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鏡の中の桜姫  作者: 柊 里駆
3/8

二人だけの夜

前回でお互いを意識しだした桜と翔。しかし桜姫の存在は常にそこある。ここから物語は動き出します。

家に帰った私は両親の書き置きを読んでいた。


『おかえりなさい、桜。突然だけど、お隣の如月さん御夫婦と二泊三日で温泉旅行に行ってきます。留守にするから家の事をよろしく。』


これには続きがある。


『PS、翔君となかよくね♥️』


……どうゆうこと……?


ピーンポーンと家のチャイムが鳴った。そこにいたのは翔だった。


「桜、書き置き読んだか?」


私はコクンと頷く。嫌な予感がする。


両親共(あいつら)、家の鍵わざと持って行きやがった!!俺、家に入れねぇ!」


どうやら最初から、翔が九重家に泊まるよう両家の親が仕向けた事のようだった。ご丁寧に翔の着替えやパジャマまで置いてある。


私達が幼い頃から両家の両親は仲が良く、常日頃から私と翔を結婚させるつもりだと明言していた。幼い頃は私達も一緒に遊んだりもしたが、思春期になり、お互いの友達とつるむことが多くなり、以前よりは一緒の時間が減っていた。だからといってこれは少々やりすぎでは……。


「年頃の男と女を一つ屋根の下で二人だけでとか、なに考えてんだよ。何かあったらどうすんだよ!?」


ナニか、と言って翔はハッとして顔を赤くする。私も釣られて赤くなる。ついさっきあんなことがあったばかりだ。どうしても意識してしまうのは仕方ない。しかも私は、いつまた翔を襲うかも知れないという、爆弾付きだ。


「風呂入ってくるわ。ちょっと頭冷やしてくる。」


と、ボリボリと頭を掻いて、翔は風呂場に向かった。


翔は勉強は中の上、運動神経も良い。顔立ちも整っているし、社交的で明るく優しい。だから、クラスでも人気者で女子にもモテる。私は勉強はできるが、運動神経は普通くらい。顔は……よくわからない。どちらかといえばおとなしい部類に入るだろう。翔とは真逆なタイプだ。


私が翔を異性として意識したのは、小学校3年生の時だ。当時はまだ私達は仲が良く、一緒に遊んでいた。ある日うちが管理する神社の境内で二人でかくれんぼで遊んでいた時、私は誰かに呼ばれた気がして、神社の社の中に入ってしまった。中はとても暗く、広かった。奥に何か光るものを見つけた私はそれに近づいた。綺麗に型どられた一枚の鏡だった。


私はその鏡がとても美しく思えて、つい触ってしまった。すると鏡の中から何かが体を駆け巡り、そのまま私は気を失ってしまった。


翔は、いつまで経っても戻ってこない私を心配して、神社の境内を探し回った。そこでほんの少し社の扉が開いているのに気付いて中に入ったら、床に私が倒れていたらしい。翔が駆け寄ると、私は眠っていたという。声をかけられ目覚めた私は、暫く翔を見つめていたのを覚えている。この時から私は翔が異性として気になっていたのだと思う。


今考えると、もしかしたら私の中にいるもう一人の人物の想いが影響していたのかもしれない。鏡に封印されていた桜姫、私が鏡に触れたことで目覚めて私の中に入ってしまった。桜姫と同じ年頃になったことで、その動きが活発になったのかも知れない。何故翔にこだわるのかはわからないけど。私の翔に対する恋心は、もしかして桜姫のもの?私は自分の気持ちもわからなくなってしまった。



その日の夜、翔は一階のリビング横にある居間で眠ることにしたらしい。今は布団を敷いてスマホをいじっている。あれから私は、翔と入れ換えにお風呂に入り、リビングで翔と二人で夕飯を食べて、少しテレビでドラマを見てから二階の自分の部屋に戻った。今私は、部屋の机で日記を書いている。


色々とあった一日だったなと思い出し、ガックリと肩を落とす。正直疲れた。明日は土曜日で学校はお休みだ。少し長めに睡眠を取って、起きたら洗濯しようかな、などと考えていると、翔がノックをして、部屋に入ってきた。翔が私の部屋に入るのは小学校6年生の時以来だ。


「女の子らしい部屋になったのな。」


と、翔が部屋を見回してしみじみ呟く。私は、翔に急に女の子扱いをされて戸惑ってしまった。また心臓の鼓動が早い。あぁもう、せっかくお風呂に入ったのに、また変な汗かきそう。しかし翔はそんな私には気付かず本題に入る。


「あ…あのさ、あれ、ってどういうことなん?」


『あれ』が示すものが夕方の事だと理解した私は、正直に全てを話した。私が見た夢の話、その時のこちらの私の事を、私は覚えていない事、私とは違う誰かが私の中にいて、その誰かが、翔に固執している事。話を聞いた翔は、妙に納得しているようだった。


「まぁ、あんな大胆な事、お前はまずしないよな。」


残念だけど。と、ポツリと付け加えた。


……えっ?今、何て?


翔は自分で言ったことに気付かなかったのか、そのまま話を続けた。私はさっきのは聞き間違いなのだと無理矢理自分を納得させる。


「全ての始まりって、もしかしてあの行方不明事件から?」


私は素直に頷いた。そっか……と翔は呟いた。


「確かにあの時、桜、様子がおかしかったもんな。俺、あの時の桜が妙に艶やかに見えて、桜なのに桜じゃないような気がして怖かったんだ。まぁ、まだあの時俺、小学生だったしな。」


暫く沈黙が続く。


「私があの鏡に触れた時から、多分ずっと私の中に桜姫はいたんだと思う。私が触れたことにより、封印が解かれたのかも。ううん、もしかしたらもうすでに解け始めてたのかもしれない。私はあの時、確かに社の方から誰かに呼ばれた気がしたんだもの。」


私は何となく桜姫の気持ちがわかる気がした。同じ体をシェアしているせいかもしれない。


「桜姫は結婚の約束をした男の人をずっと待ってたの。待って待って信じて待ち続けた。時を越えた今でもずっと待ってるんだと思う。例え裏切られたんだとしても、好きという気持ちが怨みに変わっても。その男の人と翔がどんな関わりがあるのか私にはわからないけど。」


全ての始まりだったあの神社の社にある鏡に、私はもう一度触れてみようと思った。


その日の夜、私は自分のベッドで眠っていたが、妙な浮遊感を感じ目覚める。すると、自分が宙に浮いている事に気が付いた。下を見ると、そこにはベッドで眠る私の姿がある。これが幽体離脱ってやつか〜、などと暢気に考えていると、私の体がムクッと起き上がりこちらを見た。私の瞳が妖しく赤く光っている。桜姫だ、と直感で思った。桜姫は私の体を乗っ取り、私の魂を追い出したのだ。桜姫はそのまま立ち上がり、何処かへ向かって歩き出す。私はそれを慌てて追いかけた。


たどり着いたのは、神社の境内。桜姫は迷わず、社の中へと進んでいく。社の中は照明がなく、真っ暗だった。その奥に私が幼い頃に触れた神社の御神体である鏡がある。桜姫が鏡に手をかざすと、鏡がカッと光り、社の中が明るく照らされる。私は眩しくて目を細める。桜姫がスッと鏡の前から横に移動すると、鏡から巨大な鬼の手が出て来て、魂の私を鏡の中に引きずり込んだ。













桜姫が活発に動き出しました。桜も翔もタジタジです。これから桜姫の物語に入ります。これからもどうぞよろしくお願いします。

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