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第14話 ごはんつぶ

 さっきまでは豪快におにぎりにかぶりついていたのだが、サンドイッチははむはむと少しずつ食べている。


 女の子に貰ったおにぎりは中におかかやこんぶ、シャケといろいろな具が入っている。


 それにしてもすごい大きさだ。この子はこれを三つも食べようとしてたんだよな。


「美味しい?」


「うん、美味しいよ。このおにぎりは君が作ったの?」


優奈(ゆうな)


「ん? ゆうな?」


「名前、優奈(ゆうな)


 なるほど、この子の名前は優奈と言うらしい。


「あぁ、名前ね。それでこのおにぎりは優奈さんが作ったの?」


「名前、優奈さんじゃない、優奈」


 これは呼び捨てで呼べって事だよな。


「私が作った」


 サンドイッチを食べ終わった優奈は両手を腰に当てて胸を張っていた。


 胸を強調するような格好になってはいるが、あまり強調されていない。


 いや、強調する物がないと言ったほうが正しいだろうか。まぁ、うん……。そういう事だ。


「そうなんだ? 美味しかったよ。ありがとう。おにぎりでお腹いっぱいになったから……サンドイッチもう一ついる?」


「欲しい」


 あと一つ袋に残っているサンドイッチを差し出すと、欲しいというので食べてもらう事にした。おにぎり一つだけでお腹がいっぱいだ。


 サンドイッチ二つでもおにぎりと比べるとかなり量が少ないけど大丈夫だろうか? 


 この子が午後からお腹空いてひもじい思いをしなければいいんだけど。


「名前は?」


「菱井だよ」


 俺の名前を聞いた優奈は少し眉を顰めている。


「貴方の苗字は?」


「菱井」


「菱井菱井? 変なの」


 いや、苗字が菱井で下の名前も菱井というのは流石にないだろ。


 まぁ名前を聞かれて苗字を言った俺も悪いと言えば悪いかもしれないが。


 でもさっきから思っていたがこの子かなりの不思議ちゃんだ。


「あー、名前は龍哉」


「いつもここで食べる?」


「いや、いつもって訳じゃないけど、たまに来るかな」


「ふーん。明日も来て」


「明日も?」


「うん。じゃあね」


 それだけ言うとランチボックスを持って立ち上がった優奈は新校舎のほうへ向かって帰って行った。


 新校舎に向かったって事は多分一年生だよな。


 一人で何も考えずに食べるのもいいが、誰かと一緒に食べるご飯のほうが美味しく食べられる。


 それにあれくらい口数が少ないと俺もボロを出さずに対応できるから気が楽だ。


 お腹が苦しかったので階段で少し横になってから教室に戻った。



 次の日、昼休みになるとサンドイッチを二袋鞄から取り出して自動販売機に向かう。


 昨日はカフェオレを購入したが、今日は緑茶も一緒に購入し、旧校舎の外階段へ。


 外階段に着いたが優奈はまだ来ていないようだ。


 今日は来ないかもしれないなと思いながら緑茶を飲んでいると優奈が目の前を横切り、階段に座った。


「こんにちは」


「……」


 挨拶をしてみたが、返事がない。


 一点を見つめながら険しい顔をしているので、何を見ているのかと確認すると、俺の隣に置いてあるサンドイッチを凝視しているようだ。


「交換する?」


「する」


 優奈は膝に置いていたランチボックスを開けると大きなおにぎりを差し出してきた。


 俺はそれを受け取り、代わりにサンドイッチ二袋とカフェオレを手渡すと、優奈は少し首を傾げている。


「サンドイッチ一袋じゃ少ないかと思って」


「…………ありがとう」


 目元はいつもと変わらないが口元が少し綻んでいる。


 もらったおにぎりを食べながら隣を見ると、優奈がサンドイッチをハムハムと齧るように食べており、小動物みたいでとても可愛い。


 今日のおにぎりの中身は昨日とほぼ同じだったが、イクラが追加されており、少し豪華になっている。


「どう?」


 サンドイッチを食べ終わった優奈がこちらに身を乗り出し、俺の前に顔を近づけてくる。


 距離がかなり近い。


「美味しいです」


「ん」


 感想を伝えると優奈は元の場所に戻り、二袋目のサンドイッチに噛り付いていた。


 俺がおにぎりを食べ終わる頃には優奈は既にサンドイッチを胃袋に収めたようで、持参のおにぎりを食べている。


 この小さな体のどこに入って行くのだろう。そんな事を思いながら横顔をぼーっと眺めていると視線に気が付いたのか、優奈はこちらを向くとこてんと首を傾げて聞いてきた。


「いる?」


「いや、もうお腹いっぱいだからいいよ」


「そう」


 優奈の少し寂しそうな横顔を見ているとなんか悪い事をしているような気がして……。


「じゃあ少しだけもらおうかな……」


 思わず口に出てしまった。


 するとあまり表情を変えない優奈が少し微笑んだ気がした。


「ん……、あーん」


 両手で俺の口元に今食べていたおにぎりを近づけてくる。


 いやいや、あーんって。


 そんな事を考えているうちもどんどんおにぎりが近づいてくる。


 このままだとおにぎりとキスをしてしまう事になるので口を開けるとおにぎりを口に押し込まれた。


 俺がおにぎりを噛むと優奈はおにぎりを自分の元に引き戻し、かぶりついていた。


 あれ? これって間接キス……?


 今自分がやっていた事に気付き、顔が熱くなってくる。


 周りに誰もいないのであーんはまだいいとしても間接キスは不味いだろ……。


 隣をこっそり見ると何事もなかったかのようにおにぎりを食べている優奈と目が合った。


「あ、」


 優奈の右手が俺の口元に伸びた後、優奈の口に戻っていく。


「ごはんつぶ、ついてた」


 なんだこれ……。


 さっきよりも顔が熱くなってしまい、下を向いたまま顔を上げる事ができなくなってしまった。


 ようやく心が落ち着き、顔を上げたときにはもう優奈はおにぎりを食べ終わっていて、真剣にスマホの画面を見ている。


 教室に戻っても話す相手もいないので俺もスマホを取り出し、ゲームをしていると、背後に気配があった。


「ゲーム、好き?」


「好きという程ではないけど、暇つぶしによくするかな。優奈はゲームする?」


「好き」


「そうなんだ」


 会話はそこで終わり、ぼーっとゲームをしていると予鈴が鳴った。


 無言のまま二人並んで校舎に向かって歩いていると隣を歩いていた優奈がふいに立ち止まる。


「明日も、待ってる」


 そう言い残し、旧校舎に入っていった。


 え? あの人一年生じゃなかったのか……。

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