小さな小人のちょっぴり腹黒い物語 〜友達作りの冒険〜
「よし、冒険しよう!」
一人の小人が言った。
そこには、誰もいなかった。
それは当たり前。
なんせ、これから友達探しの旅に出るのだから。
「友達、できたらいいなぁ。」
小人は夢でも見るかのようにつぶやいた。
「よぉし、準備だ!!」
小人は、近くにあった大きな葉っぱにのぼって茎にかぶりついた。
「ガブッ、ムシャムシャ。」
小人は、どんどん食べていった。
すると、茎はなくなり、葉っぱだけが地面にふわりと落ちた。
もちろん、小人も落ちた。
ドテン、
「いてて。」
小人はおしりの方をさすった。
「腹ごしらえはできた!」
小人が立ち上がって叫ぶと、ちょうどよく、風が吹いてきた。
ふわっ
小人は地面ごとういた。
「なんで浮いてるんだ!!」
小人が驚くのも無理はない。
地面ごとに浮くなんてありえないのだから。
小人は、地面ごと浮いたのではなく、大きな葉っぱの上に乗っていたのだ。
葉っぱは風に揺られて、どんどんと進んでいく。
「すごいぞ!これならどこまでも行ける!」
小人は喜んだ。
しかし、葉っぱは大きな大きな池に落ちてしまった。
「わぁ!水の上にいるぞ!」
小人は喜んだが、このままでは陸に戻れない。
冒険を始めるどころか、まずは助かる方法を見つける方が大事になった。
「よぉし!」
小人は、助走をつけて、勢いよく飛んだ。
タタッ
小人は、なんと見事に着地をして見せた。
そこは、蓮の葉の上だった。
小人はピョンピョンと蓮の葉の上を移動して、とうとう陸にたどりついた。
「あー、楽しかった。」
小人がそう言って伸びをすると、
池から何かが顔を出していた。
「小人や。」
小人が呼ばれて振り返ると、鯉の老人が池から顔を出していた。
「なんだい、鯉さん。」
「わしの名前は、コイという。」
老人が自己紹介を始めた。
「うん、だからコイさん。」
「わしと友達にならんかね。」
老人に言われ、小人は悩みもせず、
「やだね。」
老人を見てそう言った。
「どうしてだい?」
老人はめげずにきいた。
「僕は、コイさんみたいなおじさんなんかと友達になって、森にバカにされるのはゴメンだからだよ。友達が欲しいなら、自分で冒険をしに行けばいいじゃないか。」
と、小人は冷たく言い放った。
老人は寂しそうに
「わしは、水がないと生きていけない。だから、この池から出ることはできないのだよ。」
小人に理由を説明した。すると小人はこう言った。
「ずいぶんと狭い世界だね。僕がジャンプするだけで越えられるくらいの世界なんてつまらないよ。やっぱりコイさんとは友達にはならない。」
小人はそっぽを向いて、そう言った。
「そうかい。それは残念だ。」
老人はそう言って、池の中に戻って行った。
「フン、年寄りめ。」
小人はその場所にその言葉を吐き捨てて、また歩きだした。
それから、しばらくしてションボリとしてこう言った。
「コイ、もう年なんだから食べればよかった〜。」
と残念そうに肩を落とし、よだれを垂らしたのだった。
ピヨピヨ、
上の方から鳥の声が聞こえた。
小人は
「そうだ!きっと高い所に行けば友達が見つかるよ。」
そう言って、上を見上げた。
さっき、鳥の鳴き声がした方を見ると、鳥の巣がある木があった。
「よし、あの木にしよう。」
小人は、その木に登り始めた。
「よいしょ、こいしょと。」
掛け声つきで、どんどんと木に登っていった。
そして、とうとう、鳥の巣まで来た。
親鳥はいなかった。
「やあ、小鳥さんたち。」
小人が声をかけると、やっと気がついたかのように、小鳥がこっちを見た。
「小人じゃないか。」
「わぁ、初めてみたよ。」
「小人って本当に小さいんだねぇ。」
と口々に小鳥が感想を述べた。
それから、小人が言った。
