第9話 そういえば食いしん坊だった
「今日はどこに買い物に行く予定なの?」
咲茉の変わりようにはびっくりしたが、いつまでも駅の前で二人共が恥ずかしがってる訳にもいかないので、今日の目的を聞いてみた。
「今日は、部活のときに着る服や靴を買おうと思っています」
バスケ部に入る事を決めた咲茉は練習のときに着る服やバスケットシューズを購入するようだ。引っ越ししてきたばかりで土地勘がないが、咲茉がここを指定したという事はこの辺りにお目当ての店があるのだろう。
ついてきてという咲茉と一緒に道を歩いているとやはり人々の注目を浴びる。
咲茉の事が好きだという感情を置いておいても今日の咲茉はかなり可愛いと思う。それこそ栞菜や笹本という俺の知っている中でもとびきりの美少女達にも引けを取らないどころか上回ってるんじゃないだろうか?
まず咲茉を見てあまりの美少女ぶりに驚いてから隣にいる俺を見てなんでこんな男が……と驚くまでがワンセットだ。
正直咲茉の引き立て役になれていればいいのだが、俺が隣にいる事で咲茉の価値を下げてしまっているようで申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「この先に大きなショッピングモールがあるんです。スポーツ用品店も入ってるのでそこで買い物をしようと思っています」
隣を歩く咲茉は見た目のせいもあるのか普段よりも明るい気がする。
そういえば俺は咲茉を褒めたが咲茉は俺の事を褒めてくれなかったな。まぁこんな頭ボサボサで眼鏡かけてる微妙な感じだと褒める所もないか。
「今日は、お揃いじゃないんだね」
「お揃い?」
「あ、うん、眼鏡」
言いながら眼鏡をくいっと上げるとようやく理解してくれたようだ。
「今日はコンタクトにしてみたんですが変でしょうか?」
(全く変じゃないし、とても綺麗だ)
「いいと思う」
「そうですか。勇気を出してコンタクトにしてみてよかったです」
さっきまではコンタクトにした事を言われて恥ずかしかったのか頬を赤くして下を向いていた咲茉が顔を上げて笑顔になった。非常に眩しい。
そこで二人は無言になり、お互いに目を逸らす。
ただ一言「行こうか」と言いながら咲茉の手を取って歩き出せば手を繋いで歩けるのに今の俺にはそれができない。いや、正確には『できない』ではなくて『してはいけない』か。
前に進めないのは非常にもどかしい。
それにいつも手を繋いで歩いていた小学生の頃とは違って、今は嫌がられる可能性もある。やはりこの年頃の女の子なら好きでもない人に触られるのは嫌なはずだ。
「行きましょう」
そう言って歩き出す咲茉の後に続く。
会話らしい会話もなく少し歩くとショッピングモールが見えてきた。地元にあるショッピングモールよりかなり大きい。
「まず最初にスポーツ用品店に付き合ってもらってもいいですか?」
「もちろん」
当初の目的なのでそれを終わらせるのは当然だろう。
スポーツ用品店に着くと咲茉は鞄からメモを取り出して確認をしている。バスケ部の人に必要な物を教えてもらったのだろうか?
佐伯の顔が頭に浮かぶがすぐに振り払った。
「見てもいい?」
メモを見ながら売り場を探して咲茉にアドバイスをしながら商品を選んでいった。
陰キャを演じると言っても何もできない男になる必要はないし、別にこれくらいは問題ないはずだ。
タケもいろんな面でアドバイスをしてくれるし、非常に頼りになる。
「すごく助かりました。一人で選んでたら変なの買ってしまってたかもしれないです」
「役に立てたならよかった」
「ところでお腹空きませんか?」
そうだった、咲茉は昔から食いしん坊キャラだった。昔から変わらず大人しそうな見た目だったからすっかり忘れてた。
目の前に大量に並んだ料理を美味しそうに食べる小学生の頃の咲茉を思い出してフフッと思わず笑ってしまう。
「なんで笑ったんですか? もしかして相変わらず食いしん坊だなとか思ってます??」
「変わってないんだなぁと思って」
「それってやっぱり食いしん坊だと思ってるんじゃないですか!」
頬を膨らませて怒ってる咲茉も可愛い。思わず頬をつついて口の中にある空気を出してやりたいくらい可愛い。
昔はよく食べる咲茉をカー〇ィみたいだなとよく揶揄っていた。なんでも食べるピンク色のゲームキャラだ。
「まぁまぁ。何が食べたいの?」
「うーん……、ラーメンもいいですし、カレーも捨てがたいですね。あ、トンカツも食べたいかも……」
「じゃあフードコートに行こうか、いろいろあると思うし」
「そうですね!」
何を食べるかを妄想しながら今にも涎を垂らしてしまいそうな咲茉と一緒にフードコートに行く事になった。
フートコートに向かっている途中も顎に手をあてて考え事をしているようだ。きっと何を食べるかずっと考えているのだろう。
「何食べるか決まった?」
フードコートに着いてからも並んでいるお店を見ながら悩んでいる。
「決めました」
咲茉の足はラーメン屋に向かっている。ラーメンを食べる事にしたようだ。
俺もその後に続く。咲茉がラーメンなら俺もラーメンにしようと思い、注文待ちの列に一緒に並ぶ。
「龍哉君もラーメンですか?」
「あぁ、咲茉と一緒にしようかなと思って」
「じゃあ普通のラーメンを頼んでおいてください。お金は後で渡します」
そう言い残して咲茉は列から離れた。お昼時で人も増えてきているし、席を取っておいてくれるのだろう。
ラーメン屋は人気のようで受け取るまで割と時間がかかった。
ラーメンを二つ受け取り、咲茉を探すと、近くのテーブルに腰をかけていた。
「おまたせ」
俺が席につくと同時にピピーッ、ピピーッと電子音が鳴った。
「あ、少し待ってて下さいね」
しばらくするとトンカツ定食を乗せたトレーを持った咲茉が戻ってきた。
「もしかして、両方食べるの?」
「はい、どうしても決められなかったので……」
しばらく後にはラーメンのスープまで全て綺麗になくなっていた。
咲茉の食べっぷりと、嬉しそうに食べる顔は見ていて飽きなかったが、この小さくて細い体のどこに入るのだろう? と首を傾げるしかなかった。