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1.取材の始まり

 エドは手紙での約束の時間より1刻程早くその屋敷に着くと、自転車を置いて、敷地内にある稽古場に向かった。

 稽古場では50歳前後と思しき1人の男性が剣を振って稽古をしていた。

 平均的な男性より頭一つ高いであろうかという長身、一見痩身と見える程に引き締まった上半身、キレのある剣捌き。

 しかしそれらよりも明らかな一つの特徴こそ、彼がこの屋敷の主、バイロン・ベレスフォード男爵であることを示していた。

 肘と手首の中間あたりで切断された右腕。彼は常の人と逆の左手で剣を振っていた。

 その通り名『左腕の獅子』が示すように。


 やがて男爵がエドに気付き、視線を向けたところでエドが挨拶した。


「初めまして、ベレスフォード卿ですね?リクスン大通新聞社のエド・アレンです。本日は取材をお受けいただきありがとうございます。いやあ、すみません、お約束した時間よりだいぶ早いのは分かっていたんですが、つい気が逸っちゃいまして」


「……構わんよ、客間に案内しよう」


 客間に通された後、10分程で着替え終えたベレスフォードが入室し、エドの正面のソファに腰掛ける。


 お茶を入れた侍女が退出したところでエドは話を切り出した。


「では改めまして。お手紙でもお伝えしましたとおり、本日はこの本に記載の内容についてお伺いしたく、よろしくお願いいたします」


 話しながらエドは1冊の本をテーブル上に置く。タイトルは『左腕の獅子』。出版されたのは今から23年前。

 シン国の戦勝1周年記念式典中に起きた王女誘拐未遂事件の顛末記録とその事件に至る背景を考察したルポで、事件の約2年後に出版されている。

 王女誘拐を企てた賊との戦闘中に右腕を失いながら左腕1本で賊を倒し、王女を守り抜いた英雄『左腕の獅子』ことバイロン・ベレスフォードの人気と相まって当時のベストセラーになっている。


「ああ、取材の前に聞きたいんだが、何故俺なんだ?そもそもこの本を書いたのは俺じゃない。この本は当時の王宮警備隊が国に提出した事件の報告書と各方面への取材を基にルポとしてまとめたものだろう?何よりこの本を書いたのは――」


 怪訝そうな表情のままベレスフォードは一呼吸置いて言葉を続けた。


「チェスター・アレン。お前の親父さんじゃないか?」


「実はこの本を読んで『これ事実と違うんじゃないの?』と疑問に感じた部分が色々と出てきまして、親父に聞いてみたんですが答えてはもらえなくってですね。しまいには『そんなに気になるなら自分で調べろ!』と怒鳴りつけられた次第で」


「ふむ、疑問に感じたとは例えばどの部分が」


「まずは事件名ですね。『これ王女誘拐未遂事件じゃないんじゃないの?』といったところでしょうか」


 これを聞いたベレスフォードは一瞬、僅かに顔色を変えたようだったが特に何も言わなかった。

 そんなベレスフォードの態度を特に気にする様子もなくエドは言葉を続けた。


「そんなわけでご協力願えませんか?」


「……俺に答えられることなら何でも答えよう」


「ありがとうございます。では早速、この本のこの頁からなんですが」


 こうしてエドの取材は始まった。


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