第7話:ガチタン分隊、結成
アルメニアのアリク・トロワイヤを味方につけた後も、宇野沢は僚機探しを継続していたが、結果ははかばかしくなかった。
“物部”の3機目の僚機が見つからないまま、模擬戦の三日前を迎えており、宇野沢は2対3を前提とした作戦を立案する必要に迫られていた。
そしてこの日、宇野沢とアリクは作戦室に来ていた。
来たる模擬戦に備え、情報を整理するためだ。
宇野沢は敵となる3機の編成を予想し、作成した資料をスクリーンに映した。
「恐らく、ソヴィエト側の3機はほぼ確定とみていい。
1機は当然、ユーリア・アシモフの"ザシートニク"
最新の第三世代機で、ユーリアの技量も相まって高速の三次元戦闘を行ってくる。
非常に厄介な相手だ」
「こっぴどくやられた人がいうと説得力が違うね」
アリクが茶々を入れてくる。
彼女はパイロットだが、どちらかといえば技術屋肌らしく、堅苦しい作戦会議はあまり好まないようだ。
「ゴホン、二機目の予想だが、やはり衛星国パイロットの筆頭、タマル・バグラチアだと思う」
「ま、実力的には妥当かな。悔しいけど。」
「タマルの機体を見たことがあるが、アリクの“アララト”とよく似ていた気がするな」
「似ているっていうか、ほとんど同じ機体だよ。
衛星国は大体、ソヴィエトの第2世代機“アルマータ”を与えられて、各国ごとに改造して使ってる。」
「タマルの機体はどんな改造を?」
「あんまり詳しくは分からないけど、見た感じだと汎用機の域を出ていない。
でも機動力と姿勢制御を強化して、近接戦闘寄りのチューニングをしてるね。
でも・・・」
アリクが一瞬言い淀む。
「どうした?」
「大したことじゃないんだけど・・・
タマルの機体に、いつからかついてる腰周りの改造パーツ、何の役割を果たしてるのか分からないんだよね」
「あ、それわたしも気になってたんだ!!」
二人の会話に、いつの間にか萬谷が割り込んで来ていた。
「なんだろ、あれ!!明らかに腕の可動域に干渉しそうなとこについてて、スタビライザーって感じでもないんだ」
萬谷は作戦室に入ってくるなり、技術的な話にテンション高く食いついてきた。
「千都瀬さん、約束の時間はとっくに過ぎてるんだが・・・」
「ごめんごめん・・・
でもただ遅れた訳じゃなくて、お客さんを連れてきたんだよ」
「客?」
萬谷は作戦室にいつの間にか入ってきていた、長身の男に自己紹介を促す。
男は萬谷に向かって軽く頷くと、低い声で話し始めた。
「西ドイツのヴァルだ」
それだけ言い、席に着く。
室内は静寂に包まれた。
「えっと、それだけ?」
アリクがヴァルに怪訝そうな目を向ける。
ヴァルは不服そうなアリクに気づき、再び立ち上がる。
「ヴァランタイン・シュタイナーだ。
ただ名前が長いからな、ヴァルは愛称だ。
説明が足りなかったな、すまない」
そう言うと、また席に着き、辺りに静寂が流れる。
「チサト、こいつなんとかしてよ。
話が進まないんだけど」
「あー!ごめん!!
ヴァルくん、何やら二人に話があるんだって。
作戦室前で出てくるのずっと待ってたみたいだったから、入ってもらったの。
そうだよね?」
萬谷がなんとか話を取り次ごうと苦慮する。
「そうだ。君たちは東ドイツのパイロットとコーヒーを飲みながら話していたな」
「え、盗み聞きしてたの?気持ち悪・・・」
「何を話していた?」
アリクの悪態を意にも介さず、ヴァルは話を続ける。
「人の話を聞かないこの感じ、あんたマルガレーテにそっくりね」
「そのマルガレーテというパイロットについて聞きたいのだ」
アリクはマルガレーテを苦手としているが、ヴァルも同じタイプらしく、辟易とした顔をしていた。
「知らないわよ、あんな奴のことなんて。
あの子はただ、あたしのコーヒーを飲み逃げしただけ!
