うーん。まあ下賜されるのであれば断れないし、いつの間にかピアスは開ける方向に。
学校でもつけないといけなくなるからシンプルにひと粒の魔石を両耳につけることになるだろう。
そこで料理が運ばれてきて、全員にいきわたる。
「いただきます」
フォークを片手にそう宣言した。
◆
美味しいパスタだった。食堂で出るパスタとは塩加減が違った。肉もたっぷり入っていて、ソースの上品さが際立つ。
「美味しかったです、殿下」
「ルロヴェネーゼ」
頑固か!
「……ルロヴェネーゼ様」
「様もいらないが」
「流石にそれは、まずいですよ」
渋々引き下がるのを見ながらルロヴェネーゼが店員に料理の美味さをほめたたえた後、金を支払う。
「この後ケーキ食べに行きますけど、一緒に来ます?」
「……今食事をしたよな?」
「別腹なんですよ」
「そ、そうか。私は行こうかな」
「僕も行く」
「俺も行こう」
「俺も行くー」
ユリウスが視線で射殺しそうな目をしてたがスルーしてヘレナを見る。
「どうですか?賑やかなのは苦手ですか?」
「え、え。いいんですか?」
「はい」
「クルスク様とのデートかと」
今更なその言葉にユリウスは嬉しそうな顔をしてティニアシアが苦い顔をした、が。
「お友達とのお出かけですよ」
と言うとユリウスは肩を落としティニアシアが悠然と微笑んだ。
お!ヘレナはユリウスを気にしているのか!?ユリウスはいいぞ。気遣いはできるし、可愛いものを共有できるし。頭もいいし、勉強を教えてもらえるぞ!
でもヘレナはそもそも頭いいか。
店を出て、目をつけていたケーキ屋に向かった。
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