第13話 サンドイッチとおにぎり
咲茉は一年生と思われる部員と一緒にフットワークの練習をしていた。
初日だからそこまで厳しくしていないとは思うが、少し辛そうだ。
汗をかきながらも必死に練習に食らいついている。
あの様子だと中学のときにスポーツをしていたという感じではないし、どうして高校に入って急に体育会系の部活に入ったのだろうか。
しばらく様子を眺めていたが、今はようやく休憩になったようで飲み物を飲みながら他の一年生達と笑顔で話をしている。仲良くできているようで一安心だ。
一人だけ練習についていけなくて馬鹿にされるとか最悪イジメのような事になるのを危惧していたが、どうやらそういう事はなさそうで一安心。
目下の心配事もなくなったので男子バスケ部に目をやると、男子バスケ部はかなりハードな練習をしていた。一年生はフラフラになりながらダッシュを繰り返している。その中には当然佐伯もいた。一番動きがいいという訳ではないが、まだ余裕もありそうだ。
そろそろ帰るかと思い、体育館から出て歩き始めた所で一人の女子生徒とすれ違った。
小柄で茶髪をショートカットにしている女の子だ。咲茉と一緒に練習をしていた女の子だから恐らく一年生だろう。
俺を見たあとに「あれ?」と首を傾げながら体育館に戻って行った。
◇◇◇
「龍哉君、おはようございます」
翌日、珍しく俺よりも遅く教室に入ってきた咲茉は俺に挨拶をしてから自分の席に向かう。
足を引きずるように、かなりスローなスピードで。
あれ、絶対筋肉痛だよな……。今日の放課後も練習はずだけど大丈夫かな?
「ひしっちおはよー」
顔を上げると笹本がいた。まぁひしっちなんて呼び方をするのは笹本しかいない訳だが。
「おはよう、笹本さん」
「ひしっちはダンス部の練習には来なくてもいいから、例の件お願いね」
元々ダンス部の練習に行く気はない。幽霊部員でいいからという条件で入ってるし、ダンスにも興味はない。だが、例の件と言われて思い出した。そういえばダンス部員の勧誘を命じられているんだった。
「わかってるって」
「笹本、おはよう」
会話に割り込んできた声の主は小池だった。俺の机のとなりに立って笹本に声をかけている。
「それで、何か当てはあるの?」
「いや……。ないけど……」
声をかけられた笹本は完全に小池の事を無視している。聞こえてないのかな?
「なぁ笹本、今日の放課後一緒に帰らないか?」
めげずに声をかけているが、一向に相手にされていない。
「まぁ、期待してるから頑張ってね!」
笹本は軽くウインクをして自分の席に向かい、その後ろを小池が「おい」と言いながら追いかけているが完全に無視されている。
座ってからも後ろを向いて笹本に声をかけているようだ。あそこまで分かりやすく避けられているのにめげない所は褒めてもいいかもしれない。いや、褒めるような事ではないな。
授業の間、笹本からのミッションをどうするべきか考えていた。
まず、一番の問題は女子限定という部分だ。元々は男子も女子も関係なく交流する事はできるが、今の俺は陰キャとして振舞っている。それに教室では常に一人で過ごしていて咲茉以外とは話もした事のないぼっちだ。
あ、そういえば今は笹本も声をかけてくるか。それにしても笹本は何故俺に構うんだろうな。それに笹本が俺に話しかけている事について周りの人達はどう思っているんだろうか。ぼっちの陰キャをいびるギャルみたいな感じなのだろうか?
やはりどう考えても今の俺には女子を勧誘するというのはハードルが高すぎる。
昼休み、来る途中にコンビニで買ってきたサンドイッチを鞄から取り出し、今日はどこで食べるかなと考える。
教室で食べてもいいのだが、ジュースを買いにいくついでに適当な場所を見つけて一人で昼食をとっている。
自分からこういうキャラになっているのだが、やはり一人で食事をするというのは寂しい。
咲茉を誘えば一緒に食べてくれるような気はするが、咲茉はいつも決まった友達と昼食をとっているようなので誘うのも気が引ける。それに自分から誘うのは今の俺のキャラじゃない。
自動販売機でジュースを買った後、少し日差しの強い今日みたいな日はあそこがいいよなと思い、この前見つけたお気に入りの昼食ポイントに向かう事にした。
旧校舎の正面玄関が見えてくるが、中に入らず校舎に沿って歩くと校舎の端が見えてくる。そこに外階段がついているのだが日陰になっており、風も通るので暖かい日には気持ちがいい。階段に腰かける事もできるので何かを食べるにも丁度いい。
そんな俺がお気に入りの昼食スポットにたどり着くと、そこには先客がいた。
ここには二回ほど来た事があるが、学校敷地内の端という事もあり、ここに来るまでは少し距離もあるので人がいなくて快適だったのだが、まさか人がいるとは思わなかった。
先客である女の子は階段に座って大きなおにぎりを両手で持ち、大きな口を開けてかぶりついている。
黒髪ショートボブだが、おにぎりを食べる度に青いインナーカラーが目に入る。
仕方ないから場所を変えるかなと思ったとき、ようやく女の子がこちらに気付いたようで、目が合った。
「あ、ごめん。覗いてたとかそんなんじゃないんだ」
こんな人気のない所まで来ている怪しい人ではないと先に否定をする。
女の子は少し首を傾げた後、食事を再開した。見ると膝の上にランチボックスがあり、今女の子が手にしているのと同じ大きさのおにぎりがあと二個入っていた。
大きく口を開けておにぎりにかぶりつくと、もぐもぐと口を動かし、次第に幸せそうな表情になる。
とても美味しそうに食べるなぁ。
「ご飯、食べないの?」
二個目のおにぎりをランチボックスから取り出し、口に入れる前に話しかけてきた。
「あ、いや……。散歩してただけだから」
「でも、それ」
俺が手に持っていたサンドイッチを指差す。
女の子は階段の左端に移動すると右手で階段をトントンと叩いた。座れという事だろうか。
十中八九そうだとは思うが、もし違う場合恥ずかしい事になるなと思い躊躇していると「座って」と声をかけられたので女の子とできるだけ間が空くように右端に座ってサンドイッチを取り出し、口に入れた。
口を動かしていると視線を感じたので左を見ると女の子がじーっとサンドイッチを凝視していた。
「おいしい?」
「うん、おいしいけど……い、いる?」
サンドイッチを袋から取り出し、女の子に向かって差し出すとぱぁっと明るい顔になったあと、ランチボックスに残っている最後のおにぎりを手にとり、こちらに差し出してきた。
「じゃあ、交換」
サンドイッチの代わりに女の子に手渡されたおにぎりは間近で見るとコンビニで売っているおにぎりの三倍くらいの大きさだった。
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