何でも知ってる石井さん(中)
結局昨日の約束通りにジュースを奢ってもらった僕だった。
ウチの学校には八十円の紙パックと、普通のメーカーの自動販売機があるんだけど、もちろん紙パック一択だ。
「イチゴ牛乳がいいな」
「高い方の自販機で選んで?」
そんなに気を使われると申し訳なくなるよ。
「いやいや、これがいいんだ」
「……遠慮してない?」
「僕、甘いの好きなんだよね」
石井さんは何だか申し訳なさそうにしてるけど、安いので充分だよ。ちょっと探し物を手伝っただけだし。
「……優しい」
「普通だって」
ぼそりと褒められるのは、悪い気はしないけど気にしないで欲しい。
「それじゃ、ごちそうさま」
今日は友達と遊ぶ約束をしてるし、今度こそ石井さんとの御縁も終了だね。これからもクラスメートとしてよろしくして欲しいな。
「あの、お守り、探すの手伝ってくれてありがとう」
「もういいって」
あんまり気にしないで良いのに……
「また、RINE……していい?」
「いいよいいよっ! じゃあまたね」
やば!もう友達待ってるな急がなきゃ!
「…………福岡君……博也君……優しい……ふふふ……」
*
最近、石井さんが割と近くに居る事が多い。たまたま席替えの時に隣の席になったせいかな?
知らなかったんだけど、僕と仲のいい女子と交友があったみたいで、喋ったりしてる時なんかにも横に居たりする事が有る。
「ねえねえ博也君、昨日のドラマ見た?」
「見たよ。まさかあっちが犯人だったなんてねぇ。有香里ちゃん分かった?」
「え~、分かる訳ないよ~」
「私、原作読んだ事あるから……知ってたよ」
「石井ちゃん、知ってたの~? この後の事ネタばれしないでね?」
こんな感じで、有香里ちゃんと話していると、なんとなく参加してくるんだ。
石井さんは、どうやら原作派らしい。
「石井さん、よく本読んでるもんね」
「福岡君、オススメの本、たくさん有るよ」
僕はあんまり本を読まないから、遠慮しておこうかな。
それより有香里ちゃんの事、なんとなくイイなって思ってるから仲を取り持ってくれたりしないかな?
「ネット小説も面白いから、スマホ貸してくれたら、オススメの本、ブックマーク出来るよ?」
「あ、そうなの? まあ、一応お願いしようかな?」
ずいぶん熱心に勧めてくるし、減るもんじゃないしね。見られて困る物はスマホに入って無いからどうぞ?
それで有香里ちゃんの事よろしくしてくれない?
石井さんがタプタプと僕のスマホを触っているので、有香里ちゃんと昨夜のドラマで盛り上がる。
「私のスマホと機種が違うから……時間かかってごめんなさい」
ちょっとして僕はスマホを返してもらった。今度、すごくヒマな時にでも見る機会が有るかな?
*
ここ最近、よく石井ちゃんに会うなあ。
昨日は駅前の本屋で会ったし、このあいだはコンビニ。なんだかんだ、縁があるんだろうなあ。
今日もゲームショップで石井ちゃんと出会った。
「石井ちゃん、よく会うね?」
「あ、博也君。ホントによく会うね」
まあ、今日は楽しみにしてたゲームの続編の発売日だしね。
親しくなるまで知らなかったけど、石井ちゃんは色々ゲームをするみたいだ。僕がやった事のあるゲームを全部やった事が有るって聞いた時にはビックリしてしまった。一番好きなゲームが一緒だったり、やってるスマホゲームも同じだったりして以外と話が合う。無口だけどそれも案外気にならないし、なんだか安心できる子なんだよね。
「……博也君、有香里ちゃんね、彼氏出来たらしいよ」
「……マジ?」
石井ちゃんが、申し訳なさそうな顔で話を振ってきた。
ちょっと前は結構いい感じだと思ってたんだけどな……。あんまり最近はからんでなかったな。いつの間にかって感じだけど、まあ色々あるもんな……。
「……元気出して?」
「ありがと石井ちゃん。別にショックじゃないよ。明日、有香里ちゃんに聞いてみようかな?」
「…………うん。そうしてみたらいいと思うよ」
聞ける機会が有ったら、明日本人にそれとなく聞いてみよう。
「ところで、昨日カバンが壊れたから、買いに行くよね?」
「あれ? 僕、言ったっけ?」
「……昨日言ってた」
そうだったっけ?まあ、言ったんだろうな。
「一緒に買いに行こ?」
「あー、そうだね一緒に行こうか」
僕はあまりセンスに自信が無いので助かるな。よろしく石井ちゃん。
次の日、有香里ちゃんは学校に来なかった。……先生が言うには事故に会って入院したらしい。あまり説明が無かったので詳しくは分からないが、家族からの希望でしばらくお見舞いも禁止らしい。早く元気になってくれたらと願うしかないよね。
*
しまった……弁当忘れちゃった。
朝、母親が作ってくれた弁当が、たまたまいつもと違う場所に置いてあったんだ。忘れないようにしなきゃなと思って、しっかり忘れちゃった。
「ヒロ君どうしたの?」
困っている僕に気がついたのか、メグが僕に声をかけて来てくれた。
「弁当忘れちゃったんだよね……」
「じゃあ、私のを分けてあげるよ?」
「マジ? ありがとう!」
さすがメグ。持つべき物は、気の効く女友達だよね。
「ヒロ君のすきな甘い玉子焼きもあるよ」
「あれ、そんなこと言った事あったっけ?」
「いつだったか忘れたけど、玉子焼きは甘ければ甘いほどいいって力説してたよ」
だったっけ?たしか母親には言った事があるけど……まあ間違いではない。きっとメグにも言ったんだろうな。
「お、甘くてウマいね。ウチの味付けそっくりだ」
「ほんと?良かった」
すげえ僕好みの味付け。ホントに気が合うっていうか、食の好みも一緒なんだなあ……。
「そう言えば、昨日は家に帰るの遅かったよね?」
「あれ、なんで知ってるの?」
「……たまたま見かけたから。普段は歩きで十五分だけど、月曜日と水曜日はコンビニによるから二十分余計にかかるけど、昨日はさらに三十分遅かったから」
急に饒舌に話始めるね?というかものすごく細かいんだけど……どういう事?
「って言ってたから」
「いや、怖いんだけど」
「……どうして三十分遅かったの? たまたま見かけたんだけど」
目が真剣で怖いよ。たまたま見かけたんなら声くらいかけてくれればいいのに。
「ちょっとお腹の具合が悪かったんだよ」
「ホントに?」
「そんな嘘ついてどうするんだよ?」
「ホントに? 信じるからね?」
「そりゃ、ウソついてもしょうがないから」
ずいぶん追求されたが、僕の帰宅時間の件は結局うやむやにされた。
ハートフルコメディが書きたかったのに、テンプレ感の漂う話になってしまいました。
申し訳ありません。