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鏡の中の桜姫  作者: 柊 里駆
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今回はいよいよ桜姫と雲宗が対峙します。桜姫が何故鏡に封印されたのか、どうぞお楽しみに。

夜、雲宗は行く宛もなく京の都中を一人歩いていた。桜姫が何処に現れるのかわからないし、今日現れるかの保証もない。様々な人々に聞いて回ったが、やはり神出鬼没らしい。殺されるかも知れないのに鬼に会いたいなどと変わっているとも言われた。


「そこで何をしている?」


突然背後から声をかけられ雲宗は驚いて振り返る。そこにいたのは京の都を警備している検非違使らだった。まぁ、こんな夜中に一人で坊主が歩いていれば不審にも思われるだろうとは予測していた。


「私は旅の坊主でごさいます。このような大きな都は初めてで、つい方々出歩いてしまい、道に迷ってしまいました。宿の場所がわからず困っておりまして。」


なかなかに白々しかったか…と内心焦ったが、検非違使達は『何だ、田舎坊主か』と笑い、雲宗の泊まる宿の場所を快く教えると、『夜間は危ないから出歩かないように』と注意して去って行った。感じの良い対応に、彼らも誇りを持って仕事をしているのだとわかり、微笑ましく思った。


しかし困った。これで夜間に出歩けなくなってしまった。また彼らに会えば今度こそ不審がられる。何より彼らの邪魔はしたくはない。考えあぐねていると、検非違使達が向かった先から叫び声が聞こえてきた。


「うぎやあああぁぁっ!!」


雲宗が走って向かうと、そこには満月を背後に建物の屋根の上に仁王立ちする、白髪の般若の形相をした鬼と、それを囲む検非違使達がいた。地面には既に、検非違使のうちの三人の遺体がある。


再度鬼が検非違使に飛びかかろうとしたところを雲宗が止める。


「止めよ、桜姫!もう殺すでない!」


懐かしい自分の名を呼ばれ、鬼である桜姫が雲宗を見る。


「私の言葉がわかるか?まだ、人としての理性は残っているか?私はそなたと話がしたい。そなたに伝えたい事があるのだ。」


しかし桜姫は雲宗に牙を向く。人を殺しすぎて自我が崩壊していると悟った雲宗は、また桜姫が人を襲わぬよう、強行手段に出ることを決める。頼長との約束は果たせないが、これ以上桜姫の手を血で染める事はさせたくはなかった。


雲宗は懐から頼長の形見である鏡を取り出し、それを桜姫に向け、お経を唱えると、鏡が光を放つ。光が桜姫を照らすと、桜姫は金縛りのように動けなくなった。雲宗はお経を唱え続ける。


「うっぐ、ぐ、ぐわああああぁぁっ!」


桜姫は苦しみだした。そして最後に雲宗が何事かを唱えると、桜姫の姿は鏡の中に吸い込まれていった。桜姫が封印された瞬間であった。頼長の遺した頼長の想いの詰まった鏡と、頼長を想い待ち続けた桜姫、これからの長い眠りで桜姫の怨みが少しは癒されれば良いのだが。


翌日の昼、雲宗は桜姫縁の神社にやって来た。昨日の夜、雲宗に命を助けられた検非違使が今朝方、宿を訪ねてきて、その神社の宮司が鏡を預かりたいと申し出てくれたと教えてくれた。皆桜姫を恐れて近寄りたくも無いであろうに、こんなにありがたい話ははない。


宮司は雲宗を神社の隣にある社務所に通し、お茶とお茶菓子を出してくれた。一息つくと、


「藤原様ご家族様は、桜姫様が産まれてからはよく、ここへ足を運んで下さいました。もちろん頼長様も一緒に。」


宮司は懐かしそうに嬉しそうにそう話す。


「桜姫様はとても可愛らしく、皆様それはそれは幸せそうで、見ているこちらまで幸せのお裾分けをしていただいている気分でした。」


そこまで言って宮司はふと顔を曇らす。


「それが……何の因果なのでしょうか、皆様次々に……。」


雲宗はかける言葉を失っていた。しかし宮司が顔を上げる。その顔は何かを決心した顔だった。


「しかし今では藤原様の冤罪も晴れました。私共も何かをして差し上げたいのです。何の罪もなく、殺されていった藤原様ご夫婦や桜姫様、桜姫様を守り亡くなった使用人の方々、戦で亡くなった頼長様に。」


そう、結局藤原一家を陥れた者の陰謀は明るみになり、政敵は裁かれた。たが、亡くなった者達は二度と帰っては来ない。


「しかし、桜姫は、この京で多くの人々を殺してなさる。大丈夫なのですか?こちらの神社に迷惑が及ぶのでは?」


雲宗が宮司を心配する。しかし、宮司の決心は揺るがなかった。


「桜姫様への人々の怨みは、さぞかし強かろうと思われます。大切な人が何の罪もなく殺されれば殺した相手を怨まない筈がない。しかし、それは桜姫様も一緒。悪いのは殺した人ではなく、この時代なのです。世が平和ならば、皆の心が平和ならば、このような事件は起こりますまい。」


それは雲宗も同意件だった。戦がなければ、人々の心が穏やかに健やかに暮らせる世の中であれば、こんな悲しい事は起こらなかった。


「わかりました。そこまで決心されているのであれば、安心してお預けできます。」


雲宗は鏡を宮司に預け神社を出ると、宮司が雲宗に尋ねた。


「次はどちらへ向かわれるのですか?」


雲宗は笑って答える。


「まだまだこの世には戦は無くなりませぬ。私はまた全国の様々な合戦場へ赴き、一人でも多くの人々の魂を供養する為に教をあげに参ります。」


宮司はお気をつけてと笑顔で見送った。雲宗もどうぞお元気で、と笑顔でそれに答えた。



気付くと私はまた、真っ暗な場所に一人、放り出されていた。私は桜姫と頼長のこれまでを見てきて、ふたりの想いがすれ違っている事を知った。ただ純粋に桜姫を愛し、その幸せを願った頼長と、目の前で多くの大切な人々を殺されるのを見て心が壊れ、頼長だけでなく、この世の全てを信じられなくなって、全てを呪い、鬼となった桜姫。


僧侶雲宗が果たせなかった頼長との約束。頼長の桜姫への愛と、鏡を桜姫に届ける。私は雲宗と頼長の約束を引き継ぐことを決めた。頼長だけではない。雲宗の願いも、宮司の思いも、そして桜姫を慕っていた人々の優しさを桜姫に届けなくてはならないと感じた。

結局頼長の遺言を伝えられなかった雲宗と、鏡に封印された桜姫。次回から舞台は現代に戻ります。

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