第2話 入学式
「なぁタケ」
「なに?」
俺はベッドにもたれかかり、タケはベッドの上で横になってお互い本を読んでいた。
「なんか、幼馴染と上手くいくのって陰キャばかりじゃね? この本もそうだし、この前見せられたアニメもそうだったよな」
◇◇◇
新しく住むマンションから高校までは歩いて二十分といったところだ。
学校へ行く途中に駅があり、駅を過ぎると俺と同じ服を着ている生徒達が歩いているのが見えた。
新入生は登校時間が少し遅いはずなので歩いているのは俺と同じ新入生ばかりだろう。
友達になれそうな奴はいるかな? なんて事を思いながら周りを見渡す。
中学と違って入学式の時点では知り合いの少ない高校だとほとんどの生徒が一人で歩いている。
人間観察をするように周りを見ていた俺は視界の邪魔になっている自分の前髪を横に流そうとした所で思い出した。
そうだった。今日から陰キャに生まれ変わるんだった。
慌てて猫背になり、下を向く。
……自分の靴と地面しか見えないな。
一度マンションからの道順を下見していた事もあり、無事に今日から通う事になる私立桜木高校に到着した。
一週間程前に学校から送られてきていた書類に自分のクラスと校内の見取り図が書いてあったので、それを見ながら自分の教室である1-Cを目指す。
教室内の波長の合いそうな生徒に話しかけたいのを自制して自分の名前の書かれた席に下を向いておとなしく座っていると制服ではなく、スーツを着た女性がカツカツとヒールの音を立てながら教室に入ってきた。
下を向いたまま目だけを前に向けて確認をすると、眼鏡をかけた色気たっぷりの綺麗な女性が教壇に立っていた。率直な感想を言えばいかがわしい女教師物の動画に出てきそうである。特に胸元の破壊力が凄い。
「入学おめでとう。私はこのクラスを受け持つ事になった内田悠だ」
顔を上げないように周りを見渡すと男子は頬を赤くして俺と同じように俯いている者がほとんどで、女子はキラキラとした尊敬の眼差しを教師に向けている。
「これからの高校生活について知りたい事はいろいろとあるだろうが、まずは入学式だ。入学式の後、自己紹介をしてもらうつもりなので考えておくように。それでは大講堂に移動するのでついてきなさい」
そう言った後、来た時と同じようにヒールの音を立てて廊下に向かって歩く教師の後ろ姿に俺を含めた男子生徒の目は釘付けになっていた。
入学式が始まり、理事長のありがたいお話を聞く。
思っていたよりは短く、及第点だと思ったがその後の校長の話が長かった。同じような内容を何度も繰り返すというありがちなパターンだ。
「新入生の皆さん、入学おめでとうございます」
さっきまでの眠気を誘う声とは違い、歯切れのよい大きな声が講堂内に響き、目が覚めた。
「僕はこの桜木高校の生徒会長をしている三年の高田英彦です」
思わず前を見ると檀上には制服を来た爽やかなイケメンが立っている。
上級生のいる後ろのほうでざわめきが起き、自分の周りにいる女子達はさっきまでの眠そうな顔とは違って顔は綻び、笑顔になっている。
よく自分に向けられていた光景だ。この生徒会長も大変なんだろうな。
生徒会長の話は短く簡潔にまとめられており、挨拶が終わった後は後ろにいる上級生から起こった拍手が新入生にまで広がっていた。
「入学式お疲れ様。これからLHRを始める。まずは最初に言ったように自己紹介をしてもらう。先陣を切って自己紹介をしてやろうという者はいるか?」
誰もいないのを確認して思わず立ち上がりそうになり、寸前でなんとか留まったがガタッと椅子の動く音がしてしまった。
しまったと思い前を見ると眼鏡の奥にある鋭い目がこちらを見ていた。俺と目が合うと手元にある資料を確認し、嫌な笑みをこぼしていた。
指名されるとまずいと思い咄嗟に俯いたが特に指名をされる事もなく難を逃れたようだ。
「……いないようだな。それでは廊下側の一番前の阿川から順番に行こう」
「は、はいっ……阿川純也です。えーっと……中学の時はサッカー部でした。えー、高校でもサッカー部に入りたいと思っています………………以上です」
自己紹介のテンプレートができた後は皆同じような自己紹介が続いた。部活だったり趣味だったり特技だったり。
「俺は小池鴻介。中学は帰宅部で高校でも帰宅部の予定でーす。高校では可愛い彼女を作っていろいろと楽しみたいでーす。ちなみに内田先生みたいなセクシーな人がタイプです。あ、可愛い女子高生もタイプでーす、以上!」
みんな笑う訳でもなく反応に困っている。
なんというか……。チャラい。いやかなり残念な感じだ。
アッシュグレーの髪色や髪型はお洒落だが、本人の顔と似合ってない。遠目に見ると雰囲気イケメンな感じはするが実物は……。
先生をチラッと確認してみたが氷のように冷たい表情をしているが特に注意もしないようだ。
「次は私だね。笹本真衣です。趣味はSNSかな? 私のアカウント知りたい人は言ってくれたら教えるからフォローしてもらえると嬉しいな」
雰囲気イケメンの小池の後ろに座っていた女子が自己紹介を始めると男子生徒の目線が釘付けになった。
亜麻色の髪の毛は綺麗に巻いてセットされており、今日から着始めたはずの制服も身に付けたアクセサリーも含めてお洒落に着崩している。
だが一番目を引くのはそのスタイルの良さと非常に整った顔だろう。なんというか、雰囲気は栞菜に似てるな。可愛い系の栞菜を美人にした感じ。少し懐かしい感じがした。
「ねぇ、俺フォローしたいからアカウント教えてよ」
前にいた小池が後ろを向いてまだ自己紹介途中の笹本に話しかけているが笹本は完全に無視だ。
「彼氏、友達募集中でーす。以上!」
「え? 彼氏いないの? 友達になろうよ」
自己紹介を終えた笹本は椅子に座ると脚を組み、肘をついて横を向いていた。しつこく話しかけている小池を無視しているようだ。
その後も同じような自己紹介が続き、いよいよ俺の番になった。
「えっと……ひ……菱井……龍哉…………です」
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