4.エド君の推測:真相①
「僕の推測ではこの事件は――『王女駆け落ち未遂事件』です」
「!……あの日、何が起きたと思うのか、お前の考えを話してくれ」
「わかりました。僕が取材し、考えたこの事件の顛末をお話します。もし事実と違ったり疑問に思われるところがあれば仰ってください。あ、僕も未だに推測しきれていない部分もあるのでそこはご存じであれば教えてください」
「ああ、承知した」
「まず、体調不良による欠席でセシリア殿下が部屋にいることは予定外であったはずなのに、犯人達はそれを知っていたかのように彼女を誘拐しています。
これは彼女自身が犯人側の人間で、当日は自室に1人でいることや宮殿の構造、警備の情報などを予め犯人達に流して手引きしなければほぼ不可能です」
「だろうな」
もう観念したのか、ベレスフォードはあっさりと認めた。
「しかし、犯人達がセシリア殿下の部屋に入った際、部屋の様子を訝しんだ警備隊員がドアを開けるとそこには王女と犯人達の姿がありました。
驚いた警備隊員は咄嗟にセシリア殿下を守ろうと彼女と犯人達の間に入ります。
彼女に背を向けるかたちで。
ところが、そもそも犯人側の人間であった彼女に、恐らくは部屋の装飾品か何かで後頭部を打たれ、警備隊員は気絶してしまいます」
「なぜセシリア様がやったと?」
「複数犯だったわけですからやりようによっては警備隊員のバックを取ることも可能だったかもしれません。
しかし、その場合は自分の手持ちの剣などで攻撃するでしょう。
バックを取っておきながら、すぐに意識を取り戻せる程度のダメージしか与えられない攻撃をするなんておかしいです。
ここで犯人達が警備隊員に止めを刺さずに逃げたのは、犯罪慣れしておらず心の余裕がなかったからでしょうが、これは犯人側には致命的な失敗でした。
意識を取り戻した警備隊員が大声で知らせたことで9番警備隊が動き、犯人達のうち2人を仕留めます。
そうしている間に貴方は渡り廊下2階の現場となった部屋で犯人達に追いついた……っと、ここで僕からの質問なんですが」
「ん?」
「彼等は何であの部屋に?」
「俺も後から聞いたんだが……その部屋は窓際の床の一部が外れるようになっていて、そこから1階に降りられるんだ。そこから更に地下通路で逃げるつもりだったようだ。床の仕掛けも地下通路も王族と一部の高位貴族しか知らないものだったそうだが。そこを開けるのに手間取っているうちに俺が追いついたというわけだ」
「なるほど……説明を続けます。まずあなたは部屋に入るなり犯人の一人である貴族子息を射殺します。これが外に聞こえた2発の銃声のうちの1発です」
「部屋に入るなり射殺か。じゃあ俺は誰と剣で戦ったんだ?」
「そりゃあもう1人の犯人ですよ。セシリア殿下と同じく体調不良で式典を欠席し、そのまま後に病没と発表されたルベル=ゼ王国第二王子カルロス殿下。彼がセシリア殿下のお相手だったのでしょう?」
「なぜ他の貴族子息ではなく王子殿下だと?」
「発表された犯人達の素性はルベル=ゼ下位貴族の子息達でした。
カルロス殿下は自国の学校に通っていてそこで彼等と親しくなったんでしょうが、専属の家庭教師達から学んでいたセシリア殿下は他国の下位貴族の子息達とは接点がありません。
その点、王族同士なら会う機会もそれなりにあったでしょう。
実際、当時のゴシップ誌を調べると御二人の仲睦まじさから恋人同士なのではと推測する記事が散見されました。
想いを隠しきれなかったのでしょうね」
「周囲の者達が気付く程にな。気付いていたところでどうしようもなかったが」
「警備隊員たちが聞いたもう1発の銃声はカルロス殿下が貴方に撃ったものでしょう。しかしそれは当たらず、貴方が入室した際に半開きになっていたドアを貫通しました。
そしてその距離では新たに弾込めする時間もなく、互いに1発目を撃ったら後は剣での戦いになります。
その戦いで貴方はカルロス殿下の右腕を斬り飛ばしました。
窓から落ちた右腕は貴方のものではなくカルロス殿下のものだったんです。
そして重症を負い丸腰となったカルロス殿下に止めを刺した後、愛する人を目の前で失ってパニック状態になったセシリア殿下の意識を飛ばしました。
ところで、貴方はこれが誘拐ではなく駆け落ちであることに気付いていました。
なにしろ脅されてる様子もないのにセシリア殿下自ら犯人達と一緒に逃げていて、犯人達の一人は、多少の変装はしていたかもしれませんが、噂のカルロス殿下と見受けられる。
セシリア殿下は戦争の講和条件として敵国であったガザール王国の第三王子との婚約が決まっていました。
生きているにせよ死んでいるにせよ、ここでカルロス殿下が見つかればこれが『誘拐未遂事件』ではなく『駆け落ち未遂事件』であることが明白になってしまいます。
これだけの騒ぎになれば、恐らく宮廷に紛れ込んでいるであろうガザール王国の密偵達や、現王と対立している王弟派の貴族の手先達がどさくさ紛れにこの部屋に来て真相を知ってしまうかもしれない。これは避けたいところです」
「ああ、下手をしたらやっと終結した戦争が再開しかねなかった」
「カルロス殿下を説得して身を隠させる時間的余裕も無い。だいたい駆け落ちまで決行してしまった殿下が今更言うことを素直に聞いてくれるとは思えない。
同盟国の王族とはいえ、部屋で戦闘が始まった時点で、カルロス殿下を殺害してその遺体を隠し、この事件を下位貴族子息達による誘拐未遂事件に偽装する以外の選択肢は貴方には無かった。
しかし、落ちたカルロス殿下の腕が既に目撃されています。
そこで貴方の考えた策は――
貴方自身の右腕を斬り落としてそれを隠し、外に落ちた腕を貴方の腕だと目撃者達に勘違いさせること、だったんですね」




