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HSP  作者: 草薙 鏡二
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6.拒絶

「ヒッ!」


元来気が弱いのか、それとも瀬理が言っていた対人恐怖症が影響しているのかは知らないが、鳴美などは悲鳴を上げる始末だった。そんな中、三穂だけは落ち着いていた。


「ええ、そうですよね。そうなりますよね」


頷く三穂。しかし、でも…と続けた。


「それでも、話を聞くだけ聞いてくれませんか?」

「だから、ふざけんな」


先ほどまでとは打って変わって鋭い視線で行人は三穂を睨んだ。落ち着いているとはいえそこは小学四年生、まだ十歳である。二十を超えた成人の男に凄まれて怖いわけはない。

それでも恐怖を腹に隠してグッとこらえて三穂は行人から視線を外さなかった。本当は泣きたいほど怖いのに。

無論、行人だってこんなことやりたいわけじゃない。小学生のガキじゃあるまいし、好きな子イジめてちょっかい掛けたいなんてことじゃない。第一、相手は子供なのだ。

だが、だからと言って今の発言が許容できる内容でないのも事実なのだ。就職先は決まっているとはいえ、そこは何年生き残れるかわからない世界なのだ。自分一人でも手一杯なのに、とてもじゃないが他人を養う余裕なんてあるわけがないのだから。


「結局最後は私たちを養ってくださいに行きつくわけだろ? んなことできるわけねえだろうが」


自然、舌鋒も鋭くなる。普段の言葉遣いもあまり良い方だとは言えないから、余計に威圧的な言葉遣いになり、義妹たちは委縮するばかりだった。茅乃と宮乃、鳴美辺りはもう泣きそうになっている。


「お、お兄ちゃん…」

「怖い…」

「ハッ。そうだな、怖いよなぁ?」


茅乃と宮乃は抱き合いつつ震えながら、それでもコクコクと頷いた。


「だから、こんな怖いお兄ちゃんのところにいないで、家に帰れよ」

「それは…」

「だ、だって…」


茅乃と宮乃が泣きそうな表情になって俯いてしまう。そこには、先ほどまで上機嫌でお菓子を食べていた二人の姿はもうどこにもなかった。


(…マズい)


そんな二人の姿を見て、一番狼狽しているのは実は行人自身だった。これはどこからどう見ても成人男性が子供をイジめている姿である。

内容が内容だったためについ感情的になってしまったが、だからと言って子供を…それも十歳に満たないような子供を泣かせていいわけがないのだ。ここだけで考えればどうしようもない男だったとはいえ、決して手は上げなかった父親の方が余程マシである。


(あーもう!)


ガシガシと頭を掻く。そんな、何でもない行為でも今の彼女たちに恐怖を与えるには十分らしく、皆泣きそうな顔になっていた。…と言うより、茅乃と宮乃にいたってはもう泣いていたが。


「う、うえぇぇぇ…」

「ヒック…ヒック…」

「はぁ…」


泣いている茅乃と宮乃の二人の姿にやるせなくなりながら、


「その…悪かった」


行人が頭を下げた。


「え?」

「お、お兄ちゃん?」


咲耶と鳴美がビックリした表情で行人を見た。瀬理と三穂は何も言わないが、同じく驚いた表情をしている。泣いていた茅乃と宮乃も、鼻を鳴らしながら行人に顔を向けた。


「泣かせるつもりはなかった。怖がらせてすまなかった」

「お、お兄ちゃん…」


双子の次に泣きそうな表情だった鳴美が、その言葉に救われたかのようにホッと胸を撫で下ろした。事実、目尻には涙が浮かんでいて、もう少し対応が遅れていたら茅乃と宮乃のように泣いていただろう。


「それじゃあ、話を聞いてくれますか?」


三穂がここぞとばかりに続けた。が、


「いや、それとこれとは話は別だ」


そう言って、行人は自分の分のお茶を持って立ち上がったのだった。


「え…」


行人の返した言葉に咲耶が絶句した。


「君らの事情は知らねえけど、俺に君らを養うなんてどう考えても無理なんでな。今日はもう遅いから泊めてやるけど、明日になったら家に帰れ」


布団は隣の和室の押し入れに幾つかあるから、好きなの使えと言い残し、行人は自室へ向けて歩き出した。


「い、いいのかよ」


その足を止めたのは、瀬理だった。


「あん?」


行人が瀬理に振り返る。


「わ、私たちを好きにさせて。色々物色するかもしれないぜ?」


それは、本心ではなかった。少しでも行人を繋ぎ止めたいためにとっさに口から出てきた言葉だったのだ。が、


「お好きに」


瀬理の目論見を行人は即座に否定した。


「え…」


あまりにアッサリした物言いに、瀬理が絶句する。そして絶句したその表情を見た行人が鼻で笑う。


「この家に盗るものなんか何もねえよ。あるんだったらこっちが教えてほしいぐらいだ」


いいから夜が明けたらとっとと帰れよと付け足すと、行人はそのまま振り返らず、今度こそ居間を後にしたのだった。


『……』


取り残された行人の義妹たちは、お互いに顔を見合わせ、そして誰も喋ることなく、そのまま俯いてしまったのだった。

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