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最後の手紙

純度100%のフィクションです

いつ自分が消えるか分からないので手紙で残しておこうと思う。

素直になれない僕の思いが、君に届くように。

最後に君が、笑ってくれるように。


といっても普段こんなことしないからなにを書けばいいか分からないや

なにから記そうか

はじめてあったときのこと?

夏祭りの事件?


いいや。


まずは謝罪から入ろうか

この手紙を君が読み終わったときには笑っていて欲しいからネガティブなことは先に済ませちゃおう





………ごめん。


この日記を読んでいるということは、僕はもうこの世にいない――――とまでは断言できないけど、よっぽどのことがあったんだね

だってこれをしまってある引き出しの鍵はいつだって僕が持ち歩いているから。


い、いやまあ普通に君に無理やりとられた可能性も少し……(小さく読みづらい)


……さすがにないと思いたいけど。


とにかく、今僕は君の側にはいないはずだ。

だから、ごめん。


勝手に君の前からいなくなってごめん。


もちろん全力は尽くしたと思う。

君に悲しい思いも嫌な思いもさせたくないから。


なにより、


僕自身がまだ君と一緒に居たいと思っていたから。


それでも、全力を尽くしても、結果が得られなかったのなら卑怯ながら文面で謝罪をしておく。


君は怒るかな

それとも泣いてくれるのかな

はたまた笑っちゃう?


リアクションを見れないのは残念だな

なんなら今、隣でぐっすり寝ている君を起こしてこの手紙を見せつけてやろうか。

………君の感情が少しでも動いてくれたらいいな。


謝罪はこのくらいにしておこうか

まだ色々記したいことはあるけど……

これ以上辛気臭くするのは僕らには合わない


謝罪が足りないとか

誠意を見せろとかいわれても、どうせ今そこに僕はいないしこれくらいで止めておく


じゃあシリアスはこの辺で……


そしたら僕の気持ちを伝えたいと思う。

単刀直入にいおう



僕は、

 君のことがずっと前から大好きだよ




過去形にしなかったのはいなくなってからも君のことが好きでいるという気持ちの現れだよ(小さい文字)




……惚れている部分なんていくらでもあるよ

君はまず料理が上手い

特に君の作るシチューは絶品だ

あれより美味しい食べ物なんて探すまでもなく見当たらないよ


それに君は優しい

褒め言葉にしてはありふれているけれど、これ以上の言葉では言い表せないや

困っている人を見過ごせない性格なんでしょ?

だから僕の近くにずっといてくれたんだと思う


体が昔から弱かった僕には、その分出来ないことも多かったからね

ホントに助けられてばっかりだったよ

……君が与えてくれた優しさの分を僕は返せていたかな




さて僕が君に惚れた部分はこれだけじゃない。

普段苦手な物がなさそうな君が、雷が苦手って知ったときは驚いたな

涙目だし、僕のそばから離れなかったし、なんなら寝るときも一瞬だったでしょ?

さすがにあれは可愛すぎた。

数日間は悪天候を願っていたくらいにはね。


・・・あれ、顔が赤いけど大丈夫?




……なんてね。

手紙じゃ反応は予想するしかないし。

でもあながち間違ってないんじゃないかな

君の表情はコロコロ変わるからさ



惚れたところをいくつか挙げたけど、

いつから君のことが好きだとか、きっかけとか、そんなものはないよ

気付いたら君を目で追っていて、気付いたら心臓の音はうるさくて、気付いたら君を好きになっていたんだ


一つ屋根の下で暮らす今の状況は、心臓にとても悪い

いくら体調が悪化した僕のためでこうなっているとはいえ、君はもう少し考えたほうがいいと思う

僕だって男なんだから。


いや、君なら僕くらいの男なら、まばたきの間に殺せるか?

それとも僕が手を出す勇気なぞでないヘタレだって、しっているから?

だからそんな心配してないのかな?

