第8話 待ち合わせ
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「龍哉君、今週末暇ですか?」
咲茉が休憩中に女子バスケ部の部長に入部したいと伝えた後、俺達は一緒に帰っていた。
「特に予定はないかな」
陰キャでぼっちを演じている俺には咲茉以外には友達と呼べる人もいないので、放課後も週末も予定があるはずもなかった。
「でしたら買い物に付き合ってもらえないでしょうか?」
「もちろん!」
週末の予定を聞かれた時点で何かのお誘いがあるのは予想していた。咲茉からのお誘いなら断る理由などあるはずもない。例え予定があったとしても予定よりも優先するべき事項だ。
そう思い咲茉を見ると、えっ? という感じで目を見開いて驚いていた。
咲茉からお誘いがあるだろうと予見していた俺は食い気味に返事をしてしまったのだとその表情を見て初めて気付いた。
陰キャならそこは即答するべき場面ではなかった。しかも自分では見てないが、咲茉にはあまり見せない自然な笑顔で答えていたように思う。
恐る恐る咲茉を見るとまだ驚いてぽかーんと口を開けたままの状態だった。
「咲茉? 咲茉?」
数回呼びかけるとようやくいつもの咲茉に戻ってくれた。
「えっと……。何を話してましたっけ?」
「買い物の話かな」
「そうそう、買い物の事でした。じゃあ土曜日にお願いしてもいいですか?」
「わかったよ」
今回は落ち着いて返事ができた。二人で買い物ってデートだよな。小さい頃はいつも三人だったから咲茉と二人で出かけた事はない。
駅で咲茉と別れるまで、そんな事を考えながら顔がニヤケてしまうのを抑えるのに必死だった。
◇◇◇
咲茉との初めてのデートを明日に控えた金曜日の夜、俺は部屋で一人悩んでいた。
どうしよう……。
ベッドの上には今の季節に合いそうな服が所狭しと並べられている。
アニメでデート前日の女子がどれを着ようかと悩んでいる場面に酷似している。
でも俺が悩んでいるのはどれを着ようかではなく、着て行く服がないという悩みだ。
しかも一般的な陰キャとは正反対の理由で。
元々お洒落をするのは好きだった事もあり、服はよく購入していた。栞菜を始めとするお洒落に煩い女子達からも洋服のセンスがいいといつも褒められていたので、センスもいいのだと思う。
しかし今はそのセンスの良さが仇になっていた。
お洒落な陰キャってどうなんだ?
だが咲茉との初めてのデート、これから先も記憶に残るような一大イベントにダサい服で行くのもどうかという疑問もある。
いくら咲茉が陰キャな人が好みだと言っても明らかにダサい人と一緒に歩くのは嫌じゃないだろうか?
それに今でこそ『それはないだろ……』と思うようなタケの服装に関しても咲茉と遊んでいた小学生の頃は親が服を選んでいた事もあり、そこまで致命的ではなく、むしろお洒落な服を着ていたと思う。
咲茉がタケの事を好きだったというのであればダサい格好という選択肢はないな。
そう思ってお洒落になりすぎないよう、極力シンプルで無難なコーデを着ていく事に決めた。
そうだ。せっかくの買い物なんだから明日余裕があったら咲茉に服を選んでもらうというのもいいかもしれないな。
◇◇◇
翌日、十時に待ち合わせだったが、知らない駅での待ち合わせという事もあって余裕を持って家を出た俺は待ち合わせの二十分前には待ち合わせ場所い着いていた。
他にも待ち合わせをしているらしき人はチラホラいるが、立っていると目立ちそうなので近くにあるベンチに腰を下ろした。
待ち合わせなんだから目立ったほうがいいのだろうが、今の俺のキャラではないような気がしたからだ。
まだ時間もあるけどする事もないなと思いながらスマホでSNSを眺めていた。タイムラインには中学時代の友達の写真が並んでいる。高校生になっても変わらない友達を見て顔を綻ばせていると急に声をかけられた。
「龍哉君、待ちましたか?」
スマホを見るのをやめて顔を上げて……思わず固まってしまった。
咲茉だよな……? たっちゃんという呼び方と今待ち合わせをしている相手という情報がなければ分からなかったかもしれない。
目の前にいる咲茉はトレードマークの眼鏡におさげといういで立ちではなかった。
いつもおさげにしている綺麗な艶のある黒髪は真っすぐ下ろされており、サイドは丁寧に編み込まれている。
いつもと違ってコンタクトをしているのか、眼鏡は外されていて、まだ高一という事もあり顔立ち自体は幼いながらも薄く化粧をしている事もあっていつもよりも大人びている。
胸元が少し開いた白いブラウスに薄緑色で細かいプリーツの入ったロングスカートは今の季節によく合っていた。
「あの……どうでしょうか……」
あまりの変わりように言葉も出せずただただ見つめているしかできなかったが、咲茉の言葉でようやく我に返る事ができた。
「今日は眼鏡じゃないんだな。すごく可愛いし、とても綺麗だ」
気が付くと年相応の可愛さの中に、化粧や服装による綺麗さを併せ持っている咲茉に対する感想をそのまま口にしてしまっていた。
しまった、素で話してしまった。と思い、咲茉を見ると、下を向いて手をモジモジさせながら頬だけではなく耳まで赤く染まっていた。
「龍哉君と初めてのデ……おでかけだから…………がんばった」
最後のほうは声が小さくて聞こえなかったが目の前にいる咲茉は息が止まりそうなくらい可愛かった。
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