第15話 パンケーキとミルクティと
その日の放課後、帰る準備をしていると咲茉に声をかけられた。
「龍哉君、一緒に帰りませんか?」
「あれ?」
「今日は休みです」
部活は? と聞き返す前に返事があった。
たまの休み、友達と一緒に帰らなくていいのかな? なんて事を思ったりしたのだが、咲茉からの誘いであれば俺に断る理由はないので一緒に帰る事にする。
咲茉の動きは相変わらずぎこちない。まだ筋肉痛が続いているようだ。
当分はその地獄のような辛さが続くんだよ。できる事なら変わってあげたい。
二人並んで校内を歩く。
これが美少女と俺みたいな陰キャぼっちの組み合わせだと周囲から嫉妬や殺意が向けられるのだろうが、咲茉はかなりの美少女ではあるものの、普段は地味なメガネっ子なのでそういう事もない。
それにしても部活中はどうしてるんだろう? この前チラッと見学に行ったときにはメガネはしてたっけ?
「あ、咲茉ちゃん、今帰り? 気をつけてね」
「咲茉ちゃんバイバイ」
「あ、先輩。お疲れ様です」
咲茉が二人組の女子生徒に声をかけられる。先輩と言ってるので多分バスケ部の先輩だろう。
まだ部活が始まって間もないが、先輩達とも仲良くできているようで安心した。
そっか、別に一年生にこだわらなくても先輩という手もあったな。
久々に咲茉と一緒に帰るという事で思わず足取りも軽くなる。チラチラと隣を見てしまう自分がかなりキモい。
覗き見をしているときに咲茉と目が合ったら気まずいと思いつつも同じようにこちらを見て欲しいという矛盾した気持ちになるが、咲茉と目が合うなんて事はなかった。
この間のデート? ではテンションが上がってしまってこちらから話をしすぎて陰キャを演じきれなかったという反省もあり、今日はこちらから話しかける事はしない。
咲茉も自分から話を振るようなキャラではないので、二人で歩いている間も無言の時間が続く。
あれ? これ一緒に帰ってる意味なくね?
たしかに隣に咲茉が歩いているというこの状況は嬉しい状況ではあるけど、せっかく二人でいるのなら話もしたい。ただでさえ咲茉が部活を始めた事で二人でいる時間というのが減ってるというのに。
「部活はどう?」
無言の状況に耐えきれず、話しかけてしまった。
俯きがちに歩いていた咲茉がびっくりしたようにこちらを向いた事でようやく目が合った。
「楽しいですよ。疲れますけど」
驚きの表情はすぐに笑顔へと変わる。
「さっき話しかけてきてたのはバスケ部の先輩? 優しそうな人だったね」
「はい、初心者の私にもとてもよくしてくれます」
面倒見のいい先輩っているよね。俺も中学の頃の先輩にはいろいろとお世話になった。
「でも……」
咲茉の表情が曇る。
「でも?」
「……いや、なんでもありません」
流石に今の『でも』がなんでもないというのは無理がありすぎる。
悩み事とかがあるのなら相談に乗りたいし力になってあげたいと思う。
だが、どう声をかけていいのかも分からず、また無言の時間が流れてしまう。
「……あのさ! ちょっとお茶でもしていかない?」
駅が近づき、このまま別れたくないと思っているとカフェが目に入ったので思い切って声をかけた。
緊張してしまい、なんと声をかけていいか分からず、下手なナンパみたいになってしまったのは仕方ない。
中学生のときは陽キャグループに所属していてある程度のコミュ力を持っていたが、好きな女性の前では緊張してしまう。
「お茶?」
「そう、あそこ行ってみたいなと思って」
聞き返してくる咲茉に目の前にあるカフェを指差しながら答える。
「今日は時間もあるしいいですよ」
いい返事を貰えたことに思わず心の中でガッツポーズをする。
「じゃあ行こう」
思わず出そうになる手を引っ込めてカフェに向かって歩き出す。
席に座ると咲茉は真剣な表情でメニュー表とにらめっこした後、ミルクティーとパンケーキ二種類を頼んでいた。
家に帰ってから晩御飯を食べられるのだろうか。
そういえば昔咲茉の家に何度か遊びに行ったとき、夜ご飯をご馳走になった事があるが、咲茉の目の前に並べられたお皿には唐揚げが山盛りになっていた。山盛りという文字の通り、富士山のように盛られていた。
やがてテーブルの上にパンケーキが並べられ、俺の前にはアイスカフェオレが置かれる。
パンケーキを見た咲茉の表情は輝き、スマホで写真を撮り、両手に持ったナイフとフォークで切り分けたパンケーキを一口食べると頬を抑えて蕩けるような表情をしていた。
「美味しい?」
「はい、とても美味しいです。龍哉君もどうですか?」
返事をする前に一口サイズに切り分けられたパンケーキが口の前に差し出される。
「早く食べないと生クリームが落ちます。口を開けてください」
目の前の状況を整理できずに固まっていたが咲茉に促されて口を開けるとふわっとしたパンケーキが口に押し込まれ、少し遅れてイチゴの甘みと酸味が口の中に広がる。
「どうですか?」
俺の口に入ったフォークでパンケーキを自分の口に運ぶ咲茉を見て顔が熱くなる。
「美味しかった」
恥ずかしさで咲茉をまともに見る事が出来ず、目の前に置いてあるカフェオレを見つめながら返事をした後、カフェオレを一気に飲み干した。
飲み干してしまったカフェオレのお代わりを頼み、幸せそうに食べる咲茉を眺めるという至福の時間を過ごした後、咲茉の悩みを聞く為に話を切り出す。
「ところで咲茉、部活どう?」
下校時と同じ質問を投げかけると、今回は表情が曇った。
「先輩達は優しいんですけど、やっぱり体力的に辛いです。あと、バスケ未経験なのが私だけなので練習についていけるかが不安です……」
「今日も筋肉痛が辛そうだもんね」
「えっ!? バレてました?」
咲茉は自分の動きが普段通りだと思っているようで、筋肉痛だという事を見抜かれて口に手を当てて目を丸くしている。
「う、うん……。歩き方とか少し変だなって」
「そ、そうですか……」
「まだ始めたばかりだし、毎日運動をする習慣がなかったんだから仕方ないよ。そのうち慣れてくると思うからそれまでの辛抱だね」
「ですよね」
それにしてもこんなにキツイ思いをして運動部に入ったのはなぜだろう。小学校時代の咲茉を思い出すと運動はあまり向いてないと思う。
運動部にわざわざ入ったと言う事は体力作り?
でもそれならバスケ以外の選択肢もあるのに見学に行ったのはバスケ部だけ。元々バスケ部に入ろうとしてたならバスケに興味があったとか?
でも咲茉がバスケ好きってあまりイメージが湧かないんだよなぁ。漫画やアニメの影響?
「あれー? ひしっちじゃーん!」
咲茉に直接聞いたほうが早いなと思っているとカフェの入り口で見知った顔がこちらに手を振っていた。
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