青虫
それは、眩しいほどに青かった。
連日の夏日を記録更新する五月のカラリと晴れた日曜日の朝。
「今日も暑くなりそうやな…。」
僕は俯いて、早朝の人気ない商店街をコンビニに向かってほとほと歩いていた。
仕事に追われ、帰って酒をあおって寝るだけの日々が続いていた。
酒を飲まずには眠れなくなったのはいつからだろうか?
それでも、充分な睡眠が取れず、夜中に目覚めては、布団の中で悶々とする日々……。
「ハァ~。」
大きな溜め息を吐いたその時だった。
疲弊した僕の目に、一際眩しい色が飛び込んできた。
「青い…。」
それは、まるで翡翠を思わせるほどに、発光するような瑞々しい青の物体だった。
道路の路側帯の上を、ゆっくりと尺を取るように横切っていく。
「こんなところに…。」
それは、実に見事な『青虫』だった。
近くにキャベツ畑があるわけでもないのに、実によく肥え太った野太い青虫は、ここが車通りもある商店街の道路であることもお構いなしに、悠々と横切っていくのである。
僕は、しばらく、その青虫の遅々とした歩みに目を奪われていた。
途中、自転車が猛スピードで通り過ぎたときはヒヤリとしたが、青虫は我関せずの神経で、のたりのたりと進んでいく。
やっと、道路を渡りきった青虫は、相変わらずのマイペースで電柱の陰の茂みに消えていった。
数分間、棒立ちになっていた僕は、大きく息を吸って、明るんできた東の空を見上げた。
僕の鬱々とした気持ちはまるで憑き物が落ちたように晴々と澄み渡っていた。
「今日も暑くなりそうや!」
僕は、キラキラと輝く朝日を振り仰ぐと、コンビニに向かって駆け出していた。
『青虫』を見かけて書いた働く人を応援する小品です。日々頑張って働く人達が上を向けますように。
作者 石田 幸