・・・なんか悔しい


その通りだけどさ。

うん。




さてそろそろ締めに入ろうかな

悩みながら少しずつ書いていたもんだから、もう夜が明けそうだ

君が起きて夜更かし云々言い出すのも嫌だし、というかそもそもこの手紙を見つかりたくないしね


じゃあ謝罪から始まったから最後は感謝で締めようか


体の弱い僕に、長い間付き合ってくれてありがとう

優しさにつけこんで、君を僕に縛り付けてしまったかもしれないね(涙でにじんで読みにくくなっている)


僕はもうこの先短くないと言われたよ

手術の成功確率は限りなくゼロに近いらしい

残りの命を家の中で過ごしてもいい言われたけど、僕は手術を受けることにしたよ


君がたくさん勇気をくれたから。


前までなら諦めがついていたかもしれないけれど、残念ながら今は好きな人がいる

というわけで諦めるわけにはいかないんだ

まあ、これを読んでるってことは失敗してるんだと思うけど。(涙でにじんで読みにくくなっている)


もし最初に書いたように君が引き出しの鍵を盗んでこれを読むような裏技を使っていたら成功してる可能性もあるか。

そういう裏技でこれを見つけたなら、頼むからそっと引き出しの中に戻しておいてくれ




じゃあそろそろ僕は筆を置こうかな

さっきから君が隣でもぞもぞ動き出して起きそうなんだ

今は別の意味で心臓がバクバクいってるよ


この手紙は読み終わったら処分してね

君以外に読まれてやるつもりはないからさ

君に直接言いたいこと、聞きたいことはたくさんあるけど、僕はヘタレだからきっと言えないね


例えば、なんで取り柄がなくてからだが弱い僕の近くにずっといてくれたのかな、とかね

いくら優しい君でもこの長い間善意だけで、しかも同居までしてくれるなんておかしいよね


ま、いいや


それじゃ、ホントのホントに最後になるけど

君と過ごしたこの長い時間は僕にとって光だったよ

一瞬で光って消える、光だったよ

君とずっと居たかったけどそれは叶わないみたい


どうか君は、君の人生を楽しんでね

心の優しい君が、僕が死ぬことで気に病むことがないように。

僕との時間を楽しかったと思ってくれるように


――――願っておくよ。


僕の大好きな君へ


                 ○○○○より。



「・・・バカ。」


原稿用紙7枚分もの手紙を読み終える

彼はどうやら私が思っていたよりもずっと前から、私のことが好きだったようだ

このヘタレな彼は、私のアプローチにも気付かないほど鈍感だったが、どうやら私の努力の効果はあったらしい


「『なんで僕と一緒にいてくれるのかわからない』?」

「そんなの分かりきったことじゃないの。あなたが私を好きでいるずっと前から私があなたを好きだった、それだけのこと」


感情があふれ、独り言が漏れる

嬉しいやらなにやら、複雑な気分だ


「ただいまー」


不意に、そんな声が聞こえた

私は慌てて紙を折り曲げ、そっと引き出しに戻す

鍵をかけ、その鍵も元の位置に急いで戻す


部屋のドアが開く音が聞こえた


「・・・汗だくだね、エアコンきいてないんじゃない?」


「あ、あーそうかもしれないわね」


「温度下げるね」


そういった彼はリモコンの方へ向かう

向かう途中、チラリと鍵を見たような気がした


「ところで今日の夜ごはんはなににする?」

「私的にはシチューかなっと思ってるんだけどね」


「随分機嫌がいいね。なんかあった?」


「別に~?」


「目元も赤いし……」


「えっ、嘘」


「それに、顔濡れてるよ?これは………汗?」


「・・・この鈍感男」


「え、なんて?」


「なんでもないわよ」


「・・・ふーん、変なの。」


「それより、シチューの具材はあるんでしょうね」


「今買ってきたので足りると思うよ」


「なら作り始めましょ。今日は夜あなたとゆっくり過ごしたい気分だし」


「今なんて……ちょちょ、引っ張らないで!エアコン切るから!」


「うるさいなぁ、早く台所に行くわよ!」


「君さ前より乱暴になったよね?」


「気のせいじゃない?」


「そうかなぁ」


声が遠ざかり……2階のこの部屋には静寂が残った

鍵のついた引き出しはその後、開くことはなかった。

           

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― 新着の感想 ―
[一言] 成功だったんか、良かった…
[良い点] 出だしのインパクトがいい。だけど、最後が悲しい。泣ける話を期待していた。
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