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第32話:ガチタン、継ぎ接ぎの左腕

「それで、パイロットである俺に何の説明もなかった訳だが」


「あはは…」


萬谷千都瀬は頭を掻く。その仕草は悪戯を咎められた子供のようだ。


「まあ、なにぶん急を要する話だったからねえ。

でも悪い話じゃないんだ、本当だよ?」


萬谷はそういうと、視線の先を指し示す。


「ご覧ください。

そう、これが有人大型探査重機 《もののべ》の全容でございます!!」


芝居がかった口調で萬谷は高らかに言い放つ。

そこには、元来の無骨なフォルムに歪さが加わり、異様な風体をした《物部》の姿があった。


「これはまた…奇異な風体だな」


宇野沢は引き攣った笑いを浮かべる。


「い…いちおう駆動系と右アームはダメージが少なかったからほとんどそのままだよ?」


「つまり、それ以外は継ぎ接ぎって訳か。

じゃあこの左アームは…」


《物部》の左腕を見て、宇野沢はため息をついた。

以前より張り出した肩へ、垂直に据え付けられているのは産業用と思しき4軸ロボットアームだ。


一般的に、ルノホートのアームは7軸以上の自由度を持つ。

ヒトの腕の自由度は7軸あると言われており、その動きを模すためには、似た構造にするのが一番手っ取り早いアプローチだ。


人間と異なるカタチをしたパーツがあると、人間が直感的に考えることができなくなり、コンバットパターンを組むのが途端に難しくなる。


また他機体のデータとの互換性も無くなることから、ルノホートの姿が異形に近づくほど、開発競争では不利になっていくこととなる。


そして、いま眼前にある《物部》は、まさに異形と呼べる歪さだ。


「探査機器になったと聞いて覚悟はしてたが、ここまで思い切ったことをするとは…」


萬谷は宇野沢の考えを察知してフォローする。


「4軸ロボットは凄いんだからね!

構造が簡略化されることにより得られる、

強度、スピード、安定性の大幅な向上!!

そして何より!」


萬谷は大きく息を吸い込み…


「安い!!」


と叫んだ。


「…この腕は今まで使ってた機関砲を持てるのか?」


宇野沢は何も聞かなかったように話題を変える。


「もちろん、装備はできるよ。うん」


「これ、追尾照準するとき、軸の運動性にかなり依存するよな。

ほとんど肩だけで追うことになる」


宇野沢は《物部》の肩部を指して言う。

物部の左アームを見ると、関節に見える部位は二つ、肩と手首だけだ。


肩に第1軸と第2軸があり、それぞれ水平、垂直に回るようになっている。


手首には第3軸と第4軸がある。

第3軸は手首の上下運動、手招きをする動きに必要だ。

最後の第4軸は手首の回転、鍵を閉める動きに使う。


つまり、《物部》に左肘はない。


「射撃に使えるほどに肩部の運動性は良いのか?」


「…そんなに関節柔らかくしたら、射撃の衝撃で馬鹿になっちゃうでしょ?


もちろん、肩関節はガチガチだよ」


それは、物部の得意とする射撃戦を考えると致命的なことだった。

しかし、萬谷は不敵に笑う。


「でも、何も上下の調整を、必ずしも関節で行う必要はない訳なのだよ、見たまえ!」


萬谷は芝居がかった口調で言うと、テスト用のコンソールを操作し《物部》を操作する。


すると《物部》の上腕が、いや上腕らしき部位が──

伸びた。


「4軸ロボットと圧力シリンダの複合機構。

ソヴィエトの第二世代機レベルの機体速度なら、追尾照準が効くはずだよ。

…理論上は」


それを聞いて、宇野沢は苦笑いする。


「伸びる腕を計算に入れたコンバットパターンの構築か…なかなかの無茶振りじゃないか?」


「うーん、腕が伸びる動物のモーションデータとか、参考にならないかなあ。

イカとかヒトデとか…」


「脊椎動物ですらないのか…


はは、こりゃあ、これまでのコンバットパターンは完全放棄かな。はあ…」


宇野沢は溜息をついた。

これまで《物部》は上半身だけは辛うじて人型を保っていたため、射撃姿勢などは一部他国のコンバットパターンを参考にできている面もあった。


だが、今やこの機体に人型を保っている部分はほとんどない。


作業アームのついた異形の戦車は、もはや歪な怪物キメラと呼べた。


「昔の人は言いました。

足らぬ足らぬは工夫が足らぬと」


萬谷は宇野沢を伺うように言った。

少し思うところがありそうだが、できることは全てやり尽くしており、もはや彼女にできることは何も無いのも事実だった。


そして、そのことは宇野沢も分かっていた。


「…ありがとう、千都瀬さん。

大破した《物部》をこんな短期間で再稼働させるなんて、とんでもない無茶をしてくれたもんだ。


あとは俺がコイツを、どう乗りこなすかの問題だ」


「…慶くん」


「まずは〈セグメントδデルタ〉の探査ミッションだ。

これで《物部》の汎用性をアピールできれば…」


「開発費用はガッポガッポ間違いなし、だよ!」


萬谷は普段の屈託のない笑みとは装いを異にする、ニヤけた面を浮かべた。


「でも、くれぐれも気をつけてね。

研究班も焦ってるから、準備期間はそんなにないかも」


「まずは駆動パターンの再構築だ。

重心も変わってるだろうし、細かい調整もしておきたい。


千都瀬さんは疲れてると思うけど…」


「ふっふっふ、甘く見ないでよ。

千都瀬さんにかかれば三日三晩なんて須臾の時に等しいのだ!」


それから数日、《物部》のある格納庫から明かりが消えることは無かった。


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