「その卵は、まだかえらないのかい?」
小鳥たちは言った。
「キミが、僕たちとお友達になってくれるなら教えてあげるよ。」
小人は、コイのときとは違い、腕を組んで悩んだ。
それから、こう言った。
「なぁ、小鳥さんたち。」
わくわくと、好奇心のある目で小鳥は小人の方を見た。
「なに?」
「小鳥さんたちは、空を飛べるね。」
小人は、当たり前のことを小鳥に聞いた。
小鳥は
「それは当たり前だよ。僕たちは鳥だから。」
と答えた。
すると、小人はこう言った。
「じゃあ、地面は走れるのかい?」
小鳥たちは困ったように言った。
「残念だけど、僕たちは空の動物だから、地面を速く走ることはできないんだよ。」
小人は少しつまらなそうに言った。
「それじゃあ嫌だ。鬼ごっこができない友達なんてつまらないよ。」
そう言った小人に、小鳥たちは食い下がるように言った。
「でも、僕たちだって、低く飛べば鬼ごっこはできるよ。」
小人は、コイツらはだめだ、とでもいうかのような目を小鳥たちに向けていった。
「それじゃ、鬼ごっこにならないじゃないか。小鳥さんたちは、タッチされそうになったら空を飛ぼうとするだろうけど、僕は逃げられないんだ。そんなのヤダね。」
小鳥は、それでもまだこう言った。
「だったら、僕たちは、絶対空高く飛ばないよ。」
「それじゃ、君達は小鳥とは言えないね。自分にプライドを持ったら?僕はちゃんと小人としてのプライドを持っているんだ。君たちみたいな、自分にプライドをもたない友達なんて、馬鹿にされるだけだよ。」
小人は、そう言うと、木から垂れ下がっているつるに捕まって木を降りた。
小鳥たちは、さびしそうに、また冒険を始めた小人を見守った。
「あ!」
小人は、思い出したように、そして少しさびしげに
「卵とってくればよかった。あ〜、食べたかったなぁ。」
とよだれを垂らした。
バシャッ、バシャッ
今度は、川の方から、何かを叩きつけるような音がした。
小人は、さっそくそこへ向かっていった。
すると、大きなクマが、川の魚を陸に打ち上げていた。
小人は、熊に近寄って行った。
「ねぇ、熊さん。」
熊は、小人に気づき、
「なんだ?」
と返事をした。
小人は、
「熊さん、この魚を僕にくれない?腹ぺこなんだ。」
と言った。
するとくまは、
「じゃあ、おれと友達になるかい?」
と言ってきた。
小人は、あからさまに嫌そうな顔をして、しかし、よくよく考えてみた。
くまは、小人の返事を待った。
「それは、だめだね。」
小人は言った。
「なぜ?」
熊は聞いた。
「だって、食べられちゃうかもしれないじゃないか。それに、君達は冬眠をするじゃないか。僕は、一人で、春が来て君が起きるまで待っていられるほど、気は長くない。」
小人がツンケンというと、
くまは怒ってしまった。
「今すぐ食べてやろうか!」
小人は、おびえるそぶりも見せず、こう言った。
「それはゴメンだね。そんな事をしようとしたら、僕は、逃げるよ。そして、くまさんがそういう動物だってことを森中に言いふらすんだ。そうして、蜂さんを呼んできてやる。」
小人の堂々とした態度とひるまない姿に、くまはこう言った。
「それは嫌だよ。」
「じゃ、さよならだね。」
小人は、そう言うと、またどこかへ歩き始めた。
しばらくすると、またがっくりと肩を落とした。そして、
「魚、もらってくれば良かった。」
とまたよだれを垂らした。
こうして、どんどんと友達になろうと言ってきた人をひどい言葉で罵っては、食べ物で公開をし続け、とうとう、小人は森から出てしまった。
「なぁんだ、結局一人じゃないか。いちばん一人が気楽かな。とりあえず、森に、僕にあう友達はいないんだな。」
そう言って、また今度は街へと向かって行った。
☆★おしまい★☆