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プロローグ

正直、有り得ない話だと自分でも思う。でも、実際に起きてしまったのだからしょうがない。俺だって、未だに信じられないさ…あんな、神話でしか聞いた事の無い奴が目の前に“転がって”居たなんて。



平凡な、ごく普通の学校帰り。夕刻の、鮮やかな紅が辺りを染めている。友人と別れ、家に帰る道で俺は不思議なものを発見したわけだ。

道端に横たわる、男。そして、それにまとわり付いてきゃんきゃん鳴いている白い犬。その一角だけ、普通では無い。いや、勿論出来れば無視して家に帰りたいのだが何故か無視出来ない衝動にかられたわけで…。気が付けば、俺はその男を家に運んでいた。その俺の後ろには、男の周りで鳴いていた犬がピッタリと何やら不安気な目をしながら付いてきていた。



家に着き、布団に男を寝かせる。整った顔立ちの、世で言うイケメン。男の俺でも惚れ惚れするぐらい、かっこいい。そのうえ、今の世では珍しい美しい黒髪をしている。歳は、20代前半ぐらいだろうか?

しかし、服装が何とも奇妙だ。何とゆうのだろうか、こう神話に出て来る神様達のような…。そう考えると、イケメン不審者にしか見えなくなるわけだが。

俺は、そんな事を考えながらマジマジと男を見て居た。すると、何やら後ろから服を引っ張るものが。見てみると、後ろから付いて来ていた白い犬がそんなに見るなと言わんばかりに服に噛み付いて引っ張っているのだ。

うん、かわいい…。

サイズ的には、まめ柴サイズだろうか。とゆうか、まめ柴を真っ白にした感じ。頭をポンポンと叩くと、目をうるうるさせながら俺を見上げて来た。堪らなく、可愛い。

「何か、食い物持ってきてやるか」

俺は、とりあえず冷蔵庫を漁る。ハムと牛乳を手に、再び部屋に戻ると何やら白いまめ柴が男に飛び付いていた。慌てて、俺は駆け寄り男を覗いた。

「う…、ん…」

少し苦しそうな声の後に、ゆっくりと男の瞳が開いた。長い睫毛が、眩しそうにしばしばと動く。何度か瞬きをして、光りに慣れたのかその瞳はようやくしっかりと開いた。

「ここは…?」

ゆっくりと体を起こし、男は呟く。それと同時に、俺と目が合い一瞬警戒するもその警戒は白まめ柴によってうち消された。凄い勢いで、男の顔面に突撃して行く白まめ柴。男は、そのまま布団に押し倒された。

「うわっ!やめ…っ」

それを見て、男を警戒していた俺自身も何だか和んでしまったわけだが。

この際、男が誰かとか後回しだ。何だか、腹が減ってきた。

「詳しい話しは、後でしてやるよ。とりあえず、先に飯だ」

そう言って、俺は白まめ柴のハムと牛乳を部屋に置いてキッチンへ戻る。簡単な、電子レンジで出来るもので良いだろうと冷凍庫にあったおかず数点を、温める。温めながら、俺は色々考えていた。あの男の正体を、妄想していた。と言う方が、正しいかもしれないが…。何だかんだで、温めたおかずと白ご飯と水を手に部屋に戻る。白まめ柴は、よつやく落ち着いたのかハムにがっついている、最中だった。

「こんなもんしか無いけど、食わないよりはマシだろ?」

男は、渡されたご飯をマジマジと見つめる。これはもしや、俺の妄想通りある国の王子様とかじゃ…。などと、考えていると男は手でおかずをパクリと食べた。

「ふむ…」

そう言うと、次々にご飯を口に放り込みあっと言う間に食べてしまったわけだが。まあ、そうとうお腹が空いて居たのだろう。…行き倒れか?

「すまない、どうやらお腹が空いていたらしい。それで、何故私はこんな所に?」

ずっと、聞きたかったのだろう。男は、少し身を乗り出して聞いてきた。

「あんた、道端に倒れてたんだよ。見付けた時、何か無視出来無くてうちに連れて来たわけ」

それを聞いて、男はそうか…と小さく呟いた。そして、自分の手の平を見て何かに納得したように頷いた。

「俺からも、質問」

男の瞳が、直ぐに俺の方に向けられる。

「あんた、一体何者だ?」

それを聞いて、男は一度目を伏せる。少し、悩んでる様な感じ。

「それを聞けば、君は引き返せなくなるよ?」

目を伏せたまま、男はそう言った。漫画とか、アニメとかで良く聞く台詞に何だか笑ってしまいそうになるのを抑えながら、俺は首を振った。

「どうなろうと、あんたが誰か気になる」

好奇心は止められない。寧ろ、自分の妄想がどこまで的中しているかが気になる。

「私は、ロキ。この世界で言う所の、神だ」

「へー、神。神様…。ん?神様…?」

一瞬の間、そしてどでかい驚きの声を勿論上げる俺。

「ろ、ロキってあのロキ?いや、まてあのロキは間違いなく存在しないってゆうか、所詮神話だろ?!」

だが、ロキと名乗ったイケメンお兄さんはいたって真面目な顔で、冗談だとは思わせてもくれない様子だ。信じたくは無いが、本当らしい。いや、でもやっぱり信じたく無い…。

「因みに、その白い犬は私の可愛い息子フェンリルだ」

フェンリルと呼ばれた白まめ柴は、きゃんっと吠えると尻尾を振りながら駆け寄って来た。…これが、フェンリル?

「何か、良く分からなくなってきた…」

そうゆうと、ロキは無理もないと肩を落とした。

「まあ、詳しく説明しよう。ただ、その前に君の名前を教えてくれないか?」

言われて、そういえばまだ名乗って居なかったと思い出す。

「俺は、秋斗。柊 秋斗って言うんだ」

聞いて、ロキはその名前を一度繰り返すと直ぐに俺に向き直った。

「秋斗、君にはこれから色々と迷惑をかけるかもしれない…」

そう言って、ロキは表情を曇らせた。

平穏に生活していたロキは、ある日突然最高神オーディンに呼び出されたのだと言う。そして、気が付けばここにいたのだと…。

「それじゃあ、そのオーディンがあんたをここに?」

だが、俺のその言葉にロキは首を振った。

「私にも、良く分からない…」

どうやら、飛ばされた時の記憶が無いらしい。だが、そんなロキでも一ツだけ分かる事があった。

「ただ、私の神気はどうやら封印されているらしい…」

「神気?」

ロキは、自らの手を握ったり開いたりしながらそうだと呟いた。神気、神が持つ力の事だ。

「私は、これからどうしたら…」

苦しげなロキを、フェンリルは不安そうな顔で見上げた。それを見たロキは、直ぐに優しい笑顔を見せる。…うむ、やっぱりイケメンだ。

「取り合えず、色々調べてみたらいんじゃない?」

気が付けば、俺はそんなことを言っていた。ロキの、綺麗な瞳が俺を見る。

「じゃなきゃ、前には進めないだろ?」

その言葉に、フェンリルが尻尾を振りながらキャンっと鳴いて応えた。

「秋斗の言う通りだな。そうしよう」



こうして、俺は神話に巻き込まれた。いや、寧ろ飛び込んでしまった…。




プロローグ 終


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