話があるなら自分で直接話しなさいよ」
「そうしたいのは山々なのだが、俺はどうやら彼女に避けられているようなのだ」
ヴァルは表情を変えず、伏し目がちにポツリと言った。
いつしかアリクは怯えたような顔つきになっていた。
「あんた、もしかしてマルガレーテのストーカー?」
「そうではない」
「ストーカーは皆そう言うのよ!!」
アリクがヴァルとやり合い、萬谷がそれを心配そうに見守っていた間、宇野沢は話の趨勢を慎重に伺っていた。
このヴァルという男は得体が知れないが、少なくとも西側で、彼の求めるものを宇野沢達が持っているらしい。
この機を逃す手はない。
「落ち着け、アリク。
グレートヒェンのことが心配なのは分かるが、あまり感情的になるな」
「はあ!?
なんであたしがあんな子のために心配しなきゃいけないのよ!!」
アリクは頬を上気させ、反射的に宇野沢に詰め寄る。
その隙をついて、ヴァルに揺さぶりをかけてみる。
「確かに俺たちは、グレートヒェンの“親友”だ。
君が彼女とゆっくりと話せる場を用意できなくもない」
ヴァルは真剣な眼差しで宇野沢を見つめる。
「しかし、このアリクしかり、彼女は俺にとって貴重な、東側の友人だ。
君みたいな得体の知れない男を引き合わせて、関係を悪化させるリスクは取りたくない。
そこで・・・」
「まずは信用に値することを示せと?」
「そうだ。折しも、近くソヴィエトとの模擬戦がある。
そこで“物部”の僚機として戦ってほしい。
そうすれば、君を“戦友”として認め、喜んでグレートヒェンに紹介するさ」
宇野沢は不敵な笑みを浮かべ、腹の底ではこう考えていた。
(アドリブとはいえ、我ながら苦しいな・・・)
辺りを見回すと、萬谷は苦笑いを浮かべ、アリクは呆れかえった顔をしている。
そして無論、渦中のヴァランタイン・シュタイナーも・・・
「・・・分かった。
しかし、約束は守ってもらうぞ」
そう言うと、席を立ち、作戦室の出口に向かう。
「えっ、いいのか?」
「なんだ?男に二言はないぞ。
俺は機体の調整に入る。何かあったら呼んでくれ」
ヴァルはそのまま作戦室を出ていってしまった。
そのあとを萬谷が小走りで追いかける。
「ちょっと待って!!
整備ならわたしが!わたしがやります!!!」
部屋に宇野沢とアリクだけが、呆気にとられたまま残された。
「で、本当にあんな奴と組むわけ?」
「こういう状況だ。
ストーカーでもなんでも、手を借りるしかない。
しかし本当に上手くいくとは・・・」
アリクは呆れたようにため息をつく。
「・・・まあいいわ。
頭数は揃ったし、これで本格的な作戦立案に入れる」
その時、急に勢いよく部屋に入ってきた人物がいた。
「お前ら喜べ!!!」
入ってきたのは、シャーマン教官だった。
その後ろに、一人の事務員然とした少女を引き連れている。
「ソヴィエトに喧嘩を売ったお前みたいな馬鹿に同情して、バックアップの人材を連れてきてやったぞ!!
西側随一の、優秀な作戦オペレーターだ!!」
金髪の少女が
「英国のアイラ・ジェンキンスです。
3日後の模擬戦の作戦立案、および当日のオペレーターを努めさせて頂きます。
どうぞよろしくお願いします」
アイラと名乗る少女の凛とした佇まいを見て、アリクは目を輝かせ、ぽつりと漏らした。
「なんとまともな自己紹介だろうか・・・」