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2.事件概要(『左腕の獅子』より抜粋)

~以下、書籍『左腕の獅子』より一部抜粋~


 ◇◆◇


 シン王国王宮において戦勝1周年記念式典が開かれた日、西の空が紅く染まりだした夕方にそれは起きた。


 ダーン!ダーン!


「今の銃声じゃなかったか!?」

「あっちだ!渡り廊下の方だ!」


 王宮の庭の警備に当たっていた7番隊警備隊員達が、2発の銃声音を聞きつけた。

 銃声は現在祝賀会が行われている東宮と王族や関係者が住まう西宮を繋ぐ、いわば渡り廊下的な2階建ての建物からしたようだった。警備隊員達が建物に近づくと、確かに2階から剣を合わせる音や怒声が聞こえる。


「おーい!加勢にきたぞー!」


 何が起きているのか外からではさっぱり分からないが、ともかく中で何者かと争っているのであろう味方に声を掛けて隊員たちが更に建物に駆け寄ったその時、


 ドン!

「グアアアーッ!!」

「キャーッ!」

 ガシャーン!

 ドサッ


 男女の悲鳴が聞こえ、割れた窓ガラスとともに肘と手首の中間あたりで切断された男の右腕が降ってきた!


「おい!大丈夫かー!」

「通用口から入って部屋に行くぞ!続け!」


 隊員達はそこから最も近い通用口まで走って中に入り、現場の部屋へ向かう。

途中、やはり騒ぎを聞きつけたらしい屋内警備に当たっていた他の隊の者も合わせて十数名がドアの前まで来た。

 ドアには弾痕と思わしき穴が開いていることから、ここが現場で間違いないようだが、中から争うような物音はせず、戦闘は終結しているものと思われた。

 隊員達は中に入ろうとしたがドアには鍵が掛かっていて中に入れず、弾丸が突き抜けたらしい穴も角度が悪くほとんど中の様子を伺えないため、隊長が中に呼びかけた。


「おいどうなっている!ドアを開けろ!」


 しかし中から応答はなかったため、隊長は強行突入の判断を下す。


「ドアをぶち破るぞ!」

「はい!」


 隊中でも体格のいい者達が何度か体当たりを繰り返し、ドアが壊れかけてきた頃、部屋の中から怒鳴り声がした。


「待て!今開ける!」


 その声に体当たりを止める隊員たち。

 隊員達が警戒しながら待っていると、その数秒後、扉が開き、怒鳴りながら一人の男が現れる。


「俺の腕はどこだあああああああ!」


 怒鳴り声に加えて、細身ながらその長身と顔を半分まで隠す程の蓬髪、といった風体に一瞬隊員達は怯むが、男が警備隊の制服を着ていることから味方であることはすぐに判断できた。

 男の右腕は肘と手首の中間あたりで切断されていたが、傷口近くが布で縛られており、止血はしてあった。


「俺の腕、腕を寄越せええええええええ!」


 と男は叫びながら、隊員達をかき分け、窓から落ちた腕を持っていた隊員から腕を奪い取ると廊下を駆けていった。


 隊員一同はそれをポカンと見送っていたが、我に返った隊員の一人が部屋の中を指さして叫んだ。


「隊長!部屋の中を!」


 部屋の壁紙や調度品には戦闘によるものとみられる損傷があちこちに見られ、部屋中血塗れだった。

 中には肥満した大柄な男と、就寝着らしいワンピースを着た女の2人が倒れていた。

 男の方は、先程の片腕の警備隊員のものと思われる警備隊支給の剣を胸に突き立てられて絶命していた。

 その近くには男の武器であろうか同盟国ルベル=ゼ王国に特有の幅広刀が落ちていた。

 一方、女の方は少し男性から離れてうつ伏せで倒れており「う……あ……」と微かな唸り声をあげていた。

 隊員の1人が女に駆け寄り抱え上げて顔を確認し、その瞬間叫んだ。


「セシリア王女殿下!?」


「何!セシリア殿下だと!?」


 そこに倒れていたのはシン王国の第一王女セシリア殿下だった。


「殿下!お怪我はありませんか!?」


 こくりとセシリア殿下が頷く。まだ意識は朦朧としているようだが着衣の乱れも無く、脈も正常であり、大きな怪我などはしていないようだ。


「しかし何故セシリア殿下が……いや、考えるのは後だ!1班は警備隊本部にこの件を報告!そして医者を呼んで来い!念のため殿下を診てもらう!そして2班は片腕の男を追って連行してこい!事情を聴取する!残りはここで俺と待機!殿下を護衛する!」


 ウィリス7番隊隊長の命令により1班と2班は駆け出して行った。


 そして当日の内に以下のことが判明する。


 腕を切り落とされた男はバイロン・ベレスフォードといい、当日西宮の警備に当たっていた王宮警備隊9番隊の隊員。

 誘拐されかけたセシリア殿下は事件当日体調不良で式典には出席しておらず、西宮の自室で休んでいたところを3人の犯人が部屋に侵入した。

 その際、不審を感じた警備隊員1人が部屋に入り、誘拐を阻止しようとしたが、犯人達に鈍器で後頭部を打撃されて気絶した。

 しかし、気絶した隊員はすぐに意識を取り戻し、大声で他の警備隊員にセシリア殿下誘拐を知らせ、それを聞いた他の隊員達は警備隊本部に報告に向ったり犯人を追ったりしていた。

 なお、7番隊は庭を警備していたため、このような屋内の動きを知らなかった。

 9番隊員達は犯人達のうち2人を西宮内で見つけて切り捨てたが、セシリア殿下を連れているはずのもう1人には逃げられた。

 ベレスフォードが単独で逃げた最後の1人に追いつき戦いに入る。まずは互いに拳銃の打ち合いとなったが双方とも当たらずに剣による戦闘となり、ベレスフォードは右腕を斬り飛ばされた。その際飛んだ右腕が窓を破って外に飛び出した、握っていた剣は窓枠に当たり部屋の中に落ちた。

 右腕を斬り飛ばされたベレスフォードだったが咄嗟に左手で落ちた剣を拾い上げて相手の胸を刺した。

 7番隊が部屋の前で呼びかけた際すぐに返答しなかったのは、その時ベレスフォードは口と左手で右腕の傷口近くを縛って止血している最中であったためとのこと。

 誘拐犯の3人は同盟国ルベル=ゼ国の貴族子息達であった。自国がシン王国の同盟国と言いながら、実質属国扱いであることへの不満が犯行動機ではないかとみられている。


(中略)


 王女誘拐事件阻止の立役者バイロン・ベレスフォードはその功績により男爵位を賜った。

 そして翌年には個人戦トーナメントに参戦し初優勝を果たしたことで、「右腕を斬り落とされた後、咄嗟に左腕で剣を拾い相手を斬るなどできるものか」という一部からのやっかみ混りの疑義を退け、益々その名声を高めた。

 今、街では彼の綽名『左腕の獅子』の由来でもある蓬髪を真似た髪型の若者を多く見る。

 また、この事件のように戦闘中に利き腕を負傷する可能性もあることから、騎士団ではトーナメントで一定以上の実績を残した者などが希望した場合に限り、左腕での剣技の習得訓練を積ませることを検討しているとのことである。

 この英雄を生んだ我がシン王国とその王家に栄光あれ。


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